黒い靄(もや)4
「消えてしまいたい……」
六人を収容し狭くなった社務所の中で、法眼は頭を抱えた。子供と混ざって遊んでいるのを赤の他人に見られ、恥ずかしかったらしい。
「……とにかく、事情は分かった」
法眼や牡丹についての話を聞き終えた直通が言った。
「私には見えないが……光明、その子の黒い靄とやらは、何とかできるか」
「やってみましょう」
「ありがとう。それはそれとして……法眼、私はお前を信用できない。もう時子に近づくな」
「まあ……そうなるよな」
法眼は、面倒臭そうに頬を掻いた。
「待って下さい、この方は悪い鬼ではありません」
時子が慌てて言う。
「この鬼がお前を騙していない証でもあるのか?」
「それは……」
「まあまあ、法眼も今すぐ時子様をどうこうする事もないでしょう。とりあえず、この牡丹という子の靄を何とかしましょう」
光明がにこやかにその場を収めた。そして、懐から呪符を何枚か取り出し、呪文らしきものを唱えると、その呪符を空中に飛ばす。
すると、その呪符が炎を纏い、牡丹の周りをぐるぐると回り出した。牡丹の周りの黒い靄が散っていき、代わりに女性の姿が浮かび上がる。
「この女性が、黒い靄の正体です」
光明が言った。霊を見る能力が無い牡丹、直通、紫苑の目にも、はっきりと女性の姿が見えていた。白い衣を着た、美しく若い女性だった。
女性は、涙を流しながら一言だけ呟いた。
「私の子……」
法眼が牡丹を見て聞いた。
「お前の母親なのか?」
「ううん、私のお母さんと全然顔が違う」
牡丹は、何故か法眼にだけ敬語を使わない。
「恐らく、子供を亡くした女性でしょう」
「そうだとして、何故この方は牡丹に付き纏っているのでしょう。まさか、牡丹を自分の子供と重ねていて、
光明と時子が思案する。
「それにしては、黒い靄からは悪意を感じたぞ。子供を失くして悲しむ女が、牡丹に対して悪意を抱くか?」
法眼の言葉を聞いて、光明が目を見開いた。
「そうか……悪意を抱く相手……私は大きな思い違いをしていたのかもしれない」
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