第6話 膨らむ薔薇の蕾
翌日里花は桜ヶ丘パラパル遊園地にいた。いつも以上にセットした髪、雑誌をよく見て決めた服、そして待ち遠しそうな顔をして。何故里花が遊園地にいるのか、それは諒に誘われたからだ。
「本当に付き合っていると世間に思わせるために明日デートの練習をしない?」
「いいですね。私もどんな感じか知りたかったですし。」
そうなんでもないように装ったが確実に里花の心臓は高鳴っていた。デート、里花には無縁の物だった。しかも諒と、緊張しない訳にはいかなかった。当日も緊張のあまり早く起きてしまった。相当諒を待たなくてはいけない。時計を見るとつい溜め息をついてしまった。とその時
「ごめん、待った?」
諒の声だ。声の方向を見ると帽子を目深に被り黒いコートとマスクをした男が立っていた。
里花はそれが諒だと一瞬気が付かなかった。おそらく変装用の服装なのだろう。
「いえ、今着いたところです。」
「そっか。じゃあ行こうか。」
そう言うと諒は自然に里花の手を取ると体を寄せた。おそらく練習の一環なのだろうが里花の心臓は激しく高鳴った。12月だというのにひどく体が熱い。諒を見ると諒はニコッと微笑んだ。里花はその時諒に惹かれている自分に気づいた。だがその気持ちに蓋をした。今はアイドルの仕事が優先だ。それに諒は自分の事を好きな訳がない。叶わない思いならいっそ言わなきゃいい。里花はそう思った。
デートはとても楽しいものだった。どんなアトラクションも楽しそうに乗る彼を見て里花はまた来たいなあと思ってしまった。最初で最後かもしれない。そう考えると無性に悲しかった。
帰り諒は里花を家まで送ってくれた。
「じゃあね。おやすみなさい。」
諒はそう言って帰ろうとしたが里花はもう少し一緒にいたかった。
「あの、一緒にお話ししませんか?」
随分変な誘い方だと自分でも思った。だが諒は快くのってくれた。
この前諒と飲んだ時は少し量を控えたが諒が自分の部屋にいるという緊張も相まってつい飲み過ぎてしまった。里花は酔うと口が軽くなってしまう。だから無神経にもこんな質問を諒にしてしまった。
「どうしてそんなに俳優辞めたいんですか。花凛ちゃんも辞めるって言ってるのに止めないし、何かあるんですか?」
そう聞いた瞬間しまった、と思った。お酒の場とはいえ無神経な質問だ。諒の方をちらっとみると悲しそうな苦しそうな表情をしていた。すると諒はこう言った。
「その質問、どうしても答えなきゃ駄目?」
空気が凍るのが分かった。しなければよかったと思ったが遅かった。
「僕、もう帰るね。また今度。」
諒はそう言うと足早に帰ってしまった。里花は部屋で1人で茫然自失としていた。
諒は自分とのスキャンダル作りをもうやめてしまうのでは?里花の胸には嫌な想像が広がっていった。
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