第81話

「ミナ、そろそろ昼食の時間だ。戻れるか?」

「うん」


 私がにこりと微笑むと、レオンも軽く笑んでから、先に歩いて行く。こっそり問題のネックレスを外した私は、意を決して、赤く輝く宝石をお日様の光にかざした。


 レオン、アスター家の大切な宝石なのに、ごめん。あとでたくさん謝るから許して!


 キラリと輝いた宝石は、次第に放つ光を増幅させる。やがて私の手の中で弾けるように消えて、ゆっくり舞い落ちてくる、無数の幻想的な赤い光になった。


 日光を反射して、キラキラきらめく光の粒たち。自分を取り囲む美しい光景に、うっとりと見惚れる。


「きれい……」


 やがて私に降り注いだ光の粒が全て消えて、私の心臓がドクンと、熱く大きく波打った時、レオンが私を振り返った。


「ミナ、どうした。早く来い」

「あ、うん」


 先を歩くレオンの背中を追いかけていると、不意に知らない衝動が押し寄せる。レオンが愛しい。その首筋に触れて、歯を立てて、血を貰いたい。


 ああこれが、いつもレオンが感じてる気持ち……。


 初めて知った衝動に、思わず微笑んだ。レオンと同じになれて嬉しい。多分赤くなっている私の瞳に、涙が浮かぶ。


「兄さん、ミナ! 遅いよ、もう昼食の時間過ぎてるよ!」


 クリスが外に出てきた。続いてノア、アダム、イヴ。もうすっかり見慣れたみんなの姿。


 私はここで、この人たちと生きていくんだ。国の端、立派な城壁の中にそびえ建つ、このヴァンパイア城で。


 衝動が治まれば瞳の色は戻るみたいで、まだ私の変化には誰も気づいてない。でも、もう少しだけ秘密にしておきたかった。


 レオンと……私の宇宙一の番長、『不良侯爵』と、本当に結ばれる夜が来るまで。それまではこの城で唯一の、『秘密の吸血鬼ヴァンパイア』でいたい。


 レオンと過ごす夜、前に私が言ったみたいに、急に首筋に噛み付いたら、それが痛くなかったら、レオンはどんな顔をするだろう。そう考えるだけで悪戯心が止まらない。そんな想像でニヤけてしまうくらいには、レオンに溺れていた。


 その時、ちゃんと謝ろう。宝石を使ってしまったこと、一生そばにいて償うって。


 ……でも宝石はちゃんと、私を守って消えて行ったよ。私を、レオンのそばに立てる、吸血鬼ヴァンパイアにしてくれたんだから。


 思い切り駆け出して、5人に合流する。アダム。イヴ。ノア。クリス。そして、レオン。1人1人を順番に見つめた後、私は満面の笑顔を浮かべた。


「みんな、これからもよろしくね!」

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【タテスクコミック原作】転生女子高生とイケメン吸血鬼~異世界で出会ったのはバイクを駆る不良侯爵!~ 雪白りんご @ringosnowwhite

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