15章 フィオーレ祭

第15話

「よし!待ちに待った稼ぎどき!フィオーレ祭!花屋としてお花売りまくるぞ〜!」

フィオーレ祭は、お世話になっている人や家族、友達に感謝を込めて花を送る伝統行事。また、異性には「メイミス」がモチーフになっている装飾品やハンカチなどを渡すと二人はいつまでも幸せに過ごせると言われている。だからフィオーレ祭の日にはグリステン草原に「メイミス」を見に行く人も多い。


「おはよう!お母さん!」

「おはよう!チェル!」

「はい!フィオーレ祭の花!いつもありがとう!」

「ありがとうチェル!カルミアね!私この花好きなの!…じゃあ私からもお返し!」

「ありがとう!お母さん!いつも美味しい料理ありがとう!」

「おはよ〜!今日はフィオーレ祭だぞ!気合入れないとな!」

「おはよう、お父さん!はい!いつもありがとう!」

「おっ!ゲウムか!いい花だ、ありがとう!…ほら俺からだ!」

「ありがとう!お父さん!また武術教えてね!」

私たちはご飯を食べて、開店準備を始めた。


「いらっしゃいませ〜!フィオーレ祭のお花どうですか〜?大切な家族や友人に送るお花扱っていますよ〜!メッセージカードやリボンなどの飾りもできますよ〜!是非お立ち寄り下さ〜い!」

「すみません。妻に贈るバラをください。」

「はーい!かしこまりました!」

そのあとも人をどんどん呼び込むことに成功し、お昼までで平均の一日の売り上げの倍、売ることが出来た。

「お母さん!見てみて!すごい売れたよ!この調子だと完売出来るかな!?」

「そうね!さすがチェルね!完売目指してみんなで頑張りましょう!」

「「「おー!」」」

「その前にお昼休憩しましょうか。」

「お母さん今から料理するよね?」

「ええ。どうしたの?」

「料理出来る間、フィオーレ祭の花を渡してこようと思って!」

「ああ!そうね渡してきなさい。」

「うん!行ってきます!」

「おばさ〜ん!いる〜?」

「どうしたの?リアちゃん。」

「はい!いつもありがとう!おばさん!」

「まぁ!ジューンベリーね!ありがとうチェルちゃん!…はい、私からのお返し!」

「ありがとう!おばさん!いつも綺麗な刺繍をしてくれてありがとう!…おじさんは奥?」

「ううん。いいのよ!喜んでくれて嬉しいわ!…ええ!今休憩してるわ。」

「ありがとう!…おじさん!はい!いつもありがとう!」

「ああ。ありがとうチェルちゃん。アセビだね、好きな花なんだありがとう。…はい。僕からのお返しだよ。」

「ありがとうおじさん!いつも美味しいパンありがとう!」

(リアは今いないのか…。あとで戻ってこよう。)

私は、今までお世話になったひとたちに花を渡して回った。

騎士団に行って、団長にはルドベキアを。副団長にはアンスリウムを。そして、ロッカとロッサにはクロッカスとクロッサンドラを渡した。

その後、それぞれの家に行ってカトレアにはカトレアを。マリーにはアマリリスを渡した。おばちゃんにはペチュニアを渡したんだ。

そして、カリンにはカリン、ミモザにはミモザ。アスターにはシオンの花をメッセージカードを添えて送った。渡した花はみんなが好きな花なんだ!だからとても喜んでくれた!

(リア戻って来てるかな?…ライもいなかったんだよね〜。)

「あっ!リアいた!」

「ん?どうしたのチェル姉ちゃん?」

「はい!いつもありがとうリア!」

「あっ!アルメリアだ!ありがとう!こちらこそいつもありがとうチェル姉ちゃん!これからもよろしくね!はい、チェル姉ちゃんに!」

「ありがとう!うん、よろしくね!」

(ライはいないか…。しょうがないあとで渡そう!)

