第8話 発覚

店に入ると諒がいた。つい先ほど着いたのだろう。まだ彼のカフェオレは湯気が出ていた。

「里花ちゃん。来てくれたんだ。」

「ええ、まあ。それでどうかしましたか?」

「うん、ちょっとね。」

諒はどこかもどかしそうに言った。

「今日のライブ行ったよ。凄かったね。」

「やっぱり、諒さんだったんですか。来てくれてたんですね。ありがとうございます。」

自分はきちんと踊れていただろうか?不安な気持ちに苛まれる。諒に会うと分かっていたならもっと服装に気を付けたのに。

「それでさ、僕、里花ちゃんに言わなきゃいけない事があるんだ。」

諒の空気が変わった。恐らく重大な事だ。里花は身構えた。

「今日のライブを見て、思った。里花ちゃんはちゃんとアイドルなんだなって。真摯に自分の仕事に向き合っていて凄いなって。だから僕も真摯に君と向き合いたくて。」

そこで少し諒は間を開けた。里花は次の一言を待った。

「僕がどうして俳優を辞めたいのか言うよ。」


里花はそんなに驚かなかった。なんとなく予想はできていた。とはいえ心臓の鼓動は速くなっている。

「少し長くなるんだけどね。」


……

まだ彼が16の時のことだった。その時の彼は幸せな生活を送っていた。父と母と妹の花凛とと何気ない日常を送っていた。そんなある日のことだった。彼はモデルにスカウトされた。諒にはちょくちょくそういう話は来ていたものの今度の話は大手の事務所からだった。諒が大手からスカウトされて1番喜んだのは父親だった。諒の父は元々俳優を志していたのだった。しかし売れることはなくたまたま出会った母と結婚したのだった。今はもう普通の会社員だったが、彼の胸にはまだ有名な俳優になりたいという野望があった。彼はその野望を彼の息子で叶えようとした。母親が反対するのを無視して父親は諒をモデルにされた。その日から諒は父親の野望の生贄となった。食事制限や門限など思春期の諒には辛い仕打ちをされた。父親は諒が人気を獲得していくのを自分の功績だと笠にきた。最初は父親から諒を守ってくれていた母親も気が付いたら花凛と家を出ていた。そしていつのまにか人気になった諒に俳優の仕事が来た。諒の父親は遅くまで諒に演技の練習をさせた。結果としてその仕事は成功し、諒は人気俳優としての人生を始めたが、その頃には彼の心は壊れていた。何度も海に飛び込もうかと思った。だがいつか幸せだった日々に戻れるかもしれない。そんな淡い期待が諒を彼の人生に縛っていた。だがある日彼は妹と再会した。

アイドルの道を志していた彼女は確かに自分の人生を生きていた。諒はその時に気づいた。今まで自分が生きていた人生は自分の人生ではなかったことに。それに気づいたその時に彼はようやく解放されたのだった。諒は諒のお金を使ってギャンブルする父親と決別をした。妹に自由に行きたいと言う意思を伝えた。最後に諒がすべき事は1つだった。俳優を辞める。ただこれだけだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偽造スキャンダル 再再々試 @11253

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