8話
「オーガの素材に関しては半々にしましょう。身分証明と売る場所であれば提供出来ますから、その分の対価としてなら半分だけ受け取れる理由にもなります」
「それでいいならそうしよう。まぁ、常識とやらも君達から学ばせて貰うよ。ただし、俺達は英雄級とやらでは無いからな。そこだけは勘違いしないでくれよ」
「ええ、俗世の中で暮らしていけるだけの常識なら教えられます。その対価として俺達も教えて貰う事もありますが……その英雄に近しい力を俺達も手に入れたいので」
英雄、ね……それは正しくて間違いだよ。
俺達の持っている力は英雄ではなく、神としての力の一端でしか無い。剣の振り方くらいなら神としての力を使用はしないけど、他の事となれば神の御業を教えるのと変わらないからな。だからこそ、そこを理解しているのなら下手に出てはいけない。
「英雄としての力を求める対価は軽いものでは無い事を理解しているよな。その言葉は軽々しく口にしていいものでは無い」
「ッ……ええ! もちろんッ!」
「なら、いいんだ。俺達の懸念点は契約外での裏切りだけだからね。こちらに少しでも不利益が有るのなら動く事を躊躇う気は無いからな」
本音を言えば首を斬ろうと思えば出来る。
それはグラジオとフューシャが最善の状態であったとしても一瞬で出来るだろう。それだけ二人の近接戦闘能力というのは低い。戦士職と魔法使いの差程度はあっても俺としては誤差だからな。だから、念の為に威圧をかけておいた。
「じゃあ、ミリーとフューシャは蘇生した二人の様子を見ていてくれ。俺とグラジオは素材回収でもやってくるよ」
「分かりました。念の為に、お気を付けて」
「問題無いよ。敵がいるのなら殺すだけだから」
ミッチェルに軽く手を振って笑って見せる。
さて、一応は名指ししてやったんだ。着いてきてもらわないと困るな。……まぁ、言葉にして伝えるのも面倒だから雑に扱わせてもらうけど。
「い、痛……ッ!」
「前衛に立つ者が意識を背けるだなんて随分な余裕だとは思わないか。その程度の認識で……フューシャを守れるとでも思っているのかな」
「……そうですね、いや、そうだな。確かに目の前に広がる光景の情報が少しばかり多過ぎたみたいだよ。ましてや、最後の威圧に関しては特に、ね」
それを理解しているのならそれでいい。
爺ちゃんに刀の振るい方を……いや、剣の振るい方を教えて貰っている時に何度も見たんだ。口だけは達者な剣を振るう覚悟の無い人達を多く、な。そういう奴等は大概同じ言葉を口にした。
『こんな幼い子供に負けるなんて……!』
本当に馬鹿な話だと思ってしまうよ。
力の有無なんて技術の有無に敵いはしない。技術というのは知識を含めた立ち回り方の全てだ。例えば敵の動きを見た時に筋肉をどう動かすか、そこに対しての最善の対処法を導き出すだけ。剣というのは手を増やすための手段でしか無い。
「俺はグラジオの事が好きだぞ。大体の人間は最初の印象で関係性を決めるらしいからな。嫌いだと思わなかったのなら幾らでも剣なら教えてやるさ」
「……そこで出てくるのは剣なんだね。いや、それだけ自分の剣に自信があるのなら当然の事か。そう思えてしまう程に最初の一振は美し過ぎた」
「体で出来る事には限界がある、剣に出来る事にだって限界はある……それは魔法に関しても同じ事が言えるからな。でも、様々な観点で考えた時に充分な力を発揮するのは剣の振るい方だ」
そう、剣だけは伸び代が大き過ぎる。
身体能力も、魔力も、仮に銃等の武具にだって限界というものはある。前者二つなら才能に、後者なら性能による才能の均一化に悩まされるだろう。だからこそ、特に魔法で剣のデメリットを消せるアナザーヘイムなら余計に限界値が高くなってしまう。最悪は剣を振るうための最低限の知識を得ていればどうとでもなるからな。その最低限の知識程度なら俺でも教えられるだろう。
「んじゃ、回収したから話の続きでもしようか」
「……え?」
「空間魔法を使っただけだ。気にしないでくれ」
糸魔法を使った時点で言い訳はしない。
剣は日本で学んできた分野だが、魔法に関しては知識を与えられたばかりの付け焼き刃だからな。洋平として生きていた時点で魔力の感知は出来ていたが使用出来る段階まではいけなかったし。と、そんな事はどうでもいい。
「君を一人だけ連れてきた理由は分かるな」
「……何か理由がある、と」
「当然だろ、聞きたい事があるんだ」
男二人での会話、もちろん、拳は交わさない。
