ホワイトチョコレートは中毒の始まり

ホワイトチョコレートは中毒の始まり


◇◇◇◇



カー君の家の前。


もうマフラーは必要ないけど、まだ冷たい風が髪をなびかす。


昨日、カー君から合格したって電話を貰った。


私も無事合格したから、つまり来月の4月から私達は高校生になるんだ。


先週あった卒業式ももう一年以上前な気もするし、ついさっきなような気もする。


どのみち、自分がもう高校生になるんだってことがまだ不思議な感覚なのだ



今日は、二人の合格祝いのためにカー君の部屋に行くことになったけど。


私はいつも以上に緊張した。


深呼吸をしてもドキドキが落ち着くことはない。



今日は……今日こそ、“言うんだ”



カー君の家のインターホンを押した。


しばらくしてカー君が出迎えてくれた。



「ん、あがれよ」


「おじゃまします」



玄関に入ってすぐにおばさんがエプロンで手を拭きながらやってきた。



「あら、藤子ちゃん。いらっしゃい。もう夏月も藤子ちゃん呼ぶならそう言ってよ。すぐお茶用意するわね?」


「いらねー」


「夏月が答えてどうするのよ」



カー君とおばさんのやりとりを見てフフフと軽く笑っているとカー君に腕を引っ張られた。



「ほら、俺の部屋行くぞ」


「あ……うん」



先に階段を上るカー君をチラッと見てからおばさんに軽く頭を下げたら、おばさんはニコニコと話しかけてきた。



「そういや藤子ちゃんも合格して春から撫子高校でしょ?」


「はい。カー君に勉強見てもらったおかげでなんとか頑張れました」


「藤子ちゃんの役に立ててあの子も嬉しいわよ、きっと」


「……そんな」


「夏月も藤子ちゃんに撫子に受かって欲しかったでしょうし」


「……?はい、そうですか」



おばさんはニヤニヤと私に耳打ちした。



「あの子ね、銀杏高校はギリギリだったんだけど藤子ちゃんが撫子高校に行くって知ってから『あそこ受験する』って言うもんだから」


「え……?」


「ほら、銀杏と撫子って最寄り駅一緒じゃない?学校も近いし」


「……えっと」


「本当は同じ学校行きたかったのかもしれないけど……まぁ撫子高校は女子校だから」



上からドスドスと乱暴な足音が降りてきた。



「何勝手なこと言ってんだよっ!!!!」



おばさんに怒鳴りつけるカー君の顔は真っ赤だった。


おばさんは怒鳴られたのにそんなカー君にニコニコ笑うだけだった。



「トーコ!!早く来い!!」


「……う……うん!!」



カー君の怒鳴るターゲットがおばさんから私に変わって私は慌ててカー君を追いかけた。


カー君の部屋に入って、思わず進学先のことについて、改めて確認したくなったから、



「カー君……さっきの……」



聞きかけたけど……



「忘れろ!!何でもねぇから!!」



その言葉で終わらせられた。


……でも、気になる。



「あ……あの」


「で?今日は何?」


「……っあのね!!!!」


「何?」


「もしカー君が合格したら……高校……一緒に登校してもいいの?」



カー君はブッと吹いては咳き込んだ。



「いや、ホントさっき母さんが言ったのは忘れろ!!」


「私も……私もなの!!」


「……え、何が?」


「カー君と高校離れるって思った私は……それでもカー君と離れるの……イヤで。せめて近い所を選んだの!!少しでも接点が欲しくて」


「は?」


「クラスの人が……カー君は銀杏高校かなっていう話をしてたから」


「……」



改めて、言葉にすると、ストーカーっぽい。


だから妙に焦って、首を振った。



「も……もちろんそれだけじゃないけど!!自分の学力に合わせてとか、ほ……他にも……撫子高校なら……ちょうどいいなって、えっと」


「……」



カー君の腕の中。



顔に触れるカー君の胸から息遣いが伝わった。


空いた手はカー君の腰あたりの服を力なく掴んだ。



「……カー君」


「俺は……別に銀杏って決めてなくて……バスケ推薦の私立じゃなくて、多分公立かなって……思ってたぐらいで」


「……うん」


「……お前が勝手に女子校進学決めて」


「……え?……えぇ?」


「俺と離れるのが平気みたいな顔してたのがちょっとムカついた……だけ」


「ムカついたって言われても」


「まぁ高校は違うだろうなって思ってたけど、お前から離れるのは違うだろ」


「な……なにそのガキ大将発想」


