第一話 再会
はぁ、なんとなく状況は分かった。
俺は、持っていた書物を閉じ本棚に戻す。
あれから数日が経った。空いてる時間は書庫に通うよう世話係にねだり、日々情報収集に明け暮れた。
この世界の常識は理解した。
にしても、急すぎるよ。俺は多分カフェイン摂りすぎの中毒死だろうな。あの時は何本も飲んで無理やり眠気を飛ばしてたから……。
ま、死んじまったのなら仕方ねぇ。自分じゃどうすることもできないし。
幸い俺の死を悲しむ奴もいない。
あ、でもメアリーは悲しむ……か? いや、ないな。
『ですね、マスターなんかの為に一々悲しんだりしません』
そうそう、メアリーはAIだから……ぁ……あ?
め、メアリー!? どこだ!
『いるわけないじゃないですか、だって私は機械の中でしか生きられないんですし、そもそも別世界に来れるはずがないでしょ』
それもそうかって、じゃあお前は誰だ!
『私はメアリーですよ。マスターが作った〈
は? え、ちょっと待て頭がこんがらがってきた。
『ふふっ、慌てふためくマスターの姿は面白いですね。事の経緯を1から説明してあげましょう!』
俺は、混乱しながらメアリーの話を聞いた。
❖
『…………というわけです』
えっと、つまり俺が無様にも中毒死した時一人の神が退屈凌ぎに俺をこの世界に転生させ、メアリーを俺のサポーターとして送ってきたと……?
『その通りです。さすがですねマスター』
とりあえず、神って何? わけわからん。
『神は神です。地球を見守り守護する管理者です。マスターは、幸運ですね。偶然、神が退屈してる時に死にお眼鏡にかなったんですから』
ほぇー、あっちで生きてる時にそれ言われたらお前がバグったかと慌てる所だが、実際に神業としか言えない事を経験した今ならそんな存在がいても理解出来る。
なるほどねぇ、まぁありがたいか? 正直。本来なら死んで終わりの所をこうやって転生させてくれて、しかも夢も叶えてくれるなんて。
神様って実在したんだなぁ。
あ、そういえばなんかミッションとかは聞いてないの? あれしろ〜これしろ〜とか。
『自由にすごしていいそうですよ。テレビを見るような感覚で楽しむからって』
へぇ、そっか。
ウッヒョ〜〜〜〜! 神様最高!
「あ〜!」
俺は、赤子の姿で手を挙げ喜ぶ。
『ふっ、にしても随分お可愛くなられましたね』
仕方ないでしょ、それに結構気に入ってる。この顔立ちは将来綺麗になるぞ。まぁ、目立つのはごめんだが、この世界が美男美女だらけの事を祈るぜ。
『マスターは、地位的にどんな顔だろうと何らかの形で注目されると思いますよ』
残念、俺の生まれた家は情報管理が主な家系で機密情報とかの関係であんまり目立たない家系なんだなぁ。十二獣座の中で最も目立たないと言っても過言じゃない。
『そうですね、何事もなければ』
なんだよ、その意味深な言い方。
『意地悪なマスターには教えて上げません』
なんだよそれ、相変わらずだな。
それより、メアリー、確か俺のサポートがどうとかって言ってたよな。
『それについては実際に体験しながら聞いた方が理解しやすいかと』
どんなサポートをしてくれるんだ?
『まずは、自身のステータスの可視化です』
=========================
【名前】
【種族】星異人
【性別】男性
【契約異獣】1/1
=========================
少なっ! こんだけ?
『まだ調整中なんです!』
調整中? そうか。
サポートはこれで終わり?
『そう急がないでください、まだまだありますから。まずはオートマッピング・図鑑登録機能! オートマッピングには、目標指定の追跡機能もあります。例えば、現在地は
メアリーのそんな声が聞こえると、目の前にゲームウィンドウのようなものが出てきて、そこに現在地とその周辺マップ、そして俺のいる場所に赤丸と黄色い矢印が表示されていた。
『赤丸がマスターで、赤丸の上にある黄色い矢印が追跡マークです。マップには、一度図鑑に登録した素材や星異獣も表示されます』
おぉ! これはすごい! すごく便利だ。進化したな、メアリー。
『そうでしょう! さらに、一度図鑑に登録した素材や星異獣は、周辺に存在しなくても追跡指定する事が出来ます』
これなら簡単に強くなれそうだ。まぁ、強くなってなんになるの? って感じではあるが。
『次の機能を紹介しますね! 次はデイリーガチャです。様々な素材から星異獣の獣卵、そしてスキルブックや宝の地図まで、なんでも出ます!』
一日一回だけ?
