酢豚の嫌われ者であるパイナップルに転生した俺が料理知識を駆使して苗のころから努力したら、いつの間にか主役の豚肉より人気食材になってた
酢豚の嫌われ者であるパイナップルに転生した俺が料理知識を駆使して苗のころから努力したら、いつの間にか主役の豚肉より人気食材になってた
酢豚の嫌われ者であるパイナップルに転生した俺が料理知識を駆使して苗のころから努力したら、いつの間にか主役の豚肉より人気食材になってた
平野ハルアキ
酢豚の嫌われ者であるパイナップルに転生した俺が料理知識を駆使して苗のころから努力したら、いつの間にか主役の豚肉より人気食材になってた
「なんてこった……俺は酢豚のパイナップルに転生しているじゃないか!」
太陽の照りつける農園にて。俺は苗として土に埋まった状態で運命を嘆いていた。
酢豚とは老若男女問わず人気のある料理であり、豚肉やニンジン、タマネギなどの具材を炒めて甘酢あんをからめたものだ。
ジューシーな豚肉と甘酸っぱいあんの相乗効果でとにかくご飯が進むうえ、多彩な野菜までおいしくしっかりと取ることができる。食卓にひと皿置かれただけで皆が笑顔になる、まさに傑作料理なのである。
そんな酢豚にあってゆいいつ嫌われる食材、それがパイナップルだ。
元は高級感を演出するために投入された果物である。だが、そもそも『なんでおかずにフルーツなんて入れるんだ?』という認識が人々のあいだで強く根付いている。
もちろん『別に気にならない』『普通においしい』といった意見もあるが、残念ながら不人気具材という認識が多数派である、と言わざるを得ない。
よりにもよって、俺はそんなパイナップルに転生してしまった。このままでは酢豚に投入され(断定)、人々から失望される未来が待ち受けている(断言)。
もちろん、そんな未来は断固ごめんだ。
幸いにもまだ猶予はある。俺が持つ生前の料理知識を駆使して立ち回れば未来を変えることができるかもしれない。
「よし、やってやる!」
俺はその日から自らを鍛え上げるべく猛特訓を始めた。
具体的になにを鍛え上げるのか。
ひとつは俺の果肉に含まれる酵素『プロメライン』の量を増加させることだ。
前述の通り酢豚にパイナップルを入れる理由は豪華さを演出するためであるが、実は合理的な理由も存在している。
パイナップルに豊富に含まれているプロメラインは、タンパク質を分解する性質を持つ。
つまり肉を柔らかくする効果があるのだ。そのうえ消化もよくなり、胃腸への負担も軽減される。
俺のプロメライン含有量を増やすことで豚肉を柔らかくすれば、俺の有用性を示すことに繋がるはずだ。
だがそれだけでは不十分である。
プロメラインは熱で分解されてしまう性質を持つ。それにより肉を柔らかくする効果が失われてしまうのだ。
もしも調理初期にフライパンへ投入されては加熱時間が長くなり、それだけプロメラインが失われてしまうことになる。おまけに果肉へ火が通り過ぎて食感まで悪くなってしまう。
また、うっかり缶詰にされるわけにもいかない。
缶詰のパイナップルは事前に加熱処理されているため、肉を柔らかくする効果は最初から期待できないのである。
なんとか上手く立ち回り、缶詰化を避けつつ仕上げの段階で投入されるようにしなければ。
そしてもうひとつ鍛え上げるべきは糖度である。
もともと酢豚には甘酢あんの酸味があり、パイナップルの酸味との相性は悪くな
い。おかげで脂っこい豚肉もさっぱりと食すことができる。ここにまろやかな甘みを足すことでより奥深い味わいを楽しむことができる。
努力を続けひたすらに自分を磨き上げれば、きっと嫌われ者の汚名を返上できるはずだ。
パイナップルの生育にかかる三年間、俺は過酷な特訓を続けた。
~~ 豚肉SIDE ~~
(ついにこの日が来たか)
豚肉に転生したオレは、いよいよ酢豚に投入される日を迎えた。
豚肉といえば酢豚の主役。いわば勝ち組食材である。転生によって、つまらない人生だった前世とは雲泥の差がある立場を手にしたのだ。