私は家に帰ってご飯を食べるとまたお店を再開した。

「すみません!この花にメッセージカードを付けてください。」

「はい!ありがとうございます!少々お待ち下さい!」

そのあとも順調に売り上げを伸ばし夕方前には完売した。

「売れた〜!完売だよお母さん!」

「やったわね!今日はもう終わりよ!」

「買ってくれてありがとうアスター!」

「うん!」

最後のお客さんはアスターだった。

「この後はマリーの家に行くの?」

「うん!チェルのところに先に来たかったから!」

「そっか!ありがとうアスター!マリーの家まで一緒に行こうか!」

「いいの?」

「いいよ!」

「ありがとう!」

「ん?どこ行くんだチェル?」

「ライ!マリーの家までアスターのお見送り。」

「ああ。アスター久しぶりだな。」

「ライ!久しぶり!ライも来てくれる?」

「いいぞ。じゃあ行こう。」

「良かったね!アスター。」

「うん!チェル、ライありがとう!」

私は予測してなかったんだ。何か起こるかも知れないと思っていながらも。だから気づかなかったこの穏やかな時間がもうすぐ壊れてしまうことを。


「おりゃ!当たれ!」

「ふふ〜ん当たらないもん!」

「こらこら危ないから道の端に寄ってないとダメだよ。」

「「はーい!」」

私は道の真ん中で遊んでる子たちに注意した後、

「さあ、渡るよ。大丈夫!この前渡れたんだから!」

「…うん。」

私たちはマリーの家までの道を渡ろうとしていた。

「大丈夫だ。何かあったら助けるから。」

道を渡ろうとすると、

「あはは!えい!」

バチン!

ヒヒーン!

「あっ!靴紐切れた。」

「何やってるんだよ。」

「ごめん。アスターちょっとま…アスター!!」

アスターは私がしゃがんだ事に気づかずに道の真ん中まで渡っていた。そのアスター目掛けて暴走した馬車が向かっていた。私は全速力で走ってアスターをかばった。

「チェル!!」

ガラガラガシャン!


「…〜っ?あれ、痛くない?」

「無事か?チェル。」

私とアスターを抱えてライは聞いた。

「ライ!私は大丈夫。…アスターは!?」

アスターを見ると、ショックが大きかったのかボーゼンとしていた。

「良かった。無事だった…。」

「はぁ良かった…。…は助けられた。」

「えっ?…ライ?」

「大丈夫ですか!?」

「はい。大丈夫です。…こら!お前たち!」

この事故は、さっきの子供達が遊んでいたボールが馬に当たってしまい、馬が暴走してしまったらしい。怪我人は幸いいなかったみたいだ。

ライは近くにいた人に大丈夫と伝えると、この事故を起こした子供達の所に行ってしまった。

「大丈夫?アスター。」

「…さ、く?」

「…え。なん、でその、名前を?」

「咲?ほんとに咲なの!?」

アスター?は私を咲と呼んで私にしがみついた。

「咲!ずっと会いたかった!」

「…アスター?どう、したの?」

「…?私はアスターじゃないわ。」

「…え?…まさか、いやそんな、はずは。」

「私は詩音よ。佐藤詩音。」

「…!…し、お?」

「ええ!」

「〜っ!し、お。しお!」

「咲!」

私たちは抱き合って、涙を流した。

「夢じゃないよね…!」

「夢じゃないわ!暖かいもの!」

私たちは落ち着くまで泣き続けた。


「おい!どうしたんだ!?何かあったのか!?」

帰ってきたライは、大泣きしている私たちを見てびっくりしていた。

「ううん。なんにも、ないよ。大、丈夫。」

「私、も大丈、夫。」

「とりあえず、アスターを家まで送ろう。」

「えっ?いやよ!」

「アスター大丈夫。また、明日会おう?」

「…約束ね!絶対に!」

「うん。約束!今度は絶対!」

私とライはアスターを家まで送り届けた。


「どうしたんだ?あんなに泣いて。」

「…ちょっとね。…ほっとしたら怖くなって泣いちゃったの。」

「そうか。…無事で良かったよ。」

「ほんとにありがとう。ライ。」

「ああ。俺も助けられて良かった。」

(私はあの馬車から助かって、それでアスターが、しおだったんだ…。)

私は助かったことの喜びより、思わぬしおとの再会に驚いて少しボーッとして帰った。


「大丈夫!?チェル!!怪我はない!?」

「ライ!あなたも大丈夫なの!?」

家に帰ると、お母さんとお父さんが心配して駆け寄って来てくれた。

「うん。ライが助けてくれたから無事だよ。」

「俺も大丈夫だ。」

「「「「は〜…。良かった…。」」」」

「今日はもう休みなさい。」

「うん、そうする。おやすみ。」

「おやすみ。」


翌日。

(あれは…。夢じゃないよね?)

「お母さん!ちょっと出かけてくるね!」

「まだ休んでいた方がいいんじゃない?」

「大丈夫!行ってきます!」

(夢じゃない!あれは私の妄想なんかじゃないよね?)

私は走って、マリーの家まで行くとベルを鳴らした。

「あの!はぁ…。はぁ…。アスター、いますか?」

「チェル様!ちょうど良かった。アスター様がお呼びです。」


「さ、チェル!良かった!夢じゃなかった!…ごめんなさい。ちょっと席を外して。」

(夢じゃ、なかった…!しおはちゃんといた…!)

