笑う女1
よく晴れたある日、芦原家の時子の部屋に、一人の客人がいた。
名を芦原
「本日はどうされました?」
時子が微笑んで綾子に尋ねた。
「……あなたは、腕の良い陰陽師と知り合いだと聞いたわ。紹介してくれないかしら。陰陽師に相談があるの」
聞けば、綾子の兄、
「……そうでしたか。私の父も病に臥せっていたので、お気持ちはわかります。診てもらえないか聞いてみましょう」
「ありがとう。恩に着るわ」
綾子は、目を伏せて礼を言った。
「それで、何で俺の所に来る?」
鬼ヶ原神社の中で、眉を寄せながら法眼が尋ねた。神社の中には、法眼、時子、光明、直通の四人がいる。
話を聞くと、まず、時子が光明に相談を持ち掛けたとの事。法眼に相談しようかとも思ったが、陰陽道にある程度詳しくても、法眼を貴族にあまり関わらせるのは危険だ。正体が露見する可能性も考え、時子は一旦法眼には相談しない事にした。
光明が続けて説明する。
「しかし、私もこう見えて忙しい身でね。綾子様の相談に乗るのに手伝いが欲しいと思ったのですよ。それで、お前に目を付けたわけです。……私にも陰陽師の知り合いは大勢いますが、はっきり言って実力も人格も大した事ない方ばかりです」
妖艶な笑顔で語っているが、陰陽師の方々は酷い言われようである。
「見るところ、お前は私より腕が劣るが、知識はあるようだし、式神を人型に変えて操るくらいはできるようだ。お前の牙も私なら見られないように細工できるし、私の助手として同行しなさい」
「いや、断る理由は無いけど……助手……まあいいか。行くよ。しかし……何故こいつもいるんだ?」
「私が直通様にお伝えしました。その方が面白そうなので」
「時子と光明が法眼の所に行くと聞いてな。万が一にも時子と法眼が二人きりにならないように見張りに来た」
光明と直通の笑顔が恐い。何はともあれ、法眼は実継のいる屋敷に同行する事になった。
数日後、時子、光明、法眼の三人は、実継とその妻の住む屋敷に来ていた。三人を迎え入れたのは、先に屋敷に来ていた綾子だった。
互いに自己紹介を終えると、四人は早速実継のいる部屋に向かった。部屋の襖を開けると、そこにいたのは真面目そうな男性だった。実継は二十二歳との事だが、もっと上の年齢に見える。
「わざわざ来て頂き、ありがとうございます」
実継は、陰陽師達に礼を言った。少し苦しそうな表情をしているものの、陰陽師二人が病状に関する質問をすると、実継は丁寧に答えていった。
「成程……二か月程前から症状が……」
光明は、目を伏せながら考え込んだ。
しばらくすると、実継の部屋に入ってくる者がいた。実継の妻、
彼女の姿は印象的だった。少し茶色がかって縮れた髪の毛が垂れ下がっている。美人の条件と言われる髪の毛ではないが、何故か魅力的に見えた。
「あら、もうお客様がいらしていたのね……。失礼致しました。実継の妻の麗子でございます。宜しくお願い致します」
そう言って麗子は少し微笑んだ。二十二歳にしては幼い顔立ちに見える。
「綾子様、何か私に出来る事はあるかしら」
「いえ、陰陽師の方々の対応は私や侍女で致しますので、あなたはご自分の用事をなさって」
「そうですか、何かありましたら呼んで下さいね」
そう言って麗子は部屋を去っていった。綾子が麗子を見る目には、冷たいものが含まれていた。
病状等の聞き取りを終え、時子、光明、法眼、綾子の四人は、綾子が泊まる予定の客間に集まった。
「それで、兄の病の原因はわかりましたでしょうか、光明様」
早速綾子が切り出した。
「ええ……高度な呪いを掛けられているようですね」
「
綾子が顔を歪めた。綾子は、麗子が実継を呪詛したのだと思っている。理由は、一言で言うと財産。
そもそも麗子は、実継との婚姻が初めてではない。十九の時に最初の夫である大江雅広を亡くし、その後すぐ実継と再婚している。
綾子は、麗子が自分の夫の財産を食い潰し、用済みになったら次の夫を探す女だと思っているのだ。
「今の段階では、呪詛したのが誰かはわかりません。明日また詳しく調べてみましょう。……しかし、再婚が早すぎるとはいえ、呪詛したのが麗子様だと断定するのは早計なのでは?」
光明の疑問に、綾子は眉を顰めたまま答えた。
「でも、知人から聞いたのよ。あの女……雅広様の葬儀で、笑っていたって……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます