第7話 サイケデリックモンスターババアは不死身の増殖女だった

最後に残されたターゲットはサイケデリックモンスターババアだけになった。


サイケババアは樹木におおわれた森の中にいた。


真っ赤なロングドレスを着てあてどもなく徘徊していた。


三人とボンボンヤーがサイケババアに迫ってゆく。


今日子がボンボンヤーに言った。


「ターミネーターに変身して彼女に近づき、ロングドレスにしがみついて離れないように」


ターミネーターによって、彼女を固定させようというたくらみである。


ターミネーターは時速百キロの猛スピードで突っ込み、サイケババアのドレスを右手でつかんだ。


突如の乱入者に激怒したサイコババアは、「何をしてるんじゃ、こいつは」と叫びながらターミネーターの頭に空手チョップを打ち込んだが、超合金なのでビクともしない。


「こいつめ、こいつめ」と言いながら、ターミネーターをぶん殴り始めたが超合金なのでビクともしない。


最後は「ウォォォォォ」と叫びながらダンサーのように回転し始めた。


真っ赤なドレスが大きく広がり、細い足とショーツが見えた。


ピンク色のショーツだ。

しかも、小さなチェリーの柄がちりばめられている。


「は?」京太郎が目を凝らした。


(足が超細い。ま、婆さんなので当然か。それにしてもあのショーツはなんだ。婆さんがはくものじゃないだろう)


しかし、どんなに振り回されてもターミネーターは離れない。


今日子が叫んだ。


「ターミネーター、大きくなりなさい。大きく重くなりなさい」


すると、ターミネーターは3メートルほどの筋骨隆々の肉体に変身した。


それでもブンブンと振り回されており、その勢いで周りの樹木がなぎ倒されている。


「凄い構図ね、地獄絵図みたい」と恭美は試しに霊力を照射してみた。


ところが、恭美が放った霊力は赤いドレスによって跳ね返されてしまった。


「なに、あのドレス、ただのドレスじゃないわ」


京太郎が呟くように言った。


「あれは防御服だな。僕たちの刀でも斬れないかもしれない。こうなったら煙玉だ」


三人は煙玉を取り出し、サイケババアの顔をめがけて投げつけた。


唐辛子の粉が舞い散り、「おお」とサイケババアは目を覆った。


「いまだ!」


京太郎は助走をつけて大きくジャンプして、サイケババアの顔を斜め半分に斬り落とした。


サイケババアの黄色い脳漿が飛び散り、頭の二分の一が吹っ飛んだ。


しかし、サイケババアは倒れずに相変わらず回り続けている。


それどころか、斬られて吹っ飛んだ頭から赤いドレスを着た新しいサイケババアが生まれてきた。


京太郎は叫んだ。


「サイケババアはプラナリアだ。斬れば斬るほど新しいサイコババアが生まれてくるぞ」


気が付くと、サイケババアは何の違和感もなく二人並んで踊っていた。


(あっ、もう少しでデュオを組んで歌いだすかも)


そう考えると鳥肌が立つ。

やっぱり、バケモノははかり知れない。


「どうすんの」

今日子が恭美に話しかけた。


「一人でもやっかいな奴なのに、それが二人になったって。やってられないわよね」


「ターミネーターもまったくの役立たずだし。マジでどうすんのよ」


そんななか、京太郎だけが元気だった


。「やるきゃっない。ちゃんときゅんに爆弾を持ってこさせてそれを抱えたターミネーネータを突っ込ませるとか」


ただちに今日子が反論した。


「何をイージーなことをいってるの、爆弾なんて赤い防護服には通用しないわよ」


「それもそうだよね。でも、霊力も刀も爆弾も通用しないとなると、後は毒か」


「それだって、肉体と幽霊の中間形態のようなバケモノに通用するかどうか」


そこに、絨毯に乗ったちゃんときゅんがやってきた。


(また、この二人の魔法に頼らないといけないか)


そう思うと忍者としての矜持が許さない……気がするが背に腹は代えられない。


「サイケババアが一人増えてしまったんだけど……」と京太郎はちゃんに言った。


即座にちゃんは「いい方法がありますよ」と言った。


「なに?」


「寄生バチを召喚するのです。そして、サイケババアに麻痺毒を打ち込み、彼女たちの体内に卵を植え付けるのです」


「蜂の毒で体を麻痺させて蜂の幼虫たちに生きたまま食べさせるということですか」


「そうです」


「はぁ? バケモノの体が幼虫のエサになりますかねぇ」

京太郎は疑心暗鬼だった。


「わたしはならないと思う。だって、相手は生物じゃなくバケモノだから」と今日子ははっきりとちゃんの案を否定した。


「ま、それは一理ありますね。仕方がない、もう一度、黒鎧の戦士に変換しましょうか」


「それでどうするのです。サイケババアを斬るのはご法度ですよ」


「いや、斬りはしません。弓矢で撃つのです。撃って殺すのではなく、頭部を射抜いて樹木に打ち付けて、体の自由を奪うのです」


 (なるほど、それは考えていなかった。さすが魔導士だいろんな知恵を持っている)と京太郎は感心していた。


頭さえ固定してしまえば、手足の自由を奪うのは簡単だ。


あのお婆の武器は手足の打撃系だけで飛び道具を持っていないからたやすく成敗できる。


ちゃんはバーサーカー姿の黒鎧の戦士に変換した。


右手にはあの筒状の洋弓を携えている。


サイケババアは近づいてくる黒鎧の戦士をみると「サァバーカァ」と意味不明の叫び声をあげた。


それが合図かのように新人サイケババアがもの凄い勢いで突進してきて、ハイジャンプの回し蹴りを放った。


戦士は左腕でガードしたが、新人サイケババアの勢いは止まらない。


バッバッバと連続で足刀を繰り出し、延髄斬りを決めたが鎧で装備されているのでダメージはほとんどない。


さらに追い打ちをかけてくるのを左の腰から抜いた短剣を長剣のように伸ばして顔に突き刺した。


「ウガガガガ」と言いながら後退した新人サイケババアは捨てておいて、戦士は洋弓を絞り、元祖サイケババアを狙い撃った。


しかし、矢は巻き上がった赤いドレスに遮られてどこかに飛んで行った。

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