最終章 これから

第16話

(ライ!、ライ!)

私はライを探して、走った。

(早く、逢いたい!…ライが香じゃなくても!みんなのおかげで前に進めたから!…ライに、この気持ちを!)

「キャー!火事よ!」

「…え?火事?」

叫んでいる方に目を向けると、家が燃えていた。

「…!大変!」

私は家に近づくと、妊婦さんが家に入ろうとしているのをおばあさんに止められていた。

「はなして!…パキラ!まだ息子が家にいるんです!」

「あんた妊婦じゃないか!思うように動けないし、お腹の子が死んじゃうよ!」

「でも!パキラがまだ生きてるかも知れないんです!行かせてください!」

「…大丈夫!私が行くから待ってて!」

「…え?」

「お嬢ちゃん!ダメだ、危ない!戻りなさい!」

私は窓を割って中に入った。


「すみません。チェル来てませんか?」

ライは、チェルを探してマリーのところに来ていた。

「ライ?チェルならライを探してさっき出て行ったわよ?」

「入れ違いだったみたいだな。ありがとう。探してみるよ。」

「…香。」

「…!知ってるのか?その人を。チェルが寝言で言ってたんだ。」

「…そう。…私もよく知らないの。ごめんなさい。」

「そっか。…じゃあまたな。」

ライは、手を振って行ってしまった。

「知らないか…。もし香なら記憶は無いのね。」

しおが花瓶の前を通り過ぎた瞬間。

パリーン!

「きゃあ!花瓶が!」

「アスター様!大丈夫ですか!?」

「ええ。大丈夫よ。」

「ああ…。せっかく綺麗な花束をチェル様が作ってくださったのに…。」

「…えっ?チェルが、作ったの?」

「はい。少し前にいらっしゃった時に。」

「…至急チェルを探して!早く!」

「「えっ?は、はい!」」

(嫌な予感がする…。どうか気のせいであって…!)


「パキラくん!どこ?…けほっ。」

私は燃える家の中でパキラくんを探した。

「パキラくん!…パキ、」

「お、姉ちゃん!」

「…!どこ!?」

「こ、こだよ!」

パキラくんはテーブルの下敷きになっていた。

「パキラくん!…今助けるからね!」

私はテーブルをどけて、パキラくんを抱えた。

「けほっけほっ!…パキラくん、煙あんまり吸っちゃダメだよ!」

「うん。大丈夫?お姉ちゃん。」

「大丈夫!絶対助けるから!」

私はまだ火の手が無いところに行くと、そこに小窓があった。

「…!小窓が!パキラくんなら…!パキラくんここから外に出て!」

「お姉ちゃんは?」

「私は行けないから、別のところから行くよ!」

「でも!危ないよ!」

「大丈夫!あとで会おう!ね?約束。」

「うん。絶対だよ!」

私が頷いて笑うと、パキラくんは外に出た。

「さて、どこから、けほっ。出よう?」

私が動いた瞬間。

バキバキッ!と音を鳴らして倒れて来た。

「…!」


「チェルどこに行ったんだ?全く。」

「…ライくん!!助けて!チェルちゃんが!家の中に!」

「…!チェル!!」

ライは指差した方を見ると走り出した。


「…あぶな〜!下敷きになるところだった…!」

私は間一髪倒れて来た柱を避けることが出来た。

「はやく、出ないと!そろそろやばい…!」

もう目の前は煙が充満していて、視界が悪くなっていた。

「…っ!足が…。」

私は立とうとして、痛みが走り立てなかった。さっき倒れて来た柱に足をとられて動けなくなっていた。

「やばい…!〜っ。重すぎて持ち上げられない!…はぁ。ゲホッ!」

(また私は、想いを伝えられないままなの?せっかく前に進めたのに。みんなが背を押してくれた、の、に…。)

