第8話 深淵の眼を持つジャガンの魔力

(これは当たらないぞ)と感じた京太郎は、助走をつけ、「いやぁぁぁぁぁ」叫んで大ジャンプを敢行していた。


矢ではなく、刀でサイケババアの顔面を突き刺して樹木に張り付けようという作戦だ。


刀は顔面を突き刺したが樹木までは距離がある。


そこに、今日子が飛んできた。


京太郎の背中に体当たりし、右手で京太郎の刀の柄を押さえている。


さらに、今日子の背に恭美が飛び込んできた。


サイケババアは三人がかりの圧力にも押されて樹木まで押しやられ、そこに張り付けられた。


そして、三人は3メートルの高さからゴロゴロと転げ落ちた。


「おのれ、こんな刀ごとき、引っこ抜いてやるわ」と柄を握ったが、そのとき、狙いすました一撃が戦士の弓から放たれた。


グシュ! という鈍い音を残してサイケババアは樹木に打ちつけられた。


さらに、よろめくように立ってきた新人サイケババアの額にも、ザシュ! という音を響かせて矢が撃ち込まれた。


その勢いで、新人サイケババアも飛ばされて樹木に打ちつけられた。


京太郎は今日子の刀を借りてサイケババアのドレスをつかみながら登ってゆき、刀を掴んでいるサイケババアの両手を何度も突き刺して動きを封じたのち、刀を引っこ抜いた。


「おのれおのれおのれ」


サイケババアは叫び続けたが強く撃ちこまれた矢を抜くことができない。


そして、死刑執行人がやってきた。

きゅんである。


「サイケババアが二人。ふふふ、イチゴが幾つ取れるかしら」


ちゃんが言った。


「新人サイケババアのイチゴはまだ熟していないから食べられないよ」


それを聞いたきゅんは(そうよね。まだ、サイケババアになって浅すぎるものね。でも、ようやくナンバーツーのバケモノのイチゴを食べられるわ)とほくほく顔だった。


さぁて、どのように処分すればいいのかしら。


首を斬り落とせば、また、新しいサイケババアが誕生してくるし、そうかといって、胸を切り開くのも赤いドレスが邪魔になるわ)


そして、考え出したのが、ドレスが防御できていない首を切り開いて、そこに手を突っ込んで心臓をえぐりだすという手法だった。


つまり、サイコババアを生かしたまま、その心臓を抜き取るという残酷な方法だった。


京太郎も、どのようにして心臓を抜き出すのかと興味津々だった。


その方法次第できゅんの本性が見えると考えていて……何かの視線を感じて、ふと上を見上げると枝の上から猫が見ていた。


(猫?)

この世界に来て初めて猫を見た。


猫がいるのか? 地球では普通のことだけど、この殺伐としたバケモノだらけの世界に癒し系の生物がいるなんて。


何か不思議な気がする。


きゅんは切り開かれた首に片手を肩まで入れて心臓をえぐりだした。


命が絶えたサイコババアの赤いドレスは急速に色を失っていった。


やはり、ドレスは肉体の一部だったのだ。


こうして、サイコババア退治は終焉を迎えた。

 

 最後に残るターゲットはバケモノランキング一位の深淵の眼を持つと言われるジャガンである。


今日子の第三の眼は眉間のところにあるが、ジャガンの第三の眼は額のところにある。


そこは眼というより、丸い輪が百個ほど詰まった丸いモノである。


相手を睨みつける事により、対象者に呪いを掛ける魔力と噂されている。


ジャガンは精悍な顔つきをした男のバケモノである。


京太郎はちゃんに訊いた。


「ジャガンとかいうバケモノの棲み処はどこですか」


「お城ですよ」

「お城?」


「森の中にある古城です。ゴルゴンメデューサ城と呼ばれています」


(ゴルゴンメデューサ? どこかで聞いたような名前だな……って、メデューサは頭髪が蛇の見た物を石に変えるという伝説上の怪物ではないか。そういうことは、彼の武器は眼か)

 

 ジャガンはテーブルに紅茶を置き、葉巻をくゆらせて優雅に椅子に座っていた。


くつろいでいたというより、ヒマすぎて呆けていたという方が正しいだろう。


そこに、ニャーと鳴いて一匹の猫がジャガンの膝に飛び乗った。


ジャガンのペットの黒猫ジャンジャラジャンだ。


そのとき、ジャガンの額のセンサーが作動し、眼が異変を伝え始めた。


透視してみると4人の人間らしきモノが映っている。


この映像はジャンジャラジャンに格納されている眼に投影された。


猫は額に眼を持っていないが、左目がうずまきになっている。


ジャンジャラジャンがジャガンに伝えた。


「こいつらはサイケババアをなぶり殺しにしたハンターたちにゃん」


「ハンター?」


「バケモノを殺して心臓をえぐりだしてイチゴを食うという非道のハンターたちにゃん」


 (イチゴを食らう? ということは魔導士たちだな。で、男女の比率はと……、男二人に女二人か、ふふふ)


「出ていくぞ、ジャンジャラジャンもついてこい。久しぶりに上等な生肉を食わしてやる」


ジャガンはスリーピースをビシッと決め込んで出撃した。


頭髪はワイルドにカールしているが前髪を垂らして第三の眼を隠している。


そして、ゆっくりと京太郎たちの前に姿を見せた。


(す、すごく精悍でい、いい男)

 

恭美はすぐにジャガンの魅力の虜になった。


これこそがジャガンの額に埋め込まれたうずまきの魔力である。


誰であれ、女性であるならば、ジャガンの魔力からは逃れられない。


恭美はふらふらとジャガンの元に吸い寄せられて行った。


処女であり、恋愛に無縁な今日子でさえ、その目にピンク色のハートが宿っていた。


今日子も脳は完全にピンク色に染まっていたが、わずかに第三の眼がその動きを阻害していた。


とはいっても、脳は全て洗脳されていたので、第三の眼の威力は全体の3割程度に抑えられていた。


その3割しか残っていない理性で、今日子はかろうじて踏みとどまっていた。

 

(今日子まで挙動不審に陥っている)


京太郎は手のひらをジャガンに向けてズーン! と霊力を放ったが、なぜか命中しない。


(なんだこれは?)

全てはジャガンのうずまきのせいである。


ジャガンの額のうずまきは全ての動きを読んでいる。


千里眼にして先行予知能力。

それがジャガンの魔力の源である。


霊力波がかわされるのであれば、僕が斬りかかって行っても全て交わされるだろうと京太郎は確信した。


手の打ちようがない。


僕たちは全滅する。

京太郎はそう確信した。


そのとき、絨毯が飛んでくるのが見えた。


「来ちゃダメだ、ここに来てはダメだ」と京太郎は心の中で叫んでいた。


しかし、京太郎の願いも虚しく二人はこの地に着いた。


迎え撃つのはジャンジャラジャンだ。


普通の黒猫だった……はずなのに、ジャンジャラジャンは巨大化していた。


しかも、牙をむき出しにした凶悪な風貌と化していた。

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