第33話
翌日、目が覚めて速攻でポケベルの着信をチェックして、本日の業務が無くなった事を確認する。
「昨日に続いて今日もか……なんか、ここのところ騒ぎになっているのが多いよな」
連日続くようならば臨時休業という形で暫く有給状態(消費無し)になるそうだ。その分の給料等の費用は研究所持ちなのでかなり楽らしい。
少し眠いような気分を体を伸ばす事で払拭し、今日の予定をどうするか考えた辺りで……パタパタと、誰かの足音を耳にする。
「あ、慶治さん! よかった、まだ出勤してなかったんですね!」
「えぇ、本日は臨時休業となりましたので……」
おはようございます、の挨拶をする間もなく駆け込んできた伏原さん。その顔には相当忙しいのか焦っているのか、薄っすらと汗の雫がキラキラと煌めいていた。
しかし、ここまで慌てているような雰囲気を醸し出している伏原さんは初めて見たかもしれない。
もしかして、今回の臨時休業と何かしら関係があるんだろうか?
「……取り敢えず、おはようございます」
「え? ……あぁ! おはようございます!」
「やっぱり危険な妖魔が来てるんですか?」
挨拶から自然と話を持っていってみるが、これで素直に話してくれるわけないよなぁ。
「えぇと……とあるAクラス妖魔が他地方からこっちに移ってきてまして、市内に自宅待機命令を出して対応に当たっているのが現状です」
素直に答えてくれたよ。伏原さん、あまりにも無警戒過ぎないか?
「それ、俺に言っても大丈夫な内容ですか?」
「……あんまり良くないんですけど、猫の手も借りたいレベルで緊急事態なので、手が空いているなら慶治さんの手も借りたいです、ハイ」
どうやら、伏原さんとしても使えるものは使いたいレベルの厄介な妖魔が近隣に来ているらしい。
詳しく聞いてみると、今回の騒動はAクラスの妖魔である
諸国をゆっくりと練り歩きつつ、編み笠のように大きくなったキノコから胞子を撒き散らし、特に人型の生物に寄生して傀儡にする。
寄生された人は研究所で治療を受けなければそのままずっと傀儡にされ、時間が経てばそのまま傀儡から戻れなくなってしまう。
「別支部の管轄区域で目撃情報があって、避難警報を出すより先に近くの市街地を通過。そのまま逃げ遅れた大勢の人達を傀儡にして、ここ西海支部の管轄区域に侵入したんです」
「てことは、その傀儡になった人達を捕まえて研究所に連れていくのが俺の仕事ですね?」
「それが簡単に出来れば問題無いんだけど……」
言い淀む伏原さん曰く、病臥行者は人型の僧のような姿をしている為、被害者の中に紛れ込んでいると見分けがつかないらしい。
そして、攻撃的ではないがAクラスの妖魔に指定されるくらいの強さがあり、傀儡になった人を兵士として扱う事もあるのでかなり面倒な相手なんだとか。
「胞子対策でマスクを渡しておきます。後は、傀儡の胞子で感染することはないですが、毒性があって身体が麻痺する事もあるので、その点は注意してください」
「了解です。捕まえた人は回収車に乗せる形でいいんですか?」
「そうですね。回収車や人員輸送車を用意していますので、見掛けた車にガンガン積んじゃってください」
尚、傀儡になった人は襲ってくることが殆どなので、死者や身体の欠損などが出ないレベルの攻撃で鎮圧するのはいいらしい。
でも、下手したら人体爆散するよな……上手く手加減しておこう。
伏原さんは病臥行者の捜索を行うそうなので、俺は貰ったマスクを身に着けて少し騒がしい市街地を駆け回る。
恐らく、アチラコチラで傀儡になった人の鎮圧と捕獲が行われているのだろう。さっきから回収車の走る音も聞こえているし、どうやら相当数の人間が犠牲になっているようだ。
「っと、アレが例の傀儡か!」
