第9話 バケモノは全て退治し、全てのイチゴを収穫した、もうここに用はない

左目のうずまきが怪しく回った。

この直撃を受けたのがきゅんだった。


まだ、13歳の乙女にすぎないきょんが目を潤ましてジャガンの方に歩み寄っていた。


(目が変だ? 何を無抵抗に敵に近寄ってゆくのだ?)


ちゃんは「待て!」と叫んできゅんの襟首を掴み、蹴倒した。


それでも、顔を赤らめて立ち上がり、なおも前進しようとする。


ちゃんはきゅんを投げ飛ばし、強引に彼女の杖を奪っていた。


みると、女忍者がジャガンに寄り添っている。


というより、幸せそうな顔をしてジャガンの盾になっていた。


(女を狂わすジャガンの術か?)


もう一人の女忍者はジャガンに捕らわれてはいないが挙動不審だ。


京太郎も刀を構えたまま動こうとしない。


(これはヤバイ事になっているのではないでしょうか。こうなったら……召喚しか手がない)


ちゃんは大急ぎできゅんから奪った杖を使って魔方陣を描き、呪文を唱え始めた。


天空が曇り、雷鳴が轟き、稲光がした。


降臨したのは腰にガンベルトを二つ巻いたチャランチ―ノと呼ばれるボンソワール星では有名なガンマンだった。


この様子を見ていた京太郎は、なぜ……ガンマンなのだと驚いていた。


降り立ったガンマンは禿げていた。


見事なほどに光り輝くばかりのハゲだった。


ちゃんはガンマンに「奥に立っているスーツ姿の男を撃て」と命じた。


ガンマンは抜く手も見せぬ早業で両手で抜いた拳銃を一発ずつ発射した。


その弾丸は生き物だった。


二匹の弾丸たちは「ヒャッホー」「やっちまおうぜー」と雄たけびを挙げながら飛んで行ったが、ジャガンの眼に捕まった。


一匹は「あああ、こりゃなんじゃ。目が回る。なんじゃなんじゃなんじゃ」と言いながら墜落して行った。


もう一匹は「まわるまわるよ~♪ おいらの目がまわる~♪」と歌いながら落下した。


「なんじゃ、これは」と口にしたのは二匹の弾丸だけではなかった。


ちゃんはガンマンに激怒していた。


「せっかく、ボンソワール星から呼び寄せたのに、何の役にも立たないじゃないか」


そういうと、(この役立たずが)とボヤきながら、右手に筒状の洋弓を持つ黒鎧の戦士に変換されていた。


ガンマンは言った。


「あいつは奇妙な魔術を使いよる。でも、その前に倒さねばならないのはこの化け猫だ」


(ああ、確かに)と呟いたちゃんは強弓をズズンという轟音を響かせて放ったが、化け猫は時速数百キロに及ぶ速さの矢をいともたやすく猫パンチで叩き落していた。


ガンマンも二発の弾丸を発射し、それらは軌道を読み取られないようにと巨大な円弧を描いて飛んで行ったが、これもたやすく猫パンチの餌食となり、弾丸たちは「エエーン、全く通用しないよ~」と泣いていた。