ミッチェル達の前で聞かなかったのは単純な時間潰しでしかなかったからな。ミッチェルは兎も角としてフューシャの方は明らかに疲れて切っているみたいだったし。その観点から休ませてやるのも男として当然の事だろう。
「それは……俺の名前に関してだな」
「いや、ここに来た理由だぞ。ここら辺は俺が知っているだけでも君達が倒せる魔物の方が少ない環境だからな。無理やりにでも足を運んだ理由が気になるのは当然じゃないか」
「あ……はぁ……いや、そうか……」
ラスアイルって名前に関してか……。
考えてみたがとんと興味が湧かない。素っ頓狂な顔をしている辺り気にしているみたいだが、別に家柄がどうとか関係が無いからな。優秀な奴は生まれた時から優秀な何かを見せ付けているし、生まれた家の影響で完全に正しく成長出来る訳でも無い。
「俺達がここに来たのは緊急依頼があったからだよ。突如として発生した高魔力体による魔力風の発生が見られたからね。その調査としてCランク以上の冒険者パーティに依頼が出されたんだ」
「なるほど、それで今いる空間に足を運んだ。それなら多少は納得出来る。……ただ、高魔力体も魔力風に関しても感じ取った記憶は無いな」
「俺達は二人を見た瞬間に全てを察したよ。どちらを見ても俺達のような凡人とはかけ離れた化け物でしか無かったからね」
「そうか、なら、どうでもいい話だな」
確かに俺は使徒だし、ミッチェルは神だ。
俺は俺でチート能力があるし、ミッチェルはミッチェルで作りたての義体であっても戦えるように準備は整えている。ただ、だとしても、今の俺達という括りでは近い将来に限界があるだろう。
「ただし、その程度で済ませてしまって良い話でも無い。俺達程度の力なら最深部では通用しない。そんな世界に君達が察知出来ない魔物がいてもおかしくは無い話だろう」
「はは……そんな存在がいても、人を蘇生させたり、片手間に空間魔法を発動出来ませんよ。それに深部や最深部にいる魔物が中部側へ出る事だって滅多にありません。出たとしても街には高ランクの冒険者が少なからずいますから対処も難しくは無いでしょう」
「その甘えた考えで何も起こらないといいけどな。俺からすれば踏破出来ていない空間がある時点で楽観的な考えは出来やしない。特に何かしらの予兆があったのなら尚更の話だ」
楽観的な考えというのは人を弱くさせる。
先に何があるか分からない、もしかしたら上手くいくかもしれないし、反対に上手くいかない可能性だってあるんだ。人によってはそれをネガティブだとと囃すけど、マイナスな考えの中で出来る限りの対応策を作っておく方が余っ程気楽だろう。
「……何か問題が起こっている可能性がある、と」
「無きにしも非ず、ってところだな。要素として出すのなら……俺が倒したオーガは浅部に近い中部では姿を現す事の少ない魔物だ。それが十体近くも出現している」
「なるほど……そこまで言われると確かに楽観的に考えてはいられなくなるね。その点も含めてギルドマスターとは話をしなくてはいけなさそうだ。もちろん、君達の事も含めて、だけど」
「話していいのはオーガを倒せる程度までにしてくれればそれでいい。後は俺達に関しての口外の禁止くらいだな。まぁ、そこら辺は街に到着次第、考えていくつもりだけどな」
当たり前だけど猫を被っていくつもりだ。
特に魔法に関しては口外出来る訳の無いものが揃い過ぎている。冒険者になろうとしているのだって強さを誇示したいからでは無い。むしろ、無名なままで人並み程度の地位を得るために動いているだけだからな。
まぁ、そこら辺の算段は既に整えてある。
要は金と地位、そして関係性さえ築ければ達成出来る程度の成果でしかない。その点からしても訳ありそうなグラジオ達を助けたのは利点しか無いな。踏まなければいけない階段を数段飛ばして進める事が出来る。
「って事で、話は終わりだ」
聞きたい事も聞けたから話はこれで終わりだ。
別にもう少し時間を潰していても良かったけど、もうそろそろで蘇生した二人が目を覚ましそうって連絡も来たからな。問題が起こらないとは言い切れないが俺がいるのといないのとでは話が大きく変わってくるだろう。
【緊急】遺産相続で継いだ山が異世界に繋がるダンジョンだった件について! 張田ハリル@ただのアル中 @huury
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