アスター。いや、しおは執事に言った後、私に抱きついてきた。

「なんで私をかばったの!それも一回じゃない!今回も!」

「しおに生きて欲しかったんだ。」

「私は!咲に生きて欲しかったの!!香と咲に幸せになって欲しかったの!…あの時、香は咲に言ったんでしょ?好きって。咲も香のことが好きって!友達としてじゃなくて、はじめて恋を知ったんでしょ!?…なのに、幸せになるはずだったのに私が壊してしまった…。ごめんなさい…!咲。」

「それは違うよ!しお!しおのせいなんかじゃない!あれは避けられない事故だったんだ!」

「でも!私がトラックに気付いていれば!…私が一人で先に行かなければ!あの事故は避けられた!」

「そんなこと言うなら!私があの時しおを急かして早く帰らなければトラックと鉢合うことは無かったんだよ!」

私は自分のせいだと落ち込み、自分を追い込むしおにしおは悪くないから自分を追い込まないでと精一杯伝えた。

「…私はずっと咲との約束が続くと思って疑わなかったの。私はずっと咲と香といられるって…。このまま咲と香の想いが通じたら、結婚して子供が生まれる日が来るのかなって。もし私も結婚して子供が生まれたら、咲達の子供と仲良くなるかなって…。ずっとその日が来るのを楽しみに、してたのに…。」

「…私もずっと香としおと一緒にいられるって、まだクラスのみんなと騒げるって信じて疑わなかった…。ごめんね。約束破って…。」

私は、しおを強く抱きしめた。

「…許さない。だからもういなくならないで!」

「…うん。」

「私を…もう置いて行かないで。私をにしないで!」

「…ひ、とり?…しお、香は?香はどうしたの?生きてるよね?ね?…しお?」

しおはハッとした顔をして私を見た。そして言いづらそうに俯いた。

「香は…死んだわ。あの日に咲を庇って。」

「…!…う、そでしょ?嘘だよね!」

「ううん…。即死だったの。トラックの衝撃が強くて…。」

(嘘だ…。そんなはずは…ハッ!そういえばあの時!)

『おい!大丈夫か!?「君たち」!救急車を!早く!」

『私を置いて行かないで!!咲!!…香!!私を一人にしないで!!』

(あれは…。他の人じゃなくて私たちのことだったんだ…。じゃあ私が死に間際にしおと話せたのは…。私が即死にならなかったのは…。香がかばってくれたから…。)

「そんな…。」

「香は咲をかばった時、私の目を見て何か言ったの。多分私にこう言ったと思うわ。『咲を頼む。』って。トラックの衝撃が強すぎて守り切れなかったけど、香は最後まで咲のことが大切で大好きだったわ。」

「〜っ!そっか…。香は、最後まで、「私」のことを、想って、くれてたんだね…。ありがとう…香。」

(私は、一人じゃなかったね…。ずっと香が想ってくれてたんだ。)

私たちは涙が枯れるまで泣いた。


「私はあの後、普通に暮らしたわ。クラスの子たちも学校中の子が悲しんで泣いてくれていたわよ。そして卒業して、結婚して子供も出来たわ。でもいつも満たされなかった。咲と香の存在はそれほど大きかったの。それで寿命を全うして転生したみたいね。」

「そっか。ありがとうそう思ってくれて。私はクラスのみんなとも約束守れなかったから…。」

「卒業式の日。みんな、また会えるって笑ってたわ。咲と約束したからって。それに天国があるならそこでまた逢えるから約束はまだ続いてるって。」

「そっか…。〜っそっか!しおとも逢えたんだもん!まだ、終わりじゃない!たとえ覚えていなくても、きっと逢えてる!」

「ええ。また逢えるわ。」

(みんな強いね…。今まで悩んでたことが薄くなってくよ。みんなのおかげで私は前に進める。)

「ねぇ咲。私思うの。…香もこの世界にいるんじゃないかって。」

「…えっ?…どうしてそう思うの?」

「分からない。…でも見て?これ。」

アスターの手にはあざがあった。

「うん?知ってるよ?あざがあるのは。」

「よく見て?」

「…あ!この、あざは…。」

よく見ると、しおや香にあった花のかたちのあざだった。

「ライって人にもあった気がしたの。…それに、あの人は咲を助けた時「今度」って言った。」

「…!そういえば、ライにも、あざがあるの。…私もそれは気になったけど。でも。」

「ライは、右耳触る?」

「えっうん。触るよ?」

「それは香のくせだったの。」

「…!…ほん、とに?ライが、香なの?」

「ライが香かはあざを見れば分かるわ。…でも私は香だと思うわ。香は咲を置いてどこにも行かないから。」

「〜っ!そう、かな〜?」

「そうよ。香はそれほど咲のことが大切で大好きだったの。…ずっとそばにいたでしょ?」

「〜っうん!…ごめん!行ってくる!」

私は涙を拭いて、ライのもとに走った。

「うん。行ってらっしゃい。…どうかライが香でありますように。」

しおはそう祈った。

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