治らぬ病2
それからしばらくして二人は、時子の住む屋敷の中に足を踏み入れた。
「……この格好は、落ち着かないな」
そわそわした様子で鬼が言った。先程まで鬼は簡素な衣を着ていたが、今は貴族のような立派な格好をしている。
どこから見繕ってきたのか、時子が鬼に着物を渡してきたのだ。
「鬼だと気付かれるわけにはいきませんからね」
廊下を歩きながら、鬼は庭を眺めた。貴族の屋敷だけあって庭は広く、よく手入れされている松の木や池が目に入った。
前を歩いていた時子は一つの部屋の前で立ち止まると、中へ声をかけた。
「父上、入ってもよろしいでしょうか」
「……ああ」
部屋の中に入ると、一人の男性が上半身だけ体を起こした状態で床に居た。まだ歳は四十にもなっていないはずだが、病のせいか年老いて見える。
他には誰もいない。
「この方は、陰陽師の
ここに来る道中で考えた偽名だ。
「お初にお目にかかります。鬼四と申します。突然の来訪で申し訳ございませんが、よろしくお願い致します」
「こちらこそ申し訳ない。娘が無理を言ったのではありませんか?」
「いえ、時長様のお役に立てれば幸いです」
世間とあまり関わっていなかった割に、鬼はその場に合わせた言葉遣いが出来た。
「本日はお体の状態等お話を伺うだけにして、明日改めてこちらに伺わせて頂きます」
鬼は改めて症状やその強さ、いつ頃から症状が出たか等を聞き出し、その日の面談を終えた。
「父上、私は法眼様を門まで送って参ります」
時子がそう言うと、鬼は時長に
◆ ◆ ◆
「どうでした?」
廊下を歩きながら、時子が鬼に問う。
「毒だな」
「毒?」
「ああ、最初は高度な呪いでも掛けられているのかと思ったが、呪いでも何でもない。食べ物か飲み物に毒が入っていたんだろう。お前の父親の体から、毒の匂いがした。……全く、俺の前に診た陰陽師は何をしていたんだか」
「鬼は、嗅覚が人間より優れているのですね」
「ああ、何の毒かも見当がついている。問題は、どの食べ物又は飲み物に毒が入っていたか。故意か過失か。故意なら、誰が何故毒を盛ったかだな」
「それを明らかにする手段はあるのですか」
「ああ、既に手は打ってある」
そう言うと、鬼は懐から白い紙を取り出した。掌に乗る位の大きさで、人型に切ってあるようだ。
「これは?」
「式神だ。妖の魂を封じ込めた簡素なものだけどな。これと似たものを屋敷に送り込んである。式神も俺と同じで嗅覚が優れているから、毒の出所を突き止めてくれるだろう」
「式神を操る事もできるなんて凄いですね」
「……昔、人間に教わったんだよ」
それ以上、鬼は何も言わなかった。時子も、詳しく聞こうとしなかった。
「それでは、明日も宜しくお願い致します、法眼様。……二人きりの時もこの呼び方で宜しいですか?本名を存じ上げませんけど」
「好きなように呼んでいい。本名は、それ自体が呪いに使われる事もあるし、滅多に教えないようにしている」
「そうですか。それでは、改めてまた明日お願い致します。法眼様」
そして、鬼――法眼はねぐらに帰っていった。
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