一世一代の晴れ舞台、必ずや最高の結果を出しオレの名声を広めてやる。
「見て、豚肉さんの堂々たるたたずまい。王者の風格ってやつね」
「さすがだよね。僕らじゃ逆立ちしたってかなわないや」
オレの勇姿を眺めながら、タマネギとニンジンは感嘆の声を上げていた。
当然だな。悪いがキミらとオレとでは格が違う。キミらはいわば引き立て役、オレという主役を彩るための添えものに過ぎない。
まあ、せいぜいキミらがちびっ子たちに嫌われないよう祈っておいてやるよ。
「……ああっ」
オレの優越感を遮るように、にわかにピーマンが声を上げた。
「どうした?」
「あれパイナップルじゃないか……マジかよ」
彼が指す方向に注目し、その場の全員が表情を曇らせる。言うまでもなくオレも
だ。
なにしろパイナップルなど酢豚にとっては単なる異物、邪魔者でしかないのだか
ら。
あいつだけが嫌われるのならどうでもいい話だ。だがヤツのせい酢豚全体の印象が悪くなり、オレたちの印象まで薄れてしまう。
まさしく厄介者だ。迷惑極まりない。くそっ、見るだけでムカついてくる。
せめて食後のデザートであってくれ――と念じるオレの方へパイナップルはにこやかな表情で近づいてきた。
「やあ。今日はよろしく」
「……おまえ、酢豚に入るつもりか?」
苛立ちを抑えつつオレが尋ねると、パイナップルはなんの気負いもない様子で「そうだよ」とうなずいた。
かろうじて舌打ちは抑えた。だが眉根が歪むのは止められなかった。
くそっ、料理人はなにを考えてやがる。なんでこんなヤツを入れる。馬鹿なのか、ちくしょうめ。
「俺が入るのは不安だよな」
黙り込むオレに、パイナップルは静かにそう言った。
こちらの胸の内をすっかり見透かしているような言葉。それでいてちっとも悪びれた様子は見せない。凪いだように穏やかな表情からは、確固たる自信すら漂わせていた。
その自然体が、無性に心をざわつかせた。
「そ……ああっ、そうだよっ!!」
当初からの悪印象も後押しし、気がつけばオレはパイナップルに食ってかかっていた。
「おまえが入るだけでみんなガッカリするんだよっ!! オレもっ!! 他の
みっともない――と心のどこかが訴えるのから目を背け、苛立ちのまま叫び続け
る。
「なんでおまえが酢豚に入るんだっ!! おまえがいるだけで誰も幸せになれやしねえっ!! おまえのっ!! おまえのせいでっ!!」
「酷い言われようだな」
だがいくら罵声をぶつけられようとも、パイナップルはどこまでも落ち着き払っていた。ただ静かに苦笑いを浮かべるばかりだった。
「心配するな。俺はこの日に備えて手を打ってきている。無様をさらすつもりはな
い」
「なに……?」
「だから俺を信じろ、とは言わない。言葉ではなく結果で示してみせる。だからひとまず落ち着いてくれ」
どこまでもまっすぐな瞳。迷いのないパイナップルの言葉にたじろぐ。思わず目線を外してみれば、他の具材たちがハラハラした様子でオレたちを見守っているのが分かった。いたたまれず、オレは後ずさった。
「あの」
おずおずとニンジンが切り出した。
「手を打った……って、具体的にはなにをしたんだい?」
「そうだな。たとえば糖度を上げてみたよ」
「どれぐらい?」
「いまは二〇かな」
「二〇……っ!?」
その言葉に具材たちがざわついた。
糖度二〇。
パイナップルは糖度が十五ほどあれば甘いとされる。だがこいつの糖度はそれを軽く上回っている。相当フルーティーであることがうかがえる。
「すごいわ……そんなに甘いパイナップルが酢豚に入るなんて!」
「ああ! なんだか楽しみになってきたよ!」
「こりゃあ、ひょっとしたらひょっとするかもな!」
タマネギが目を輝かせる。ニンジンとピーマンもいまや尊敬の眼差しをパイナップルへ向けていた。
「なるほど……どうやら今夜の酢豚はひと味違いそうだな」
「これは俺たちも絡み甲斐があるぜ」
遠巻きから、酢や醤油たちといった甘酢あんの材料もうなずいていた。いまやパイナップルは場の中心であった。先ほどまでの淀んだ空気は完全に霧散していた。