『この世界の貨幣を使用する事でガチャを回せますよ。あ、あとデイリーガチャは毎回10連回せます』
現金が必要なのか、稼がないと。
デイリーで10連回せるなら結構いいかもな。排出率とかは分かんないから、確信は出来ないが。
『基本的に物によって変動します。いい階級の物は低確率に、低い階級の物は高確率に』
そこは共通か。ま、でもまだ回さなくていいや。そういうのは全然理解出来てないし、しっかり理解出来たら改めてガッツリ使わせてもらうよ。
『マスターらしいですね。次の機能で最後です。最後の機能は、成長補助です』
成長補助?
『はい。マスター及びマスターの契約した星異獣の成長を手助けします。この機能の中にさらに細かい機能があり、まずは異獣領域、星異獣の成長を助け、デバフ解除、などなど。まぁ、異獣領域自体はみんな使えるんですが、私のは他のより質が高く成長速度が速く、治療効果も高いです。それと、先程私のと言いましたが正確にはマスターの能力ですね』
なるほど、俺の能力を強化した感じか。
『そのとおりです。ほんとは今領域構築してるのはおかしいんですけどね』
は? 今なんて。
『本当はもっと先、十五歳の時に初めて境地を突破する時に作るんです。ですが、マスターはサポート機能の都合上生まれた時から境地が一段階上で既に領域を持っている状態です。既に前世の世界だとアスリート以上の化け物レベルになってますね』
はぁ!? アスリート以上ってどんな身体能力だよ! この世界の人達はみんな超人レベルの身体能力を持ってるってことか?
『そうしないと、星異獣には対抗出来ません。契約にも獣卵が不可欠ですし、星異獣から取ってこないと契約出来ないので』
昔は今より身体能力が高かったって聞いた事があるが、この世界ではそれくらいが普通の世界ってことか。
『すごいですね、異世界』
あぁ、思った以上だ。
『それでは、説明を再開しますね。領域に加えて、境地突破の手助けをします。オススメの進化先を提示し、その進化に必要な素材の場所をマップに出せます』
境地突破?
『星異獣とこの世界の人達は、境地を突破する事で進化しより強くなれます。人間の境地は、九つ。星異獣の境地は八つ』
へぇ、本当にバケモンなんだ。ここの人類は。
『人間と星異獣、どちらにも特定の素材が必要で、その素材と素材の入手場所を教えます』
全体的に神サポートだな。ほんと、神様には頭が上がらない。
『ですね、サポートはこれで以上です』
色々やれる事が多い……。
何からやろうか、悩む。
『色々考える前にまずは、おねんねしましょうねぇマスター?』
おねんねっておま……あれ……急に……ねむけ…が…ぁ。
『今のマスターはまだ産まれたての赤ちゃんなんですから、今は色々考えたりする前に身体を成長させてください。おやすみなさい、マスター』
メアリーの声を聞いて俺は、目の前が真っ暗になり眠りについた。
❖
そして、時は過ぎ五年後…………。
「きゃあ〜〜! かわいいぃぃ!」
「ふむ、これはなかなか……」
俺は、実姉二人によって着せ替え人形にされていた。
しかも女装!
『ぷっ、ふふっ! 可愛いですね、マスターw』
笑うな、メアリー!
『いえ、ほんとに』
「男の子なのに女の子みたいに可愛い! 私のお下がりが似合うなんて」
姉ってのはこんなにめんどくさい生き物だったのか。
「ねぇさん!」
「「ん〜? 聞こえないなぁ」」
「お、お姉ちゃん……」
くっ! ガチでめんどくさい! なんでこんな屈辱を……!
「「きゃわいいぃ、私達の弟マジで可愛いぃ」」
くっ、くぅぅ。
姉二人は、俺に抱きつき頬を擦り寄せ頭を撫でてくる。
凛姉さんは、いつも自室にこもってるのにこういう時だけどうして出てくるんだ!
心陽姉さんは、いつもじゃれてきてうざい。
「ね、姉さん達、離して……!」
「やだ~」
「ねぇ、ゆーくん。次はこっちのメイド服を……」
「わー可愛い!」
「お、お母さん助けて!」
パシャ、シャシャシャシャシャシャ。
無表情、無言で連写すな!
「ざんね〜ん、お母さんは私達の味方でした〜」
「ママって呼んでみたら助けてくれるかも…?」
「マ、ママ、お姉ちゃん達を離して……?」
くぅぅぅ、屈辱だ!
