鬼の居る寺7

 その後、法眼達は話し合い、与一は縄で縛った状態で本堂に泊らせ、翌日検非違使に引き渡す事になった。


 皆が寝静まった頃、法眼は一人庭で悪霊の浄化をしていた。少なくなったとはいえ、まだ悪霊はいるのだ。



「お疲れ様です」


 不意に声を掛けられる。そこにいたのは、元真だった。


「……どうなさいました?こんな時間に」


 法眼が問い掛けると、元真は苦笑しながら言った。


「眠れないので、起きてきてしまいました。結界の様子も確認したいですし」

「……そうですか」


 法眼は、それ以上何も言わず、浄化を続けた。元真は、しばらく黙って浄化の様子を眺めていたが、やがて口を開いた。


「……法眼様は、誰かに復讐しようと思った事はありますか?」


 法眼は、浄化をする手を止めて元真に向き直ると、真っ直ぐ元真の目を見て言った。


「ありますよ。何も悪い事をしていない私……俺の家族が村人から責められて石を投げつけられているのを見た時は、八つ裂きにしてやりたいと思いましたね。まあ、今では彼らにも事情があったと割り切る事が出来ますが」


「……羨ましい」


 元真は、ぼそりと呟いた。


「私の父は鬼に命を奪われましたが、その鬼も退治されました。復讐したくてもする事が出来ないし、鬼にも事情があったのだと割り切る事も出来ない。……割り切る事が出来るあなたが羨ましい。更に言うなら、今回家族の敵を討った与一さんの事も羨ましい」

「ずっと……苦しんでおられたのですね」

「ええ……」


 元真は、父親の事を尊敬していた。父親を殺され鬼を憎んだが、怒りのやり場が無く、ただ悲しみを抱えて生きてきた。ただ、父親に起きた事を忘れないように、父親の命を奪った鬼が持っていたといわれる鎌を蔵に保管していた。

 今回杠葉ゆずりはと法眼が鬼の匂いを感知したが、それは鎌に残っていた鬼の匂いだろう。


「そう言えば、先代が亡くなった時、あなたもこの寺にいたのですか?いたのだとしたら、よく助かりましたね」

「私はたまたま母と一緒に遠出をしておりましたので。事の子細は、事後処理に当たって下さった役人から聞きました。まあ、その役人も、鬼を退治した陰陽師から経緯をお聞きになったようですが」

「そうでしたか……あなたが無事で良かった。きっと、先代もそう思っているでしょう」

「……そうですね。そう思ってくれていると思います」

「……あなたの苦しみは、一生消える事は無いかもしれない。でも、少しでも苦しみが和らぐよう願っています」

「……ありがとうございます」


 そう言うと、元真は夜空を見上げた。いつの間にか、雨は上がっていた。

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