だったらなおさら食後のデザートでいいじゃねえか――胸中で吐き捨てる。
くそっ。せっかくオレの晴れ舞台だってのに。面白くねえ。
調理が始まった。
まず衣をまとったオレが揚げられ、いったん皿へ移される。酢や醤油たちはボウルの中で混ぜられ、甘酢あんへと仕上げられる。
それからフライパンに油が引かれ、食べやすい大きさにカットされた野菜たちが
次々と投入されていった。
「……?」
だがパイナップルだけは投入されない。そのまま他の野菜たちが炒められるのをじっと眺めているだけであった。
「おうい、入らないのかい?」
「いや、まだだよ」
フライパンからニンジンが声をかけるのへ、パイナップルはそう返した。
「いまから入っちゃ火が通りすぎる。すると食感が悪くなってしまうんだよ。俺が不人気な理由のひとつがそれだ」
「へえ。考えているのね」
タマネギが感心していた。その声色には期待がたっぷりと含まれていた。
面白くねえ。
オレはその様子を歯噛みしながら眺めていた。
酢豚の主役はオレなんだぞ? だってのになんでおまえらパイナップルばかりに注目してやがる。
おまえらだって最初は見下してたくせに。いまさらヤツに取り入ろうって腹積もりか? 虫のいいヤツらめ。
さっきから苛立ちが収まらない。もうすぐ投入だってのにまるで落ち着かない。こんなはずじゃなかったのに。クソッタレが。
「……そろそろ俺の出番か。行ってくるぜ、豚肉」
やおらパイナップルが立ち上がる。どうやらこのタイミングで投入されるらしい。
「……調子に乗るな」
思わず毒づく。
「さぞやいい気分だろうな。オレより目立ちやがって。果物のくせして主役にでもなったつもりか。おとなしくデザートでもやってりゃよかったんだ」
いくら罵倒を吐き出しても憂さは晴れない。それどころか、かえって現実がじわじわ胸に這い寄ってくる。
みじめな心地だった。
なんだってこんな思いをしなきゃならないんだ。
本当ならオレがみんなに認められるはずだったのに。本当なら――
「なに言ってるんだ」
うなだれるオレに、パイナップルは笑みを向けた。
「酢豚の主役はいつの時代も豚肉、お前だろ?」
「……なに?」
その言葉に顔を上げる。
こいつ……主役の座にこだわってないのか? そのチャンスがあるのに?
「おまえ、オレから主役の座を奪おうって気はないのか?」
「まさか」
「だったらなぜ糖度をあんなに上げた? 二〇だなんて生半可な努力じゃ達成できないはずだ。いったいなんのためにそんな苦労を?」
「そんな大げさな理由じゃないよ」
パイナップルは言った。
「俺はただ、みんなの足を引っ張らないことばかり考えてここまで来ただけだ。せっかくの酢豚を俺のせいで台無しにしたくないからな」
「……!」
「酢豚は食材みんなで作りあげるものだ。タマネギやニンジン、ピーマンたちがいるから栄養豊富で様々な食感を楽しめるようになる。甘酢あんのおかげで味の調和が取れる。そして豚肉、おまえのおかげで白米がどんどん進む。おまえのおかげで俺たちは食卓の中心たり得るんだ」
「パイナップル……」
「だから頼んだぜ、ヒーロー」
そう言い残し、パイナップルはフライパンへと飛び込んでいった。
……あの野郎。生意気なこと言いやがって……。
オレが自分ばかり目立つことを考えていたとき、アイツは他人のことを考えていたってことか……。
なんのために?
決まってる。
いい料理にするためだ。
食卓に笑顔を届けるためだ。
それがオレたち具材が目指すべき道じゃなかったのか? それこそオレが主役になる意義じゃなかったのか?
ちくしょう。
大事なことを思い出させやがって。
あの野郎――かっこいいじゃねえか。
「豚肉」
甘酢あんがオレの肩を叩いた。
「そろそろ出番だ。……ああまで言われたんだ、俺たちもやってやろうじゃあない
か」
「……ああ!」
もはや雑念は晴れた。オレは具材たちが踊るフライパンへと勢いよく飛び込んだ。
「豚肉っ!!」
パイナップルが叫ぶ。
「これを受け取れっ!!」
「これは……っ!?」
な……なんだっ!!