そして、それだけ騒がしいということは討滅部隊のエンカウント数が高いということであり、こちらも遭遇する確率が高いということにも繋がる。
最初に出会ったのはブレザーを着た男子学生らしき三人組だ。頭をマイタケのようなキノコで覆われた者、シメジのようなキノコで覆われた者、マッシュルームのようなキノコの傘に隠された者と、その見た目は完全にバラバラ。
だが、揃いも揃って敵意は十分らしく、俺を拘束して本体に捧げたいのか、両手を前に出しながら緩慢な動きでコチラに迫ってくる。
「――――ふっ!」
まぁ、そんな遅過ぎる動きで俺がやられるわけがない。三人組の腹にそれぞれ一発拳を打ち込むと、ダメージを食らって三人はぐったりと地面に倒れ伏した。
後はこの人達を回収車に放り込めばいいのだが、よく見ると奥から追加のキノコ人間達がヨロヨロとコチラに向かって歩いてきているのが見える。
「……仕方ねぇ。先にいる奴を片っ端からぶっ倒して、回収は他の連中に任せるか」
よく見える位置に倒した三人を退かしておくと、そのままコチラに歩いてくる他のキノコ人間達を腹パン一発で沈めていく。
数が多くて道の端に退かすのが精一杯だが、老若男女様々なキノコ人間が酔い潰れた人間のように、近くのブロック塀や電柱にもたれ掛かる姿がどんどん増えていった。
「向こうからまだ来やがるか……しっかり回収してくれりゃいいんだがな」
チラッと後ろを振り向いてみると、かなり遠い位置で最初の三人組が職員らしき男達に担ぎ上げられた姿が見えた。
どうやら、研究所の職員はやっと死屍累々の犠牲者達の姿を見つけられたらしい。量が多くてかなり慌てているが、無線か何かで応援も呼んでいるようなのですぐに回収されるだろう。
これで心配事は無くなった。これで、遠慮なくブッ倒して後を任せる事が出来る。
「――――さぁて、改めて作業開始と洒落込むか」
未だに俺を狙って現れるキノコ人間達が、その時だけは何故か怯えているように見えた。
「西地区、二百人突破!」
「東大通り、百人確保しました!」
「青葉地区、全員確保とのこと!」
次々と確保成功の報告が参謀本部に雪崩込んでくるが、研究所はそれ以上に運び込まれてくる被害者の治療に追われていた。
「医薬品も術符も全然足らん!!!」
「ちょっと待ってて! すぐに追加分が回されてくるから!」
「待たせた! まだまだ追加はあるから、遠慮なくバンバン使ってけ!」
拘束された被害者に専用の薬を投与したり、術符を貼り付けて除去したりと、アチラコチラで医療班に所属する男女の職員が走り回る。
治療が終わった人は別室に運び込み、治療後に出た大量のキノコは別室で仕分けをしてからまた更に別室に運ばれていく。
傀儡となった人々から除去したキノコだが、これもまた余すことなく使える貴重な素材。
鑑定して仕分ける必要があるが、採取出来たキノコには食用や薬用、或いは対妖魔用の毒物用に使えるものまで揃っている。
「邪魔なキノコも早く持ってって!」
「先輩! 追加来ました! 全部で二百三十人だそうです!」
「はぁ!? 一気に増え過ぎでしょ!?」
回収車が運び込んだ人の数はドンドン増えていく。特に今は、後顧の憂いが無くなった解体業者の男が大暴れしている為、打ち倒された犠牲者がより一層速く多く運び込まれるようになっていた。
「追加で百三十人来ます!」
「こっちも追加だそうです! 人数は二百人!」
「病床と医療班を潰す気かコラァ!?」
――――殺到する犠牲者の数に、医療班でもベテランの女性医官は他の医官達を代表してそのような叫び声を上げた。
大馬傾奇〜バカが妖魔をシバき倒す〜 大和屋一翁 @yamatoyaitio
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