「チェル!!…返事をしろ!!どこにいるんだ!!」

「…ラ、イ?」

「…!!チェル!!ばか!なんで一人で無茶するんだよ!一人で行かないって約束しただろ!」

ライは、柱をどかしながら叫んだ。

「ご、めんね?ほって、おけなくて…。」

「とにかく!早く出るぞ!」

「…ライ。聞、いて?」

「なんだ?」

「好き、だよ。ライが。…ほんとは、ずっと前から。」

「…!!急に何言い出すんだよ。」

「もう、伝えられない、ままじゃ、嫌だから。」

「何これが最後みたいな言い方してるんだよ!」

「あり、がとう…。大好き、だよ…。」

「…チェル?…おい!!チェル!!目を開けろ!!…今度は助けられたのに…。どうしていつも俺の手から離れていくんだ!咲!」

ライは、目を閉じたチェルに呼びかけていた時知らない名前を叫んだ。

「…咲?誰だそれは…。俺は…。いや今は早くここを出ないと!」

ライはチェルを抱えて、窓を割って脱出した。


ライが外に出るとアスターが駆け寄って来た。

「いた!チェル!…チェル?どうしたの?ねぇ、目をあけて!チェル!約束したじゃない…。もう、おいて、いかないって!チェル!!」

しかし、チェルは目を覚さなかった。



「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」

「チューリップを。…お嬢さんは今日はいないんですね?」

「…はい。チェルは、もう…。」

「…すみません。お辛いことを思い出させてしまって。」

「…いえ。お待たせしました。」

「ありがとうございます。…元気出してくださいね。」

「ありがとうございます。…うぅ。」

「カルミア…。」

「ごめんなさい。ゲウム。どこにいても思い出しちゃうの。」

「仕方ないさ。あの子はどこにいても笑顔でいたんだから。…チェルがいないだけでこんなに静かなんだな…。」


「ミア…。大丈夫かしら…。大丈夫じゃないわよね…。ねぇ、私たちは何が出来るかしら。」

「いつも通りに接するのが一番じゃないかな。変に気を使うと返って気にしてしまうから。」

「そうね…。アセビ。」

「…チェル姉ちゃん。」

「母さん父さんちょっと行ってくる。」

「ええ。行ってらっしゃい。」

「…ライ。ここの所時間があるたびに通ってるな。」

「ええ。チェルちゃんのこと大好きだったもの。」


「おばさん。チェルは?」

「ううん。まだ、目を覚さないの。」

「そうか。上がってもいい?」

「うん。チェルをよろしくね。」

あれから3日。チェルは目を覚さないまま、眠り続けている。

ここ3日いろんな人が訪ねて来た。カリン様やミモザ様でさえ、知らせを受けて遠いルクシテーゼまで足を運んでくれた。声をかけて、手を握ってくれた。美味しいお菓子を持って来てもチェルは目覚めなかった。

「…チェル。いつまで寝てるんだ。さすがに寝すぎだぞ。」

ライは、チェルの手を握って話しかけた。

「…チェル、目を覚ましてくれ…。頼むから、俺を置いて行かないでくれ。まだ俺は答えてないんだぞ。お前だけ伝えるだけ伝えて返事を聞かないなんてずるいぞ。早く目を覚ませ…!目を開けてくれよ。…咲。」

チェルの指がピクッと少し動いた。

「…チェル?」

「…ラ、イ?…おはよ〜。」

「…!!おはよ〜じゃねえよバカ。遅いんだよ!…心配かけやがって!…でも、良かった…。」

「ごめんね。私どれくらい寝てたの?」

「…3日だ。」

「3日!?えっ嘘っ!3日!?寝すぎじゃない!?」

「それは俺のセリフだ!…体大丈夫なのか?」

「うん!元気!すっごい元気!3日寝てたからか体全然動かないけど!でもなんで3日も寝てたのか分からないくらい元気!」

「…ふっ。お前はほんと変わらないな。死にかけたっていうのに。」

「だって死んでないし!…それに、みんなが勇気をくれたから私は無敵だよ。」

「そうか…。」

「ライくん?どうしたのそんなにさ、わいで…。…チェル!!」

お母さんは私に向かって走ってくると強く抱きしめた。

「チェル!!目が覚めたのね!良かった。ほんとに良かった…!」

「ごめんね。お母さん。ちょっと寝過ぎちゃったみたいで。」

「ほんとよ!もう目を覚さないかと思ったんだから!」

「ごめん〜。…お母さん。私お腹空いちゃった。」

「…こんな時にお腹鳴らす!?ほんと変わらないわね…。待ってて!作ってくるから!」

「えへ!ありがとうお母さん!」

「じゃあ、俺もみんなに伝えてくるから。」

「待って!ライ!」

「ん?どうした?」

「これ!フィオーレ祭過ぎちゃったけど、フィオーレ祭の花ライにまだ渡せてなかったから。…ごめん。動けないから取ってくれる?」

「はいはい。…ライラックか。ありがとうチェル。」

「いつもありがとう!ライ!」

「こちらこそ。…ちょっと待ってろ。」

ライはそういうと部屋を出て、すぐに戻ってきた。

「俺からのお返しだ。」

そういうとライは桜の花をくれた。いつもみんなからのお返しは桜の花。私が一番好きな花。

「ありがとう。…それと、その引き出しの2番目に入ってる箱取ってくれる?」

「これか?」

「うん。それ。…開けてみて?」

「…!これは…。」

渡した箱に入っていたのは、「メイミス」のネックレスだった。

「気持ちの整理がちゃんとつけられたら渡そうと思ってずっと入れてたの。…あの時は、意識も朦朧だったしちゃんと伝えられたかは分からないけど。…ライ好きだよ。大好き。そのネックレス貰ってくれっ?」

