第5話 始まる

「10時に僕の家に来て、計画について話すから。」

その連絡と共に諒の家の場所が送られてきた、なんだかんだで異性の家に行くのは初めてだ。何があるという訳でもないが里花はいつも以上に身だしなみに気をつかった。タクシーの運転手さんに場所を伝えしばらく時間が経つと高層マンションが見えてきた。ここだ。

「今、着きました。」

そう連絡するとまもなく諒がやって来た。部屋着なのかゆったりした服装でテレビでのすっきりした印象と違いついどきどきしてしまった。

「部屋に入って。会わせたい人がいるんだ。」

「誰ですか?」

「会えば分かるよ。」

そう言われ部屋に入った瞬間里花は絶句した。

「何でここに花凛ちゃんが?」

喉から絞り出した声だった。

「里花さん。私の名字覚えていますか?」

「確か、益山だったっけ。」

「ええ、でも実は旧姓は…江成なんです。」

江成、もしかして。

「僕達兄弟なんだ。正真正銘血の繋がったね。」

諒はそう言った。里花は心底びっくりした。しかし言われてみればなんとなく2人は目元が似ている。そういえば花凛はカフェラテが好きだった。里花はなんとなく納得してしまった。

「それでね、里花ちゃん。花凛にはもう全部話したんだけど、花凛は浮気相手の役をしてもらうんだ。」

「浮気相手。そういえば必要でしたね。」

「うん。里花ちゃんを裏切った、ていう体のためにね。」

「妹にやらせるんですか?」

「もちろん顔は隠すよ。里花ちゃんじゃない人っていうのさえ伝われば良いからね。」

「なるほど。家族ならばらす心配もないですしね。」

その時里花はふと思った。先程諒は花凛に計画を話したと言っていた。もしかして私のファンを増やしたいという考えも言ったのだろうか。

もし話しているのだとしたら里花が人気が無いのを気にしているとばれてしまう。諒にはつい喋ってしまったが本来は誰にも知られたくなかった。恥ずかしくて里花は花凛の方を見れなかった。

「あの。里花さん。」

「どうしたの?」

「私がお兄ちゃんの為にこの計画に協力したんじゃないかと思うかもしれないけど違うんです。」

「どういう事?」

そう聞くと花凛は少しバツの悪い顔をして言った。

「来月の野外ライブで1000人集めないと百合香さんがIRISを辞めちゃうじゃないですか。私それがすごく嫌なんです。」

そうなのか。てっきり嫌なのは里花だけで他のメンバーはどうなろうが別に良いと思っている。里花はそう考えていたがそうではないのか。

「私、実は百合香さんのファンなんです。」

「えっ?そうなの?」

初耳だ。

「百合香さんの曲が大好きで。私IRISに入った時最初は千穂と2人だけでやりたかったなって思っていたんです。」

確かに最初2人は加入という形に不満を持っていて、事務所に何度か抗議していた。

「でもある日百合香さんが歌の事で困っていた

私が困ってた時助けてくれて、何度か歌の事で相談している時、百合香さんの作った曲を聞かせてもらえることになったんです。」

そんな事があったのか。里花は全く知らなかった。

「あんなに美しい曲私初めて聞いたんです。本当に心から感動して、私その日から私百合香さんの大ファンなんです。」

確かに百合香の曲は本当に素敵だ。里花も大好きだがまさか近くに熱烈なファンがいたとは。

「手伝わせてください。私まだ百合香さんの隣でアイドルがしたいんです。」

花凛は目に涙を浮かべながらそう言った。

「ありがとう。花凛ちゃん。絶対に成功させよう。」

そういうと花凛は小さな声で

「ありがとうございます。」

と言った。

諒が2人で話したいと言うので花凛が帰ると諒は冷蔵庫からシャンパンを出した。

「飲まない?」

断る理由もなく了承しシャンパンを飲んでいると諒こう言った。

「大丈夫だよ。花凛にはこの計画は僕が俳優を辞めるために一方的に里花ちゃんを誘った物だからって言ったから。」

里花の顔が熱くなったが、それがシャンパンのせいなのか諒の言葉のせいなのかは里花には分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る