聴こえないはずの声が聴こえる?統合失調症の悩み

星咲 紗和(ほしざき さわ)

本編

突然、耳元に誰かの声が聞こえる。何気ない一言かもしれないが、内容は決して好ましいものではなく、むしろ自分を責め立てるようなものだ。「お前はダメだ」「誰もお前を必要としていない」など、心に突き刺さる言葉が次々と飛び込んでくる。この声が現実のものか、それとも自分の心が作り出した幻なのか、その境界がはっきりしない。これは、統合失調症という病を抱える人々がしばしば体験する「幻聴」と呼ばれる症状のひとつだ。


突然現れる幻聴


私たちは、日常的に多くの音に囲まれている。車の音、風の音、そして人々の会話。しかし、統合失調症を患う人々にとって、これらの日常の音に加えて、実際には存在しない「声」が聞こえることがある。この「声」は、時には周りの人が話しているかのようにリアルで、まるで隣の部屋から誰かが話しかけているように感じられることもある。


私が初めて「声」を聞いたのは、まだ病気を発症する前だった。ごく普通の一日、家で静かに過ごしていたときだった。突然、誰かが私の耳元で話しかけてきたような感覚がした。振り返っても、誰もいない。しかし、その声は明確に聞こえた。最初は、空耳か何かだろうと気にも留めなかったが、次第にその声は頻繁に現れるようになった。しかも、その内容はますます不快なものになり、次第に私の心を追い詰めていった。


幻聴と現実の区別


統合失調症の幻聴の厄介な点は、現実と幻の区別がつきにくいことだ。幻聴が始まったばかりのころは、聞こえる声が本当に他の人から発せられたものだと錯覚することが多い。たとえば、近所の人が何気なく話している声が、自分に対する批判に聞こえることがある。また、実際に隣の家で話している会話が、自分を責めるように変換されてしまうこともある。このように、現実の音と幻聴が混じり合い、どちらが本当なのか判断することが非常に困難になる。


ある日、私は自分の家でリラックスしていた。突然、隣の部屋から誰かの話し声が聞こえた。耳を澄ませてみると、それは隣人の声のようだったが、内容が私に対する批判に感じられた。「彼は何を考えているんだろう」「なんであんなことをするのか理解できない」というような言葉が、まるで私を攻撃しているかのように響いた。しかし、よく考えてみると、その声が本当に聞こえているのか、私の頭の中で作り出されたものなのか、わからなくなってしまうのだ。


幻聴の感情的な影響


幻聴が持つ影響は、単なる聴覚的な体験に留まらない。それは、心の奥底にまで深く侵入し、感情や思考に大きな影響を与える。たとえば、幻聴が批判的な内容であれば、その言葉に傷つき、自分自身を否定的に捉えるようになる。自分が無価値だと思い込んだり、周りの人々に嫌われていると感じたりする。これが長期間続くと、うつ状態や自己否定感が強まり、日常生活に支障をきたすことがある。


私自身、幻聴に悩まされる日々が続いたとき、気がつくと自分のことをますます卑下するようになっていた。「自分は何をやってもダメだ」「周りの人は皆、自分を嫌っている」といった考えが頭を支配し、次第に人と会うことすら億劫になっていった。外出するたびに、他人の声がすべて自分への悪意や批判に聞こえるようになり、ますます孤立していったのだ。


幻聴への対処法


統合失調症において、幻聴は非常に一般的な症状であり、その対処法は個人によって異なる。しかし、いくつかの有効な方法があることがわかっている。まず、適切な薬物療法が重要だ。抗精神病薬を使用することで、幻聴の頻度や強度を軽減することができる。また、定期的なカウンセリングや精神科医との面談も効果的だ。話すことによって、自分が感じていることを整理し、現実と幻覚の境界をより明確に理解する手助けになる。


さらに、ストレス管理も大切だ。統合失調症の症状は、ストレスが高まることで悪化することが多い。そのため、日常生活でのストレスを軽減し、リラックスできる時間を持つことが推奨される。瞑想や深呼吸、趣味に没頭することなど、リラックスする方法を見つけることで、幻聴が和らぐこともある。


私の場合、声が聞こえるたびに、まずは冷静になって自分に問いかけるようにしている。「この声は本当に現実のものか?それとも、私の頭の中で作られたものか?」と。そして、できるだけその声に反応せず、無視するよう努めることが大切だと学んだ。もちろん、これは簡単なことではないが、少しずつでも自分の心をコントロールする方法を見つけていくことが重要だ。


幻聴と共に生きる


統合失調症の幻聴は、決して完全に消えるものではない。薬や治療によって軽減されることはあっても、完全に治癒することは難しい。それでも、この病と共に生きる方法を見つけることは可能だ。幻聴が聞こえても、それに引きずられず、自分の生活を続けるための方法を学び、適切なサポートを受けることで、より良い生活を送ることができる。


最も大切なのは、孤立しないことだ。家族や友人、医師など、自分を支えてくれる人々と繋がりを保ち、自分の体験を共有することで、少しずつ幻聴の影響を和らげることができるだろう。幻聴は厄介で、恐ろしいものに感じるかもしれないが、それに押しつぶされず、自分自身を取り戻すための道は必ずある。


幻聴が聞こえることは、確かに苦しい経験だ。しかし、その中で自分を失わずに、どう対処していくかを学ぶことが、統合失調症と向き合う上での重要な一歩となる。

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