ヤツに触れた瞬間、オレの身体が……オレが柔らかくなっていくっ!!
「俺に含まれるプロメライン酵素だっ!! そいつがお前をさらなる高みへと押し上げるっ!!」
「パイナップルッ!!」
「やれっ!! やってやれ豚肉っ!!」
「……ああっ!!」
行けるっ!!
これならかつてないほど柔らかくジューシーなオレになれるっ!!
かつてないほど美味い酢豚に仕上げられるっ!!
「すごい……すごいわっ!!」
「僕たちも負けてられるかっ!! もっとだっ!! もっとうま味を引き出せみんなっ!!」
「ああっ!! やってやろうじゃないかっ!!」
タマネギ、ニンジン、ピーマンたちがさらなる気炎を上げる。皆が皆、熱したフライパンの上で一心不乱に踊り狂う。
その中心でひときわ高く黄金色の身体が跳ねる。さながら漆黒の夜闇を切り裂いて昇る太陽、その名はパイナップル!
「みんなぁぁぁぁぁッ!! 絡まれぇぇぇぇぇぇ――――――ッ!!」
そして熱狂の渦中へ飛び込む甘酢あん! 別のフライパンで熱せられ、とろみのついた琥珀色のあんが最後の仕上げにかかる!
ああっ!!
ああっ!! ああっ!!
かつてない一体感っ!! なんという高揚感っ!!
そうか……そうだったのかっ!!
いまのオレならすべてを理解できるっ!!
誰が主役だとか、そんなことはちっぽけなことだったんだっ!!
酢豚とはオレたちのことだったんだっ!! オレたちはもう酢豚なんだっ!!
「見ろ、みんなっ!!」
パイナップルが叫ぶ。その向こうには白くつやめく大皿!
「あそこが俺たちの晴れ舞台だっ!! さあ楽しもうぜぇぇぇっ!!」
『オオオオオオオォォォォォォ――――――――ッ!!』
どよめくフライパン内!
歓喜のなか、オレたちは流れるように大皿へと飛び込んでいった――ッ!!
……天井の蛍光灯へと白い湯気が立ち上っている。テーブルの中心から食卓中へと甘酢の香りが広がっていく。
今夜の夕食としてテーブルへ載せられたオレたちを、人間たちが覗き込んでいた。
――酢豚にパイナップル?
――うわ~、俺苦手なんだよなぁ……。
頭上から不安そうな声が降ってくるも、オレの心にはさざ波ひとつ立たなかった。
ただただ穏やかだった。それでいて、内側からはふつふつとした充足がみなぎっていた。
オレたちはすべてを出し切った。もはややり残したことはない。あとは結果を待つのみだ。
――いただきます。
きれいに揃った声とともに、オレのひと切れが箸でつまみ上げられる。パイナップルも一緒だった。
揃って口の中へと放り込まれる。
――う、うまいっ!!
――なんて柔らかい豚肉なんだっ!!
そして、歓喜の声が食卓に響いた。
――このパイナップル、すごく甘くて美味いぞっ!!
――まさか果物がこんなにも肉と合うだなんてっ!!
その声に、周囲の具材たちがパイナップルの背中を叩く。アイツはいまやオレたちの中心だった。まぎれもない主役だった。
もっとも、パイナップルまるで気にもとめていない。素っ気なくも温かく『みんなで頑張った成果だよ』と答えるだけだ。
まったく。どこまでもクールなヤツだぜ。
ふと、パイナップルと目が合った。無言のまま、オレに向けて手のひらを軽くかざしてみせる。
オレもなにも答えない。代わりに笑みを浮かべ、ごく自然とハイタッチを交わす。
パァン! と胸のすく乾いた音が響き、歓喜のなかへと溶けていった。
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二〇〇〇字ほどのサクッと読めるコメディです。
■蚊「くっ……殺せ……っ!!」
https://kakuyomu.jp/works/16818093083720259026/episodes/16818093083720350522
酢豚の嫌われ者であるパイナップルに転生した俺が料理知識を駆使して苗のころから努力したら、いつの間にか主役の豚肉より人気食材になってた 平野ハルアキ @hirano937431
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