五十八話 人生を

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 戻る最中、巡回中の蒼冥と出くわした。子どもを抱える暗翔に目を丸くした彼は。


「失礼……その、子育て中とは……」


「違うわ。勝手に想像するなっ」

 

 短いやり取りを交わすと、巡回に戻る必要があると蒼冥がどこかに姿を消していった。

 やっとの思いで人混みを駆け抜け、屋上に戻って来た時には、既に花火が打ち上がっていた。


「に、兄様……え、まさか」


「お姉ちゃん!」

 

 二人の姉妹が再会。すると、夜雪が涙を流しながら、そっと抱きしめていた。

 オレンジ色の花火舞い上がる。紅舞が目の前にやってくると、目を瞑った。唇と唇が、重ね合う。軽い感触が押し当てられた。ふわり、とシャンプーの香りが鼻をつつく。


「にゃにゃ!? 暗翔君ッ。不純異性交遊だにゃっ!」


 こちらの存在に気が付いた猫先生が、叫び声を上げながら近寄ってきた。すると、夜雪までもがキスをしていたという事実を把握してしまう。

 強引に肉薄した夜雪が、自らの胸を押し当て、半端強制的にキス。


「もぅ! 全員纏めて登校停止にゃよ!?」


「猫先生、俺は被害者だと思うんですけどね……」


「お兄ちゃんっ。ちゅ!」


 さらに頬に可愛げのある唇が張り付く。


「く、暗翔君っ……最低だにゃ。まさか、幼女好きとは……」


「だから俺は被害者なんだよ……」


「大丈夫ですわ、兄様。そんな兄様も受け止める寛大さを夜雪は持っていまして」


「ちょっとちょっと! それって普通に犯罪じゃないのかしら。未成年暴行とか人間失格ね」


 薄暗い炎を宿した紅舞が、睨みを効かせてくる。


「違うからな、夜雪。それと勝手に余罪を増やすな、紅舞」


 あはは、と暗翔を除く全員が笑う。つられて、暗翔も柔らかく微笑むと、花火が祝福するように、弾けた光が三人を包み込んだ。

 ――何者でもない人生。今からでも、遅くはない。一歩踏み出せば、自分の望んだ物が手に入る。そのことを、やっと知った。

 否――紅舞や夜雪と出会えたからこそ、組織という居場所から飛び出せた。

 暗殺だけを行う人生ではない。暗翔の望む普通の日常が、これからも続いていく。

 紅舞と夜雪に顔を向ける。天に手を伸ばすと、開かれた手のひらが何かを掴むかのように閉じられた。

 ――ここが出発点だ。

 

 

「『第ゼロ章』の開幕だ――あぁ、始めようか。仕事暗殺を――いや、仕事人生を」




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 このページをご覧の皆様、ここまで読み進めてくださり、誠にありがとうございます。

 私事ではありますが、5月から8月までの四ヶ月間、色々と騒動が起こりまして……住所環境も、来年度から変わる次第です。

 日々思うのですが、やはり日常という現状が一番幸せだと感じております。

 そんな普通の日常を望むのが、本作の主人公である暗翔。日常が一つのテーマになっていました。


 さて、本作の概要について触れます。

 世界最強の暗殺者が、史上最悪と謳われた能力ギフトを手にして……。

 というのが、大まかな設定です。黒城暗翔というキャラクターは、へらへらとした表向きの顔と、裏の冷酷さを持ち合わせています。彼は、本作を自由自在に謳歌していましたね。

 一ノ瀬紅舞について。本作の裏主人公は、彼女と言っても過言ではありません。

 一章の【ヴラーク】戦では、暗翔に助けられました。しかし、最終章では、反対に紅舞が暗翔を救う番。

 心身ともに、一番成長を感じられたキャラクターなのかなと考えております。

 弥生夜雪について。設定上は厨二病全開のオタク……としたかったのですが、中途半端気味に終始なってしまいました。夜雪というキャラクターは、非常に魅力的かつ、扱いが難しかったです。

 

 

 

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 改めて、読者の皆様全員に、感謝申し上げます。

 そして、本作の登場人物達にも。暗翔、紅舞、夜雪、猫先生、蒼冥。全員が舞台に上がってこその物語でした。

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世界最強の暗殺者にとって、学園無双なんて簡単過ぎる仕事だろう? 座闇 白 @natukawa5129

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