仕方がないな、ここは奥の手を使おうとちゃんは右手を大きく回した。


すると森の中から BuuuuuNと羽音を轟かせて数千匹の2センチほどの虫の大群がやってきて化け猫に襲い掛かった。


虫たちの名はニイデラゴミムシである。


お尻からぶっという派手な音を立てて、百度以上の高温の刺激臭あるガスを噴出する虫である。


この虫が放つガスは敵の粘膜や皮膚の組織を化学的に侵すことができる。


特に、目に入ると危険である。


化け猫は数千匹の虫にたかられて悲鳴をあげていた。


全身の粘膜が炎症を起こしている。


特に甚大な被害を受けているのが目だ。


左のうずまきが化学反応を起こして歪んできている。


「とどめを刺してやる」とガンマンが呟くと、禿げ頭がカパッと二つに割れ、そこから台に乗ったロケットランチャーが姿を現し、ズバンという低い音を響かせて発射された。


化け猫はロケットの爆発を受けた衝撃で二転三転していたが、黒鎧のちゃんは転がっている猫の左目に焦点を合わせて矢を放った。


矢は左目に当たって跳ね返されたが、左のうずまきが破壊されたことは確実だ。


化け猫はニャ~ンというかわいい声を挙げて普通の黒猫に戻り、森の中に消えて行った。


残るはジャガン一人だ。

こいつは強敵だぞ。


女忍者を引き付けて盾にしているから迂闊に攻撃できない。


ニイデラゴミムシも役に立たないだろう。


なにしろ、生き物の動きは全て見切られており、かつ、脳を操られるのでゴミムシなど軽く一掃されるだろう。


さて、どうするべきかと思案しているとガンマンの禿げ頭が閉じられ、あらたにバンガロール爆薬筒の一片のような武器が現れた。


ロケットランチャーのように、そこから何かを撃つのかと思っていたら爆薬筒はそのまま飛んで行った。


そして、ジャガンの上空に達するとその筒がパカッと開き、投網みたいに広がった黒い網が投下された。


ジャガンと恭美が網に捕らわれた。


網は嗅いだだけで吐き気を催すような悪臭を放っていた。


さらに、網から稲妻のような閃光が無数に降りかかり、ジャガンのうずまきが攪乱された。


うずまきの効能が弱まり、さらに悪臭によって意識が蘇った恭美は網を持ち上げて脱出した。


「うう、げぼげぼ」と口を押えて苦しむ恭美に、京太郎は駆けより、お姫様だっこをして助け出していた。


それを見た今日子の心に寒風が吹いた。


今日子はジャガンのうずまきによって、ようやく二十歳にして恋だの愛だのの生物的本能に目覚めたのだ。


心に吹いたのは寒風でもなく、隙間風でもなく、ただのジェラシーだ。


は? ということは私が京太郎さんに恋心をということ? ブッブッブブのブーでしょう。


ジャガンも恭美の後を追うように網から出てきたが、表情が虚ろだ。


そこに黒戦士ちゃんが放った矢が飛んできた。


矢は胸を貫いて、ジャガンを樹木までぶっ飛ばし、そこに張り付けにした。


次いで、チャランチーノの弾丸が飛んできた。


「ヒーハー!」


「今度こそし止めちゃうぜ」と叫びながら、一発の弾丸がうずまきに命中した。


うずまきは、脳髄をまき散らしながら消え去った。


もう一発の弾丸はジャガンの心臓を撃ち抜いていた。


きゅんが短剣を片手に握りしめてジャガンに向かって疾走していた。


(おのれ、13歳の乙女心を弄びやがって、許さぬ)と心でつぶやきながら、ジャガンの死体に辿り着き、胸を切り開いて心臓を取り出したが、すでに、心臓はぐしゃぐしゃになっており、一つのイチゴが破損していた。


きゅんが言った。


「二つしか残っていないけど、ま、いいか。これで私たちは魔導士から魔界導師に昇格できるわ」


京太郎が「魔物の頭領はどうするのですか」と訊くとちゃんが答えた。


「魔物はイチゴを持っていないので、僕たちの対象外です。だから、バケモノを全て退治した時点で僕たちの使命は終わったのです」


きゅんが言った「そうなるとここに居る意味がないので私たちは亜空間に戻るわ。さようなら。もうお会いできることはないと思うけど、あなたたちも、早くこんな村からさようならした方がいいわ」


(は? 魔物はイチゴを持っていないから用なしだって。なんじゃそれは)


京太郎は今日子と恭美に「では、僕たちもここから新しい地にタイムスリップすることにしますか」と言って、三人はボンボンヤーを見た。


「また会えるかもしれないけど、お別れですね」


「そんな……殺生な。ここに置いてけぼりですか」


今日子が言った。


「あなたなら大丈夫よ。だってターミネーターだもの。誰も、あなたを壊せやしないから、いつまでもこの村で楽しく生きて行ってね」


こうして、三人の忍者たちは何処とも知れぬ地にタイムスリップして行った。

終わり。

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異空間魔界村のバケモノたち @aaapun

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