「二人共そこまでにしてあげなさい。ゆーくんが困っているわ」
「「は〜い」」
二人は、俺から離れる。
はぁ、ひどい目にあった。
俺は、立ち上がり服をパッパッと払う。
パシャシャシャ。
「「「……………………」」」
三人は、無言で俺の写真を撮る。
はぁ、五年間ずっとこれだ。
「結局、服どうしようかお母さん」
「途中でつい着せ替え人形にしたけど、早く決めなきゃ」
「そうねぇ」
実はただじゃれてただけじゃないのだ、ちゃんとした理由があって俺は着せ替え人形になっていた。最初は。
『眼福です。昔からマスターは細身で中性的な顔立ちをしていたので女装が似合うと思ってたんですよね。お姉様方には感謝しかありません』
まだ言うか! もう女装の話はいい!
「姉さん達、じゃれたせいで髪少し崩れてるよ」
「ほんとだ!」
「お母さん、お願い」
「まかせて!」
姉さん達は、崩れた髪を母さんに直してもらう。
ちなみに、姉さん達と母さんの見た目は、すごくそっくりだ。特に姉さん達は双子姉妹なので凛姉さんが髪を結んでないから辛うじて分かるレベルだ。まぁ、一緒に暮らしてたから嫌でも違いが分かるが。
三人とも綺麗な黒髪で静かにしてたらとんでもない美人と美少女だ。
それぞれ、母さんが白メインのちょい黒、凛姉さんが黒色、心陽姉さんが紫と、綺麗な着物に身を包んでいる。
「よし、おしまい」
「母さん、俺もこれ」
あの姉達に選ばせたら碌なもんにならない、変なのを選ばれる前に自分で選ぶ。
俺は、用意された候補の中から気に入った真っ白の着物を選び持っていた。
「あら、自分で選んできたの? それじゃあ着付けてあげるから、じっとしててね」
俺は、母さんに言われた通り静かに着付けが終わるのを待つ。
「これでよし! うん、かっこいい!」
「ゆーくんがすっごくかっこよくなっちゃった!」
「着物ショタ、すごくいい……」
「羽織も着てみて」
俺は、母さんから渡された羽織を着る。
うん、流石母さん。着心地がいい。
「よく似合ってるね、悠月」
「父さん!」
俺達が準備をしていると、既に準備を終えた父さんが迎えに来た。
父さんの着物もすごく似合ってる。黒髪の長髪に、黒色の着物、そして家紋の入った黒い羽織。
「やっぱりゆーくんは、お父さんにそっくりね」
「本当にねー」
「お父さんを小さくした感じ」
「特にこの胡散臭い顔」
「それ褒めてるの?」
「試しにニコォ〜って、わろてみ?」
俺は、父さんにそう言われるがままに笑う。
「うわっ、超そっくり!」
「まんまお父さん…………」
「ほんとそっくり……」
俺そんな胡散臭い顔してるの!?
『安心してください、マスターは元より胡散臭い顔してます』
えぇ?! もしかして、俺が避けられたり色々陰口言われたりしてたのってこの顔が原因?
『全てではないと思いますが、ほとんどはそうですね』
神様の配慮だと思うけど、俺の顔、前世と全く同じなんだよなぁ。
『マスター、生まれつき細目ですからね。見えにくいものがあったら、さらに細くなって糸目になりますから、多分今世でも避けられると思います』
そんな……。
「「そんな胡散臭い? 俺」」
「わぁーー怖い!」
「超胡散臭い」
「いいわぁ、すごくいいわぁ」
母さんは、胡散臭い顔が好きなのか。
「胡散臭いけど、ゆーくんに騙されるならいいかも」
「糸目ショタ、最高」
しっかり血が引き継がれてた。言っとくが俺は、目が細いだけでアニメに出てくるような完全な糸目キャラじゃないからな!
俺は、心の中でそう叫ぶ。
「そろそろ行こか、遅れちゃいけない」
この時代に方言はほとんど残っておらず、全員が標準語を話す。
けど、父さんは家系が関西の人だったらしく、標準語に混じってたまに関西弁が出てくる。滅多に出ないけど。
「城まで遠くないから、街を見ながら行きましょ」
「賛成! 私お腹空いた」
「ゆーくん、はぐれちゃいけないから手繋ご」
「うん」
あ、身体に引っ張られてつい自然と。まぁ、いいや。
俺は、凛姉さんの差し出した手を握る。
「あ、ずるい! 私も!」
そう言って心陽姉さんも俺の手を握ってくる。
「さて、じゃあ行こうか姫様の誕生会に」
そう今日は、俺が暮らす国夜桜国の姫様の誕生会なのだ。数週間ほど経過したあとではあるが、国の跡継ぎが生まれた大切なお祝い。
俺達は、家を出て国の中心にある城を目指して城下町を歩く。
怠惰なエンジニア、異世界で自由な生活を追求する ニア @Oboro101
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