私がいい終わる前にライに抱きしめられた。

「俺だってそうだ!ずっと昔から好きだった!…でもお前はいつも違う誰かを見ていた。だからこの気持ちは伝えないつもりだったんだ。」

(ライ。気づいてたんだ…。ごめんね。)

「ごめん。忘れられない人がいたの。」

「コウって人か?」

「…!な、んで知ってるの!?」

「この前、寝言で言ってた。」

ブスッとした顔でライは言った。

「嘘っ!そんなこと言ってたの!?…嫉妬したの?」

「…別に。」

「ふふっ!素直じゃないなぁ〜!」

「…あと、咲って人は?」

「…!!…え?どうして、その名前知ってるの?私寝言では言ってないよね?…アスターから聞いたの?」

「いや。アスターからはコウって名前を聞いたけど、咲は知らない。」

「…じゃあどうして。」

「分からない。自然に口から言葉が出たんだ。自分でもなんで言ったのか分からない。」

「…ライ。手、見せて。」

「手?分かった。」

私は震えながら、ライの手を見た。

「…!!〜っ!」

ライの手を見ると、花の形のあざがあった。そして、その中心には…ハートのあざがあった。

(香だ…!ライは香だったんだ…!私がチェルとして生まれた時からずっと、そばにいてくれたんだ…。はは。あれだけ香とライのこと悩んでたのに同一人物だったなんて…。…でも本能では分かってたのかもしれない。香のことを想っていながらもライに惹かれていってしまっていたから。思えば、香に似ている部分もいっぱいあったしね…。)

「どうしたんだ!?チェル!どこか痛むのか!?」

「ううん。今まで悩んでたことが一気に消えたの。これは嬉し涙だよ。」

「なんだよ。紛らわしいことするな。」

「へへ。ごめんね。」

「チェル!!目が覚めたんだな!…良かった。」

「チェル!おかゆ持ってきたよ!」

お父さんが慌てて駆け寄って来た後ろから、お母さんがご飯を持ってきてくれた。

「じゃあ俺は行くな。」

「うん!ありがとうライ!」


ライから話を聞いてきたみんなが次々とお見舞いに来てくれた。

「咲!!なんで約束してすぐ破ろうとするの!!ばか!!どれだけ心配したと思ってるの!?」

「ごめんね。しお。無事だったから許して…?」

「当たり前でしょ!!無事じゃなかったら絶対許さなかったんだから!!…もう〜!」

「あ〜!泣かないでしお〜!ほんとごめんって!」

しおにはみっちり怒られたけど。


2日後。

「おっはよ〜!完・全・復・活!さぁ〜!久しぶりにバリバリ働くよ!」

私は調子を取り戻し今はこれまで以上にハイテンションになっている。

「おはようチェル!今日は一段と元気ね!嬉しいわ!」

「ああ。チェルが眠っていた3日間はとても静かだったからな!」

「心配かけてごめんね。お父さんお母さん。」

「もう無茶したらダメよ!絶対約束だからね!」

「…はい。それはみんなからも何度も言われました。」

「そりゃそうよ!すっごく心配したんだから!」

「もう危険なことはしない!」

「…ライくんに見張っといてもらわないと。」

「私信用されてない!ひどい〜!」

「あはは!…でももうこんなのはごめんだからね。」

「…うん。気をつけるから。」

「さあ!ご飯食べて始めるよ!」

「はーい!」

私が元気に営業していると、

「チェル。今日から復帰か。」

「ライ!…おっと。」

私は振り向いた瞬間少しふらついてしまった。

「大丈夫か?」

「うん!ちょっとふらついただけ!」

「ならいいけど。今度の休日空けといてくれ。出かけよう。」

「うん!いいよ!」

「じゃあ戻るな。」

「じゃあね!」

「な〜に?チェル。デート?」

「デート?ライと出かけるだけだよ?」

「…それをデートって言うのよ!も〜!ほんと疎いんだから!」

「えっ!デート!?あの恋人とする!?」

「それ以外に何があるの。」

(ライと、デート。…初めてのデートだ!34年生きて初めてのデート!…やめよう悲しくなってきた。…でも何するの?…まぁいっか。楽しみだなぁ!)


