能力が全ての学園で無能とされた俺だけど実は最強クラスだった
ゆずリンゴ
第1話「魔剣士学園」
「……我が幻想と力をここに実現せよ!―――エンボディメント!」
学園の入学生が最初に向かうことになる大教室にて、そんな詠唱が唱えられる。
ここ『王立魔剣士学園』はこの世界を襲う脅威から、世界を守る『魔術師』と『剣士』その両方を育成する機関の1つだ。
そんな機関の中でも『王立魔剣士学園』は飛び抜けてレベルは高く、もちろんそれに見合うだけの能力が求められる。
入学生のほとんどは、質のいい武具に教師によって鍛えられた貴族か名のある戦士の子供であり、そうでない場合でも王都出身の者が多い。
そんな中、農村出身の青年にも関わらず入学試験に合格した者がいた。
彼の名は「センジュ・ウィザー」と言い、田舎で猟師を営むウィザー家の一人息子だ。
その容姿は所々黒い髪が逆だっており、目つきが悪い。けして性格が悪い訳ではないのだがその目つきのせいで喧嘩を売っている様に見られてしまうことがよくあった。
そんなセンジュの能力は他の生徒と比べて突出していることは無いが『剣術』と『魔術』その両方に同等の適正を持っていた。
そして何よりセンジュには剣術と魔術を使い分ける技術が元よりあった。
それは猟師である父の元で培ってきた経験よって鍛えられたもので、剣術と魔法を匠に使い分ける戦闘スタイルは格上の相手にも抗う事が出来る。
剣士と魔術師は共に弱点を突く存在故に、それを相手によって使い分けることの出来るセンジュは強かった。
そうしてそんなセンジュにも『儀式』の順番がついに回ってきた。
この儀式は学園では入学した者に、生徒にこれからの期待を込め、本人に適した装備を生み出すことの出来るアーティファクトが与えられる。
そうして生まれた装備は入学したばかりの者では上手く扱う事が出来ない程に力なものであり、一生モノの装備となる。
もちろんアーティファクト自体も高価なものであるが故に入学時点で皆に与えられるのはこの学園くらいである。
「我が幻想と力をここに実現せよ!エンボディメント!」
そうセンジュが呪文も唱えると先程までウィザーの触れていた水晶玉の様な物は姿を変え―――1つのベルトに姿を変えた。
その容姿は普通のベルトとはかけ離れたもので……
黒を基調とした所までは良いが、その中央にはゴツゴツとした謎の固形物が付いている。
「な、なんだこれ……!?」
周りの生徒らは、大剣やアックス等の武器に加えてそれぞれに鎧、人によってはネックレスや指輪などが付いているのに対して、
センジュは腰に巻かれたベルトのみと異様な状態である。
「おいおいセンジュは装備はベルト1本かよぉ!」
センジュと同じ新入生である金髪と右目に雷の様な傷を付けているのが特徴的な男がそう口にした。
そんな彼、「マルデ・カマセーヌ」はセンジュをとあることを理由に目の敵にしているのだが……その理由は先日行われた入学試験の少し前に起こった事件にある。
入学試験の会場に向かう最中、たまたまセンジュは前を歩いていたマルデの
もちろん自分に非がある事は理解していたためセンジュも謝罪をしたのだが、センジュの鋭い目つきが気に食わなかったマルデは、許すことはせずに「痛い目を見せる」という名目で決闘の申し出をしてきた。
勿論最初はセンジュも断ろうとしたが、この実力至上主義の学園。決闘の申し込みを断れば周りから『弱いもの』という烙印が押されかねない。
そうした思考の末に決闘を受け、先に相手の膝をつかせた方の負けという簡単なルールで行われたのだが……マルデの足元に魔術で『氷の床』を生成し滑らせることで勝利という拍子抜けな結果になったのだ。
そして、このルールを提案したのがマルデだったこともあり、恥をかいたマルデが一方的に逆恨みする結果となったのだ。
「……いや、きっとこのベルトには凄い能力が隠されているんだ!」
「へーとてもそうは見えないけどなぁ?
