第7話 一目惚れ

目覚ましで目が覚めた。今日はライブのある日。里花は重い体を起こした。昨日の出来事が脳に鮮明に思い出させられる。諒を不快な気持ちにさせてしまったことは変えられない事実だった。酔った勢いとはいえ踏み越えてはいけないラインだったと、里花はあの後心の底から後悔した。謝る必要があったが里花は謝罪を拒否されるのが怖かった。だが早めに謝らないと偽造スキャンダルの計画にも関わってくる。なんとかしなくてはと思いつつ里花はライブハウスに出かけた。


揺れるタクシーから外を眺める。もう夜だ。眩い光を放つネオン街。そこに「DIO」というライブハウスがあった。そこの近くでタクシーを降り出演者の表を見るとそこには「IRIS」の名前があった。「IRIS」のライブにはたまにだが足を運んでいた。目的は妹の花凛。最近どんどん人気も出てきていて嬉しく思っていた。だが今日の目的は花凛ではなかった。里花のメンバーカラーである紫色のペンライトを片手に諒はライブハウスの中に入った。かなりの客がいた。多くがピンク、黄色のペンライトを光らせており、ぽつぽつと緑色そして数えるほどに紫色が光っていた。やはり里花はあまり人気がないんだなと諒は思った。諒は元々花凛が入っていたから「IRIS」のライブを見ていたという事もあり里花についてはよく知らなかった。だが花凛は里花は本当に努力家でストイックなのだと言っていた。花凛自身も相当真面目なので里花はそれ以上なのだろう。だからこそ人気が出ない事を深く悩み諒に藁にすがる思いで偽装スキャンダルの計画を持ちかけてきたのだろう。そう考えると諒は昨日の自分がとんでもなく恥ずかしかった。ほんの軽い疑問のつもりだろうに辛くあたってしまった。彼女を傷つけてしまっただろう。おそらく里花の性格的に自分を攻めてしまう。今日、諒はなんとなく罪滅ぼしのつもりでやってきた。

時間になり電気が消えた。と同時に「IRIS」のメンバーが登場した。会場は歓声で包まれる。すぐに一曲目が始まった。諒は里花を見た。

その時諒は一瞬自分が太陽を見たのかと錯覚した。スポットライトの光じゃない。本当に里花は輝いていた。聞くだけで心が救われるような歌声と舞うだけで笑顔にされるダンス。諒はその時気づいた。 里花はアイドルなのだ。

その時諒の心臓は恋をした。何よりも赤かった


ライブ終わりの楽屋。

里花は先程からソワソワしていた。理由は1つ。今日のライブに諒が来ていたからだ。確かに来ていた。片手には紫色のペンライトを持っていた。私を見に来ていたんだ。里花は嬉しかった。諒が里花の事を見ていた。今はその事実が何よりも嬉しかった。とその時里花のスマホが鳴った。見てみると諒からLINEがきていた。

「今から会えない?」

飛び上がるほど嬉しかった。また会えるんだ。

と同時に少し不安も感じた。諒はまだ怒っているだろうか?昨日の事は触れない方がいいのだろうか?そんな思いも胸に里花は気づいたら走っていた。

21時喫茶店「Cherry」

覚悟と共に里花は店に入った。


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