鬼の居る寺6
「え……ええっ!!」
元真が、驚いて声を上げる。法眼は、苦笑しながら答えた。
「よく分かりましたね。出来れば、他の方には内密にして頂けると助かります」
「ただでさえ人殺しがあって面倒なのに、そんな事言わないよ。あんたが悪い鬼じゃないのは、先程の住職とのやり取りを聞いていて分かるしね」
「ありがとうございます」
法眼は笑って礼を言った。
時子が、法眼の側に来て囁いた。
「法眼様が香を焚かれても平気だったのは、前もって薬を飲んでいたからなんですね」
「ああ、実は最初に先生と遺体の検分をした時に香の事を思いついて、こっそり庭の薬草を口にしたんだ」
「……心配しました」
「……悪かったな」
法眼は、申し訳なさそうにして言った。
それからしばらく四人は庭にいたが、やがて光明がやって来た。
「法眼、そろそろ交代しましょう」
「ありがとうございます、先生」
光明は、庭を見渡しながら言った。
「大分悪霊が減りましたね。ご苦労様です」
「まだまだですけどね。一体ずつ除霊するのでどうしても時間が掛かります」
「そうですね、一体ず……」
急に光明の言葉が止まった。
「どうしました? 先生」
法眼が聞くと、光明は口角を上げた後答えた。
「いえ……あの盗賊を殺害した者を特定する方法を思いつきましてね」
しばらくして、法眼達五人は本堂に戻って来た。
「遅かったな」
直通が言うと、光明は笑って応えた。
「ええ、実は、あの盗賊を殺害した者が誰か分かりまして」
「本当ですか!?」
八重が目を見開いて聞いた。
「ええ、あの盗賊を殺害したのは……与一さん、あなたですね」
しばしの沈黙が流れた後、八重が反応した。
「そんな……この人が犯人だなんて、冗談はやめて下さい!」
「そ、そうです。何故私が犯人などと……」
与一も反論したが、光明は冷静に言った。
「……悪霊がこの寺にいるのはご存じですよね?」
「え、ええ……住職から伺いましたから」
「亡くなった盗賊は、己の命を奪った者を憎んでいるでしょうねえ。……それこそ、悪霊になる位に」
「……?」
与一が、わけが分からないといった表情をした。光明は続けて説明する。
「つまり、私は彼の霊体を探し出して、彼を殺害した者の名を聞いたのですよ」
与一の目が、これ以上ないくらい大きく見開かれた。
「悪霊の数が多すぎるので、私と先生で関係のない悪霊を浄化しましたが」
法眼が口を挟んだ。ちなみに、光明に犯人が誰かを伝えた後、盗賊の霊は「あの男、呪ってやる!」と言っていたが、有無を言わさず光明が浄化した。
光明の言葉を聞き、与一はただ身体を震わせている。
「本当にあなたが……?どうして……」
八重が言葉を発すると、与一は小さな声で言った。
「……子供の頃、私の家が盗賊達に襲われた事は話しただろう?」
「ええ……まさか!」
「ああ、そのまさかだ。私の家に押し入り、私の両親と姉を殺害したのは、あの男だったんだよ」
今回夫婦で旅をしている最中この寺に寄ったが、あの盗賊の顔を見た瞬間与一は驚愕したと言う。昔与一の家が山賊に襲われた時、与一は家の中に隠れながら盗賊が与一の家族を殺害するのを目撃した。
その時見たのと同じ顔が目の前にあったのだ。
「……それで、用を足しに行くと言って蔵に行き、蔵にあった鎌であの男の首を斬りつけました。……済まない、八重。お前を人殺しの妻にはしたくなかったが、どうしてもあの男を許せなかったんだ」
「……
八重は、涙を流しながら呟いた。
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