五十七話 矛盾
火花を散らす二人の視線。最初に暗翔が銃口をお菓子に向け、正確な位置で腕を固定。息を止め、最大限誤差を減らした上で射撃。
すると、簡単に倒してしまった。
残りの二人は、倒すことができず、暗翔の一勝。続いて、夜雪の要望だった金魚掬いでは、暗翔と紅舞が惨敗。
夜雪が十匹以上捕獲したのを見届けた紅舞は、苦笑いを貼り付けていた。
「さて、負けた紅舞にはしなければならないことがあるでしてよ?」
「……よ、夜雪……気恥ずかしいわね」
「まさかわたくしに気が……? ごめんなさい、紅舞。貴女の歪んだ愛情には応えられないけれど、兄様とわたくしの肉欲に溺れた関係をその目で見届けてくださいまして」
「なっ……肉欲ってッ。やっぱり変態じゃないの! この兄妹はッ」
「だから俺を巻き込むな。発情期か、お前らは」
「兄様が望むのであれば、発情でも種づけ――」
「乙女がはしたない言葉を使わないのッ! ほら、たこ焼き買うから待っててちょうだい」
たこ焼きを三箱手に持った紅舞が、こちらに駆け寄った。
三人に分配した彼女が、爪楊枝でたこ焼きを取ると、躊躇いがちに暗翔の口元に運んだ。
「は、はい……あーん」
「お、いいのか。さんきゅ」
そのまま口に含むと、激温が走り抜けた。水を飲み込み冷ましながら、食べ終える。
「紅舞だけずるいですわ。はい、兄様。あーん」
「お、おぉ……あーん」
夜雪が運んだたこ焼きは、暗翔の口内には入らず、別の口に放り込まれた。紅舞が二人に割入ると、強引に平らげてしまったのだ。
「ちょっと、紅舞!? 横暴な乙女ははしたないですわよ?」
「ふーんだ……あ、これから花火の時間じゃない? 学校の屋上に向かいましょ!」
人工島のアナウンスから、花火の時刻が近いと伝えられる。一向が足を進めたその矢先。
暗翔のデバイスが振動。通知を目にすると、二人に断りを入れて、【レグルス女学院】の方角へとつま先を向けた。
「トイレですこと? 間に合うようにしてくださいまして」
「すまない、行ってくる」
■□■□
一件の写真が、デバイス画面に表示されている。暗翔の興味を惹くという点において、これ以上にない写真であろう。
壁に眠るようにもたれかかった少女――夜雪の妹が、映り込んでいたのだ。
【レグルス女学院】教会に足を運んだ暗翔を迎えたのは、何者かの背中だった。
「君が黒城暗翔か……」
私はコードCと呼ばれていた、と小声でその青年が
「っ……夜雪の妹さんか」
すやすや、と膝で寝息を掻いている少女の頭を、そっと青年が撫でていた。柔らかな瞳に、人柄の良さそうな雰囲気が、漂っている。
だが、少女と暗翔を結び付けられるということは、彼が只者ではないことを示していた。
躊躇うことなく刃先を手前に構えた暗翔であったが、青年は首をゆっくりと振った。まるで、牧師のような口調で、問うた。
「初代【ヴラーク】の
「あぁ。あんたはレグルス国の幹部か?」
「先程も言っただろう。コードCと呼ばれていた、とね。レグルス国の幹部は全員、【ヴラーク】によって殺されたのさ。最後に残った私も、長くはないけれど」
ごほ、と嗚咽した青年が、血を吐いた。大丈夫か、と近寄る暗翔を手で制し、言葉を紡いだ。
「私は君の
「もうそれも手に入らないな。なにせ、初代【ヴラーク】は完全に消滅。俺の人体から存在が消えてるんだ」
「ははっ……だろうね。弱者を救うために、幼い子どもを人質にする……これは全くもっての矛盾だ」
「そうかもな。俺も
「……そう、かい」
ぐったりと青年が横たわる。手元からカプセル状の錠剤がこぼれ落ちた。
次の瞬間。少女が瞳を開けると、左右に視線を巡らせる。首を傾けると、不思議な表情を浮かべ、暗翔を発見。
「あ、お兄ちゃんっ!」
少女を抱き抱えた暗翔は、髪の毛を撫でる。白銀の髪色は、どこかの姉妹にそっくりだ。
教会の出口に立った暗翔は、一瞥を返すことなく外へと踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます