婚姻

そして、寒い冬が過ぎ遂に春が来た。枯れ木だった桜に花が咲き乱れ、山々に桜色が見え始めていた。

一年前からずっと待ち侘びていた事だ。

沢山桜が咲き誇るあの場所で信様と婚姻の儀を挙げている。

約束通り、婚姻の儀はこの場者で行われることになった。鮮やかな桜の雨の下で執り行われる式に私は胸を踊らせる。それは信も同じだった。

和正とまだ結ばれていた頃はお継母様に阻止されてしまったから初めての式だ。

信様が用意してくれた素敵な色打掛を自分が着るなんて思いもしなかった。

つららちゃんが私の髪を大事そうに髪を梳かし、綺麗に整えてくれた。仕上げとして、お母様の紅珊瑚の簪をそっと刺す。


「準備が整いましたわ!!とても素敵です…!!」

「ありがとう。つららちゃん」


つららちゃんの方を見ると、彼女は涙を流していた。悲しいから泣いてるわけではないのは分かる。


「つ、つららちゃん?!どうしたの?!!」

「うぅ…!!陽子様ぁ…私嬉しくて…陽子様がこんな綺麗な姿でぇ…」

「も〜まだ泣かないで。本番はこれからなのよ?」

「だってぇ〜」


感激で泣いてしまったつららちゃんの頭をそっと撫でる。私の為に嬉し泣きしてくれる人なんて初めてだ。

つららちゃんを宥めていると、私を呼びに来た紅葉くんが現れた。


「陽子様。ご主人様の準備も整いました。式場に参りましょう……って、つらら、お前何やってんだ?」

「だって、こんなに綺麗な陽子様が幸せになってくれるのが嬉しくてぇ…!!!」

「今泣くな。せめて式の時泣け。陽子様が困ってるだろ?」

「わかってるわよぉ〜!!わーん!!陽子様、本当におめでとうございますぅ〜!!」

「うふふ。ありがとね。つららちゃん、紅葉くん」


そして、紅葉くんと共にあの桜の式場へ向かう。

私は本当にこの場所で龍神様と婚姻の儀をあげるのか。まだ夢なんじゃないかと疑ってしまう。

信が待つ式場に着くと、桜の雨の下で彼は私を待っていた。私はつららちゃん達に見守られながらゆっくりと彼の元へ向かう。

私の花嫁姿を見て信はとても嬉しそうな顔を浮かべていた。


「綺麗だよ。陽子。俺には勿体無いぐらいだ」

「ありがとうございます。信もとても素敵ですわ」


信はそっと私の手を握る。私はぎゅっと握り返した。

つららちゃんや紅葉くん、屋敷で働いてるあやかしに囲まれながら幸せな時を噛み締めていた。

赤い花柄の色打掛を着た私は桜色の花びらの雨を愛する龍神の夫と共に眺める。

初めてここに来た時に見た桜よりも美しく映っていた。

幸せすぎて少し怖くなってしまう。


「信。私、こんなに幸せでいいのかしら」

「いいに決まってる。もう苦しみなんかない。これからの陽子の人生は幸せだけだよ」

「それは信も同じですわ」


怖気付く私を信は優しく寄り添ってくれた。

玲奈に全てを奪われた時の私には想像できなかった未来。

愛する人に裏切られた離縁された私は、龍神という高貴な人に助けられ全てが変わった。

白鷺へと姿を変え、ずっと私のそばにいてくれた私の愛する人。


「愛しています。信。ずっとそばにいさせてください」

「俺も愛してるよ。陽子。絶対に離したりしないから。俺の愛しくて可愛い花嫁」


誓いを交わし私達は口付けをする。

こんなに幸せな時間の中で私達は愛を誓い合った。

きっと、私達の未来はとても素晴らしいものになると暗示していると思ってしまう。

すると、一羽の白鷺が私達の頭上を飛び去った。一本の白鷺の羽が私と信の間に落ちる。

私はそっと美しい白鷺の羽を拾い上げた。


「白鷺…」

「貴方が白鷺になって私の元に現れなかったら、私は今もあの屋敷で酷い目にあってた。こんな素敵な式も挙げられなかった」

「そうだった。でも、これからも俺は姿を変えてでも陽子を守る。そして、愛し続ける」

「私も貴方の力になりたい。巫女としてではなく私自身として。信がどんなに姿になろうと私は貴方を愛し続けるわ」


白鷺の羽を大事に握りながら再度口付けをした。

桜の雨に祝福されながら愛を確かめ合う。

私の髪にささっている紅珊瑚の簪が私達を祝福する様に桜と共に美しく輝いていた。

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白鷺と銀の龍神の最愛(長編連載版) テトラ @onkenno

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