近視眼的メアリーの部屋とヴァンパイア

 飽きた。

 端的に言ってしまえば、世界に飽きてしまったのだ。

 古今東西の美食を、吐き戻すことを承知で食らった。珍味を味わい、誰かの創作料理を口に運んだ。食べたことのない料理は無くなった。吐き戻すのが億劫になって、やめた。

 世界各地の遊びをマスターした。スポーツもカードもテレビゲームも何もかも。賭け事もやった。そのうち全てのゲームに必勝法を見つけてしまい、やめた。

 歴史が動くたびに新しいビジネスに手を出した。ミフネア自身が作り出すこともあった。政治家も医者も教師もサラリーマンも革命家もマフィアも聖職者も詐欺師も裁判官も芸術家も、思い付く限りの職業になって、全てに飽きてやめた。

 何もかも投げ捨てて物乞いになったこともある。そのうち窮屈さに飽きて、また貴族に返り咲いた。それを五百回ほど繰り返し、変わらないことに気づいて、飽きてやめた。

 ありとあらゆる種族と恋人になってみた。最初のうちは愉快だったが、正体を隠しきれなくなって、やめた。単純に単調で飽きたのもある。

 戯れにそこらの赤ん坊を吸血鬼にして、死人を蘇らせ、人間を造った。想定の範囲内の動きしかせず、つまらなかった。


 ミフネア・ツェペシュは変化を求めていた。


 いつまでも同じではない、見るたびに触るたびに刺激を与えるたびに変化するオモチャを探していた。この永遠に等しい退屈さを、紛らわして欲しかった。


 それで、見つけた。見つけてしまったし、見つかってしまった。





「ようこそ、ご友人。どうぞ、ごゆっくり」

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因習的ジョハリの窓とプギーマン 佐藤風助 @fuusukesatou

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