鬼の居る寺1
白樹の件が落ち着いてから二十日程経ったある日の夕方、時子、法眼、光明、直通の四人は、ある寺の門の前に立っていた。
「……おい、本当にここに泊るのか?」
直通が、眉を
「……宿坊として使える寺は、この近くには他に無さそうです。一晩こちらに泊らせて頂きましょう」
光明も、溜め息を吐いて言った。
四人は、今朝まで光明の別邸を訪れていた。光明の別邸はしばらく使われておらず、光明自身も二十日程前久しぶりに訪れたが、屋敷の手入れが行き届いていなかった。そこで、改めて別邸に赴き、部屋の掃除や整理をする事にしたのだ。
時子、法眼、直通の三人も手伝う事になり、今朝まで屋敷の手入れをしていたが、帰りが思ったより遅くなった。書物の整理に時間が掛かった上に、帰り道で盗賊に襲われた。まあ、その盗賊達は法眼達でほぼ全員捕縛し、
「屋敷の手入れに駆り出したばかりにこんな時間になってしまい申し訳ございません。今から都に帰るとなると夜中になってしまいます。この寺に泊めて頂きましょう。……まあ、この状態の寺では不安になるのも分かりますが」
光明が、顔を上げて寺全体を見渡した。寺は小さく古かった。それだけではなく、庭の手入れもされていないようだった。
しかし、光明が「この状態」と言ったのは、そういった事を意味しているのではない。寺の中から、数々の悪霊の気配を感じるのだ。
「……時子をこんな所に泊めるのは気が進まないが、夜中に歩き回る方が危険だな。悪霊なら俺や先生で何とか出来るし、ここに泊めてもらおう」
法眼も寺を見ながら言った。
「皆様が一緒なら心強いです」
時子が微笑んで言った。
寺の門を叩くと、しばらくして一人の僧侶が現れた。
「お待たせして申し訳ございません! 実は少々立て込んでおりまして……」
二十代位の年齢の僧侶は、少し息を切らして言った。
「それは、もしかして寺の中にいる悪霊の事でしょうか?」
光明が言うと、僧侶は目を見開いて言った。
「何故それを……悪霊が見えるのですか?」
「ええ、私とこの男は陰陽師です」
光明が法眼を手で指し示しながら言うと、僧侶は目を見開いた。
「陰陽師でしたか!……実は、悪霊の退治に手こずっていたのです。突然で申し訳ございませんが、悪霊の退治を手伝って頂けないでしょうか」
光明と法眼は、顔を見合わせた。
それから法眼達四人は、僧侶に案内され本堂へと向かった。歩きながら改めて法眼が庭を見ると、そこかしこに悪霊がいる。寺の外に出ようとしている悪霊もいるが、結界が張ってある為出られないようだ。
「この結界はあなたが?」
法眼が聞くと、僧侶は頷いて言った。
「はい、悪霊が寺の外に出て暴れると大変な事になるので。結界を維持するだけでも体力を削られるので、皆様が来て下さって助かります……ってうぎゃあっ」
僧侶が悲鳴を上げた。悪霊が一体僧侶の方に襲い掛かって来たのだ。僧侶は、目に涙を溜めながらも懐から数珠を取り出し、悪霊に向けた。すると、悪霊は何を思ったか、僧侶の元を離れていく。
「……もしかして、その数珠には魔除けの効果があるのですか?」
光明が聞くと、僧侶は苦笑して答えた。
「はい、先代の住職……私の父から魔除けの数珠の作り方を教えてもらいました。まあ、悪霊がこちらを避けるというだけで、悪霊を浄化できるわけではありませんが」
「そうですか……」
光明はそう言いながら、自身に向かってくる悪霊を呪符で浄化していった。
法眼に至っては、時子と直通に襲い掛かる悪霊まで浄化している。あまりにも簡単に浄化しているように見えるので、僧侶はぽかんと口を開けていた。
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