die1話

「お~い」


真っ暗な視界の中、絶妙に耳障りな声が聞こえる。

「おいこら、初対面に失礼だぞ。」


どうやら声に出ていたらしい、こりゃ失敬したな。

まぁ死ぬ間際の夢か何かだろう。

もしかしたら、見ものになるような走馬灯さえ僕にはないから、神様が僕に夢を見せてくれているのかもしれない。ならばすぐさまに地獄でも天国でも連れてっていただきたいところだ。


「ふむ…半分正解、半分不正解ってとこだね」


あ半分正解なのね?

というか、自殺したはずなのにどうして謎の声が聞こえるんだ。

冷静に考え始めると段々意識がはっきりとしてきた。


僕は確かに自殺した。


ホームから飛び出して電車の運転手と目が合ったことでさえはっきりと覚えている。

覚えているし、意識もある、なのに視界は真っ暗なまま。

視覚だけなくなって生き残ってしまったのか?

だとするとなおさら最悪な状況である。


「相変わらず人間って変なこと考えるね…じゃあこれでいいかい?」


そんな声が聞こえたかと思うと、突然目の前が真っ白になる。

眩しさのせいでつい目を手で覆ってしまう。

段々と光に目が慣れてきたころ、ようやく周りを見渡すと、そこにはただ白いだけの地平線がずっと広がっていた。


ただ一人の人物を除いて。


「ずいぶん無遠慮な眼差しを向けるんだね、はじめましてのはずだけど。」


いつのまにか自然と睨んでいたらしい。

普段もよく目つきが悪いと言われていたっけな、


「さて、拒否権のない取引を君に話そうか。もちろん、君にとってもいい話だよ?」


そう言ったそいつの容姿は、小学生くらいの身長に、黒いローブを身にまとっていて顔は見えない。

しかし目の前の男の子は妙に大人びていて、それでいて不思議な雰囲気を醸し出していた。


「さて、自己紹介をしておこうか、まぁ『夢の神様』とでも名乗ろうかな。」


そいつは僕の周りをとことこと歩きながら妙なことを口にしている。

非現実的な状況の中、その容姿では到底似合わないようなことを喋りだすので、混乱してしまうのは無理もないだろう。


夢の神様…ということは、今見ているのは夢なのだろうか?

死んだのに夢を見ているというのは不思議な話ではあるが…今はこの話を信じるほかないだろう。


「特別に、君の自殺を夢ってことにして過去に戻してあげるよ。

君が死んだことはすべて夢として消えていく…どう?すばらしくない?」


つまり、自殺したら過去に戻る…?

文字通りすべてやり直せるということだろうか。


「理解が早くて助かるよ、説明するのも面倒くさいからね。」


…やり直したら…何か変わるのだろうか。

生きるのが下手くそな社会不適合者の僕には、どうしてもやり直したいとは思えなかった。


「もっかい言うけど、拒否権はないからね。説明だけ勝手にするよ。

自殺すると、それは夢ってことになって過去に戻れる、それだけだよ。あとは使いながら理解してね、君ならきっと期待通りに使ってくれるだろうからさ。」




そんな言葉が聞こえたかと思うと、少年は僕に指をさした。

その瞬間、目の前が真っ暗になり、気づいたときには僕が中学生のころに戻っていた。





あの少年が言っていたことは本当なのだろうか。


窓を見ると、茜色になった空が、僕のことを照らしていた。


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夢の神様は僕が死んだことを夢にする なりなり @narinarityuusa

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