白髪の鬼7
それから三日が経ち、時子と法眼は、牛車で帰途についていた。都に帰ったら、光明や直通と鬼ヶ原神社で会う事になっている。
牛車の中で、法眼が思いついたように言った。
「そうだ、お前に一つ教えておく」
「何でしょう?」
「
「はい?」
「俺の本名、紅玉っていうんだ」
なんでも、赤子の法眼が捨てられていた時、側に『紅玉』の名を記した木札が置いてあったとか。
時子は、法眼が滅多に本名を教えないと言っていた事を思い出した。そして、法眼を見ると嬉しそうに微笑んだ。
「光明様や直通様にも、本名をお伝えになるのですか?」
「伝えるつもりだ。心配掛けたからな」
数日後、鬼ヶ原神社に紅玉と時子が到着すると、既に光明と直通が中にいた。二人は、笑顔で法眼と時子を迎えた。
「おかえりなさい、紅玉」
「やっと帰ってきたか、紅玉」
「ふざけるなよ」
何で教える前なのに本名を知っているんだと思っていると、人間の姿の杠葉と目が合った。
「お前か」
「まあまあ、そもそも、お前が法眼などという位を名乗っているのがおかしかったのです」
「私達は散々心配したのだから、式神に見張らせる権利くらいあるだろう」
ひとしきり言い合った後、紅玉は三人に今回の事情を話した。
「そうですか……。あの白樹という鬼は、本当にお前の兄上なのですか?」
「ああ、恐らく。……俺と似た匂いがしていた」
「あの鬼、またお前と会うつもりらしいが、時子を危ない目に遭わせるなよ」
直通が釘を刺す。白樹は危険な鬼だ。最近行方不明になった貴族達も、白樹に食われたのだろう。
「危ない目に遭わせるつもりはない。仮にそうなっても、全力で守る」
「……時子と離れるとは、言わないんだな」
「覚悟を決めた。……時子が離れたいと言わない限りは離れない」
紅玉が時子の方に顔を向けると、時子もしっかりと紅玉を見ていた。
光明が話題を変えた。
「あの村はお前の故郷との事でしたね。今回村が焼かれましたが、お前を育てた夫婦がどうしているのかはわかっているのですか?」
「……あの二人は、随分前に亡くなっていた。今回村に来た時、墓を見つけたんだ」
紅玉が目を伏せて言った。
「……近いうちに墓参りしようと思っている」
「……それがいい」
光明が優しく笑った。
あの夫婦に報告したい事が沢山ある。陰陽道の鍛錬を積んだ事、良い師匠や友に出会えた事、そして、大切な女性が出来た事。
紅玉は、自分の側にいる三人を見て、静かに笑った。
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