まぁ、なんにせよ俺様の大剣には適わねぇと思うけどな!ギャハハハ」
「……ぐっ……」
センジュの悔しそうな表情を見ると満足したのか、マルデは他の生徒達と装備の自慢合戦に参加するためにその場を離れた。
「大丈夫だ……まだ分からないけどきっと凄い装備のはずなんだ……」
◆◆◆
「ふむ、これにて儀式は終了と。
どうやら既に自らの力を試したくて仕方が無い者が沢山いるみたいですが……そうですね、実際に腕試しがてらの模擬戦を行います。―――とは言え、まだ使い慣れていない武具。力加減を誤ってはいけない。最初の20分それぞれ自主訓練をした後に1対1、場合によっては2対2での模擬戦を行うことにします」
大教室の教壇に立つのは覇気の無い緑頭のモッサリとした頭のメガネをかけた教員だ。
名はミドリ・バフロム。
1年生の担当教師だ。
「それでは各自、外にある訓練場へと向かうように」
他の生徒が意気揚々と訓練場へと向かうがセンジュの足は重かった。
自分には大丈夫だと言い聞かせたが心の底では不安に駆られており……
「……はぁ」
「―――大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈……!?」
「あ、いきなり話しかけてしまって申し訳ありません……気を落としていた様なので」
センジュに話しかけたのは気弱そうな白髪の少女だ。髪はかなり長く、白い帽子を深々と被っている。
「いや、別に大丈夫」
「えーと……怒ってませんか?」
「怒るも何も、君は心配してくれただけじゃないか」
「……ありがとうございます」
いきなり話しかけてきた女の子……何も悪い事はしていないにも関わらず謝罪をし、最終的に感謝までしてきたあたり相当に気弱な性格なのだろうか、とセンジュ考えた。
そしてこんな性格なのになぜこの学園に来たのかと、この学園に入るということは世界に
そうしてやっと訓練場に到着した頃には既に訓練場には全生徒が集まっており……
「ふむ、これで全員きた様ですね……それでは、各自で20分間の訓練を始めてください」
そんなミドリの一言で、訓練場からは土人形への攻撃による炸裂音が鳴り響くが―――
「……俺は何をしたらいいんだ……」
他の生徒の様に武器がある訳でもなければ肝心のベルトの使い方は分からないのでセンジュは土人形を前に固まっていた。
「おやおや、君は……センジュ・ウィザーだったかな?先程から固まっている様だがどうかしたのかい?」
「あ、実は……俺の武器なんですけど使い方が分からなくて……」
そう言ってセンジュはベルトを指さす。
「ふむ、まぁ初めて使うのだからどのような能力が隠されているかは分からないのも当然……まずは手始めに入学試験の時に使っていた魔術でも撃ってみなさい、もしかすると魔術の威力を底上げされているかもしれません」
(そうか……その可能性もあるよな)
「メラ!……あれ?メラ!」
手始めに炎属性の初級技の1つを撃つが何も起こらない。
「……メラステラ!」
今度は中級の魔術を唱えて見たが、またしても何も起こる事は無い。
「これは一体……?」
「まさか」
この異常な状況の理由に心当たりがあるのか、ミドリはメガネを1度クイッ、とするとセンジュのベルトに手を伸ばした。
「な、なんですか」
「……やはり、外れない」
「え」
「このベルトですが……呪われています」
「えぇぇ!?」
「まさか、再び呪いの装備を生み出す者が現れるとは……」
ミドリから口にされた言葉にセンジュは頭を悩ませてしまう。
呪いの装備についてはよく分からないが、ベルトを外すことができないというのは死活問題である。
「これは面白い、きっと魔術が使えなくなったことも呪いの1つでしょう」
「全く面白くないですよ!だって……魔術な使えないなんて、それにベルトが取れないつって言うことはトイレとかの問題が……」
「確かにそれは問題ですね」
「……本当に最悪だ」
「ですが悪い事ばかりでもありません」
「は……?」
「呪いの装備というのは、重いデメリットを代償に強大な力を与えるのですよ」
「いや、でもそんな感じは……」
事実センジュは力を得たこと実感などない。
「今はまだ、真価を発揮出来て居ないのです。以前に似たようなことがありましたが真価を発揮した時、他の人よりもずっと凄い力を発揮していましたのをよく覚えています」
「その事について、詳しく教えてください!」
「いえ、もうその生徒が卒業したのも20年も前の事なので詳しくは覚えていないのですよ」
「……20年前!?」
「その上、王直属の騎士という名誉を拒み、ごく普通の傭兵団に所属したのです。
今はどうか分かりませんがもしかすると既に―――っと、どうやら既に20分経っていた様です」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
なんと、気になる所で話を切られてしまった。それにしてもミドリの容姿は20代後半に見えるのだが先程の話を考えるに40を優に超えている事になり、その事でもセンジュは頭を悩ませることになってしまった。
その上、訓練場で特に何も出来なかったセンジュの模擬戦がついに始まってしまう―――
――――――――――――――――――――
初めましての方は初めまして、そう出ない方はいつもお世話になっておりますゆずリンゴです。
今回は苦手なタイプのジャンルへの挑戦として描き始めてみた長期予定の作品となっております。
週2〜3話のペースでの投稿予定ですが、よければ応援よろしくお願いします。(3話までは続けて出します)
次の更新予定
能力が全ての学園で無能とされた俺だけど実は最強クラスだった ゆずリンゴ @katuhimemisawa
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