第79話
さすがのレオンも、口元に手の甲を当てて赤くなってる。恥ずかしすぎる!
「どうやらミナを口説いても無駄なようだな。無害なこともわかった」
苦笑したギルバートさんがパチンと指を鳴らすと、私の身体からフッと力が抜けた。
「あ……」
「暗示を解いた。もう話せるぞ、ミナ。暗示の礼に、おまえの知りたいことを教えてやる」
「私の知りたいこと……?」
「地下牢の、おまえを召喚したという召喚士に、おまえを元の世界に戻せと要求したことがあるんだ。だが、できないとのことだった」
「え……?」
「おまえは死にかけてこちらに来たんだろう?」
「どうしてわかるの!?」
「死ぬ運命にある魂しか召喚できない、と聞いたからだ。異界に生きるべき者の運命を、捻じ曲げることは不可能と。元の世界に戻してもおまえが死ぬことは決まっているし、召喚士は戻す手段を持たないと言っていた」
私は目を見開いて絶句する。
「う……嘘……」
「私があらゆる手段を用いて聞き出した話だからな。間違いはなかろう」
私はよろけながら立ち上がり、もつれる足を必死に動かして部屋を飛び出した。廊下を少し走ったところでレオンに捕まる。
「ミナ、どこに行くんだ」
「私、死ぬの? あのまま死んだの? お父さんにもお母さんにも、もう会えないの!?」
「ミナ……」
「いきなり死ぬ運命とか言われても、納得できるわけない! 家族はきっと悲しんでる。私が死んで泣いてる。そんなのって……辛いよ。あんまりだよ!!」
涙がぽろぽろ零れ落ちていく。泣きじゃくっていると、ふわり、とレオンに抱きしめられた。
「もしマリアが死んだ後、そうやって俺の悲しみを想い泣いていたなら、それはとても耐えがたいことだ」
私はハッとした。そうだ、レオンは置いて行かれた側なんだ。置いて行く側の私とは反対の……。
「マリアがおまえのように新しい生を受けたなら、幸せでいてほしいと俺は思う。きっとおまえの家族も同じだ。だから、おまえは幸せになるべきだ」
「っ……!」
「おまえは戻れなくても、ここで生きてるじゃないか。それこそ、残してきた家族にとっての希望だ」
身体を離して、レオンが私を見つめる。初めて会った時と同じ、ガラス玉のように澄んだ瞳。頬に触れた指先が、私の涙をそっと拭う。
「泣くな。俺が幸せにしてやる」
「レオン……」
唇に触れた優しい熱を、私は一生忘れないと思った。
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