「黙れ。だから銀杏選んだのに、お前は関係ないから。マジで」


「でも……」


「……ちょっと黙ってろ。……このまま」



ギュッとされる腕に心臓がドキドキドキとうるさい。


ずっと抱きしめられてて、色々言い返しながらも実は頭はパニックだった。


カー君の手が私の背中と腰を撫でた。



「……お前、ちょっと痩せた?」


「な……何言ってるの?何でわかるの!?カー君のエッチ!!」



カー君の背中を何度も叩くとカー君は抱きしめる手を緩めてくれた。


実際にちょっと痩せたかはわからないけど、ちょっと嬉しい。



「あんまりコンビニに行ってチョコ買わなくなったから……かな?」



照れて、そう言うと「へぇー、良かったじゃん」と言ったカー君にもう一度抱きしめられた。



「……でもチョコ食べたいのに……ガマンしてるだけで本当はもっと食べたい気持ちはあるよ」


「……ふーん?」



カー君はサラッと私の前髪を分けるように顔を撫でた。



「……チョコ好きは……欲求不満っつったじゃん」


「え……いきなり……何?」


「アレ、なんでか知ってる?」


「……知らない」


「チョコを口にした時の快感がキスの4倍以上あるからだって」


「き……キス!?」



カー君は笑ったのが胸の振動でわかった。



「トーコの欲求不満」


「そ……そんなつもりで言ったんじゃ……。それに……」


「それに?」


「……キスしたことないんだから……わかんない」


「……」


「……」


「ちょっと待て」



カー君はベリッと私の体をはがした。



「お前、キスしたことがあるっつったじゃねぇか。やっぱ嘘か」


「う……ウソじゃない」


「まだ言うか!!」


「そ……それは……えっと、カー君だよ」


「は?」


「幼稚園の時にカー君としたチューのことを言ってます。覚えてる?」


「……」


「……そ……それだけ。」



あぁ、笑われる。


見栄っ張りがバレてしまった。



カー君は私を抱きしめる形のまま、脱力したように私に寄りかかってきた。



「わ……重。……カー君?笑わないの?」


「……笑いたい」


「でも笑ってないね?」


「……うん、笑おうと思ってんだけど……もう……いいや」


「……」


「……お前にキスしたヤツなんていなかったってんなら、それで、もう……いい」



おでことおでこがくっついて、すぐ目の前がカー君の顔。


カー君との距離にドキドキしている間に、唇にフニと何かが触れている。



息が……止まる。



「……どうだった?」


「え……え、……え?」


「チョコと一緒だった?」



チョコ……キス……



私、今……カー君にキスされた……。


私は頭が真っ白になりながら、なんとか必死で言葉を考えた。



「え……え……」


「チョコの代わりになった?」


「……わ……わかんな……かった」



おでこにカー君のおでこの重ねて、カー君は目をつぶってフッと笑った。



「……うん、俺も」


「あ……あ、あの……」


「俺も初めてだからよくわかんなかった」


「……え?……うそ。」


「トーコ」



すっごい近い距離で目を開けて私を見つめたカー君はニヤッと笑った。



「じゃ、あと3回な」


「え……」


「それでチョコ一個分」



恋をするなら、甘い方がいい。


私は理由も知らずにチョコに魅かれていた。



だけど実際、私が恋したカー君とのキスはチョコの味なんてしなかった。



ただただ真っ白。



「……かーくん」


「……もう一回」



頭が痺れる、とろける、熱くなる。


クセになる。



頭はとろけるまま、口が動いた。



「カー君……」


「……ん?」


「い……言いたいことが……あるの」


「何?」


「……好き……だよ」



パチパチと瞬きをされたあと、赤い顔でカー君もトロンとした目つきで頷かれた。



「……ん。俺も……好きだよ」



チョコもう一個分の、おかわりを交わしながら、二人で確かめる。


中毒の始まり。



【Fin】

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チョコレート中毒には理由[ワケ]がある 駿心(はやし こころ) @884kokoro

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