第80話

翌朝、ギルバートさんは帰って行った。私に危険はないと、女王様に話してくれるらしい。


 彼から詳しく聞いた話によると、私を狙っていた黒装束の召喚士達は、過激な活動をする宗教団体で、王室近衛騎士団はその全貌を把握しているし、既に幹部はほぼ捕まえたらしい。レオンの懸命な協力あってこそだと笑っていた。


 そんなレオンは昨夜ずっと私に寄り添っていてくれたし、今日も朝から一緒にいてくれている。よく晴れた空の下、庭園の花を眺めながら、私はぽつりと呟いた。


「私、この世界で生きて行くね。お店出すっていう夢もできたことだし! 私……ずっとここにいていい?」

「当たり前だろう。俺はおまえと一緒にいたいし、出て行かれたら困る。だから、ここにいろ」

「レオン、ありがとう。レオンがいてくれてよかったよ。私、ひとりじゃ立ち直れてなかったかも。まあ、まだ立ち直ったわけじゃないんだけど」

「おまえは必ず立ち直れるさ。強い女だ。俺が惚れたくらいだからな」


 少し離れた場所に立って、同じように庭園を眺めている、レオンの横顔をチラと見る。


 昨夜から私は、いつかノアから受け取った手紙の内容を思い出していた。手紙の差出人はマリアさんの兄・ジークさん。内容はレオンから贈られた、『アスター家に伝わる赤い宝石』についてのことだった。


 ジークさんはマリアさんの死後も研究を続けて、マリアさん復活の際必要になる、『人間を吸血鬼にする方法』を突き止めたらしい。


 その方法を実行するのに必要な、結晶化した吸血鬼の血液・エリクサー。それがアスター家に伝わる赤い宝石なんじゃないかと、日光に当てて気化させれば、それを浴びて吸収した人間は吸血鬼ヴァンパイア化するのではないかと、手紙には書いてあった。


 それを読んだ時、私は迷った。でも今は迷いの欠片もない。レオンと一緒に。レオンと同じ血の流れる身体で生きていきたい。

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