デート当日。

「ライ〜!お待たせ〜!」

「ああ。…!どうしたんだ?その格好。」

私は普段より可愛い服を着て、メイクもヘアセットも綺麗にまとめた格好をしていた。自分で鏡を見て別人に見えたくらい変わったんだ!

「ああこれ?ライと出かけるってカトレアたちに言ったら。」

『ライと出かけることになったんだ!』

『良かったじゃない!チェル!』

『アスターも二人のこと心配してたものね。』

『ええ!お姉様。ずっとこの日を待ってたの!どんな服で行くの?』

『えっ?いつもの格好だけど。』

『『『…え?』』』

『え?だから普段来てる服をってうわぁ!』

『『『ありえない!』』』

『びっくりした…。何で?』

『初めてのデートにその服は無いわ!』

『もっとオシャレしないと!』

『メイクもヘアセットもよ!』

『え〜でも分からないし。』

『『『こうなったら、私たちがチェルを全身コーデよ!』』』

「…ということになって。カトレアたちに朝から捕まって今まで準備してたの。ごめんね遅くなって!」

「いや、そんなに待ってない。」

「そっか!良かった!…なんかおかしい?」

ライは私をじっと見ていた。

「いや、おかしくない。ただ、チェルのそんな格好初めて見たから…。可愛いよ。いつもよりずっと。まぁ素も可愛いけど…。」

「…ありがとう。」

私は真っ赤にして言った。

(…うぅ。何故だか恥ずかしい。それに照れるよ、そんなこと言われたら…!)

「パレード見に行かないか?…近くでサーカスもやってるみたいだ。」

「うん!行く!」

「じゃあ、はい。手出して。」

「手?はい。」

「よし、行くぞ!」

ライは、私の手を掴むと歩き出した。

(…えっ!手繋ぐの!?は、恥ずかしい。…あっライ耳真っ赤。…ふふっ!なんだ、私だけじゃないのか!)

「ねぇライ。恥ずかしいね?」

「…別に恥ずかしくない。」

「ふふふっ!」

「なんだよ。」

「なんでもな〜い!…ほら!サーカスだよ!見にいこう!」

「えっおい急に走るな!…ったくはいはい。」

私たちはサーカスに入って火の輪をくぐるライオンや綱渡り、空中ブランコを見た。

「は〜!凄かったね!ライオンがあんなに言うこと聞くなんて!それに火の輪だよ!凄いよね!」

「ああ。そうだな。」

「それに綱渡りも!あんなに高いところで、細いロープの上を渡るなんて!バランス感覚凄いよね!」

「ああ。そうだな。」

「あと、空中ブランコ!空中で飛んで相手にキャッチしてもらうなんて信頼関係がないと出来ない大技だよね!」

「ああ。そうだな。」

「ライ。ちゃんと聞いてる?さっきから同じことしか言ってないよ?」

「聞いてるよ。…ただチェルが可愛いなと思って。」

「…っ!そういう事言わないで!」

「なんだ?照れてるのか?顔真っ赤だぞ?」

ライはニヤニヤしながら私を見た。

「〜っ!さっきの仕返し!?」

「ははは!どうだろうな。」

「もう!ずるいよ!」

「お互い様だ。…ほら次はパレードが始まるぞ?」

ライは私の手を引くと、パレードが見やすい位置に連れて行ってくれた。

「うわぁ〜!綺麗!それにすっごく楽しい!…きゃー!可愛い!うさぎさんが手振ってくれたよ!ライ!」

「ふっそうだな。良かったなチェル。」

「うん!…ダンスも上手!」

私は最後までサーカスを楽しんだ。

「楽しかったね!ありがとうライ連れてきてくれて!」

「ああ。楽しんでくれて良かった。連れてきたかいがあったよ。」

「ねぇライ。…これからもずっと一緒にいてね?」

「ああ。チェルも離れるなよ?」

「うん!離れないよ、もう。離れるのは辛いから。…もうそんな思いしたくないしね!」

「俺も離れたくないし、離す気はない。」

「ライ…!大好き!」

「俺も大好きだ。」

そして二人は幸せな未来、これからを約束して初めてのキスをした。

一度目の咲良としての生は17歳で幕を閉じた。二度目のチェリーとしての生は17歳で動き出した。

たとえ死んでしまってもまだ縁はリアンがっている。私たちの縁は、花が私とライを繋いでくれた。

これは私の17歳を軸にした二つの生の物語。…そして二つの生をまたにかけた恋の物語。

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アムール・リアン・フルール〜大国で働く町娘〜 天音(そらね) @sorane_tukikaze

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