第四話 赤星の柱ベテルギウス
第四話 赤星の柱ベテルギウス
「ようこそ、異邦人。私は
huitって確か……フランス語で「8」?なんで異世界にこっちの世界の言葉があるんだ?……いや、今更か。
「聞きたいことが沢山ある、という顔をしているな。見たところ、この深層に来たばかりか」
「私に答えられないこともあるが……できる限りは答えてやろう。何でも聞いてくれ」
聞きたいことは沢山あるが……ひとつだけ、今すぐにでも聞きたいことがある。
「……元の世界に帰る方法ってあるんですか?」
「ふむ……最初にそれを聞くか。よほど元の世界に思い入れがあるのだな、お前は」
「方法は確かにある。だが、それをどう説明したものか……」
少しの沈黙の後、ベテルギウスさんは少し躊躇いながらも口を開いた。
「簡潔にまとめると……深層世界の、少なくとも30の世界を旅しなければならない」
……少なくとも30個!?一体……何年かかるんだ、それは?
あいつとの……何か、覚えていないけど約束?も果たせていないし、まだまだ元の世界でやりたいこともあったはずなのに……
すごく大事なことだったはずなのに、それを一切思い出せないのが、なんだかもどかしい。
「そんな悲しげな顔をするな。こっちまで涙が出てきそうになる」
「これはあくまで私の持論だが、深層世界とそちらの世界は時間の流れが異なっていると考えている。だから、元の世界に戻っても大した時間は経っていない状態のはずだ」
そっか、それなら元の世界に帰っても……ってそうじゃない!僕自身の体感時間の中で早く帰りたいのに!それに一人で……って……
「誰が一人で、と言った?」
「その方法を実行するには、仲間を三人集めるのが必須だ。もちろん異邦人のな」
無理やり進行させようとしているゲームみたいなことを言い出した……
「4人の異邦人が自らの想い……失った記憶を見つけ出し、とある世界で特定の儀式を行う。それが帰還する唯一の方法とされている」
「……大変ですね」
「ああ、そうだ。それゆえ、帰ることを望まない異邦人もこの世界にはいる」
「深層を酷く気に入ってしまったか、あるいは……元の世界で心に深い傷を負ってしまったか」
「亮、お前はそうでないといいのだが──」
その瞬間、パティがノックした時と同じような不可思議なリズムのノック音が聞こえてきた。
「すまない、用があるのをすっかり忘れていた」
「何か用があったら、いつでも来てくれ。執務中は応対できないが、それ以外なら話し相手くらいにはなってやれるからな」
「……はい。えっと……ありがとうございました」
そう言って緊張感から抜け出そうと足早に立ち去ろうとするが……
「待て、亮。これを受け取れ」
後ろから声が聞こえたかと思うと、ベテルギウスさんが目の前に瞬間移動してきた。そして、彼女は一本の剣を差し出した。
鞘に納められた、いかにも異世界ファンタジーにありそうな剣だ。グリップ部分には青色の装飾が施されている。
「お前が異邦人であるという証であり、お前自身の身を守る術でもある。その剣を持っていれば、この世界で自由に行動できるはずだ。常識の範疇内だがな」
渡された瞬間、一つの疑問が浮かんだ。
初対面の人に剣なんて渡してもいいのか?と。
「……これ、見ず知らずの僕に渡しても大丈夫な物なんですか?」
「問題ないという確証が持てたからだ。この瞳で、お前の潔白を見極めた」
「さあ、亮……早く旅の仲間を探しに行くんだ。この世界には異邦人が何百といる。きっとお前の役に立つ者が見つかるだろう」
なんだか急かされている気がしたので、仕方なく受け取ることにした。
緊張のせいで、ここに置いていくという判断ができなかったのだ。
「は、はい。えっと……ありがとうございました」
剣を手にしてベテルギウスがいた部屋を出ると、扉の前には見張りの兵士のほかに、煌びやかな服を纏った男性が立っていた。緑髪で、頭には王冠がある。王子のような立場の人物なのだろうか。
「……」
彼と特に言葉を交わすことなく、静かに会釈だけしてその場を去った。そして足早に外へ出ると、城前の広場にあるベンチに寝転がった。
なんとしてでも、早く深層世界から抜け出さなければいけない。でも、あまりにも色々あって疲れたし、ちょっと休み……た……い……
───────
「……ベテルギウス嬢、先ほど出ていった子も異邦人でしょうか?」
「ああ、どうやら目覚めてから間もない様子だった。」
「深層への転移は精神に大きな負担をかけるからな。今頃、どこかで休んでいるだろう。」
「……話が終わったら、その子に会いに行ってもよろしいでしょうか?」
「……決心がついたのか、ジョシュア?」
「……あの子を見たとき、守ってやらなければならないと……そんな気がしたのです。お願いします、ベテルギウス嬢。どうかこの愚行をお許しください。」
「決して愚行などではないぞ、ジョシュア。お前も……弟たちの元へ帰りたいのだろう?今まで引き止めてしまって、すまなかったな。」
「いえ……この世界に留まりたいというのも本心です。ですが、あの子から……弟の面影を感じたのです。」
「そうか。共に元の世界に帰れるといいな。」
「感謝いたします、ベテルギウス嬢。」
「……そういえば、どこかから魔力の気配を感じませんか?」
「ふむ……ああ、なんだ。またゼノのネズミが忍び込んでいたか……」
「まったく、こんなところで盗み聞きとは趣味が悪い。はぁ……」
「赤星の領域に侵入した代償は払ってもらうぞ。████。」
記録終了。
第四話 終
深層世界記録 蒼華 @Souka97_Deep
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