第5話
「おい死にかけ。診察するからこっちに来い」
ヨシュアにそう呼びかけられて、樹は顔をしかめた。他に呼び方があるだろ。現在、中庭で種を埋めているところだった。手を洗った後、彼と一緒に医務室へ向かう。ヨシュアは樹の心臓を診て、ううむ、とうなった。どうやら、病状はよくないようだ。彼によれば、不死の実とかいう、あるんだかないんだかわからないものが樹の命を救うらしい。だけど、どうやったら手に入るのかはわからないらしかった。
「おまえ、ハシム王子の稚児か」
「はっ?」
「王子の匂いがべったりついとる。あの双子は神の血族だから、匂いが他の人間とは違うんだな」
樹は真っ赤になって顔を伏せた。あいつ……だからやめろって言ったのに。今朝目覚めたら、ハシムに抱きしめられていた。逃れようとしたのだが、そのまま身体を奪われた。うろうろと視線を泳がしていたら、医官が目を細めた。
「死にたくなかったら、あまり無茶するのはやめることだな。まあ死の寸前だからそういう本能が働くのかもしれんが」
「俺に言わないで、あいつに言えって」
「言っても聞かん。傷口が開いても訓練するような男だ」
ハシムの背中の傷を思い出して、樹は息を飲んだ。多分、ハシムもこの医官にお世話になっていたんだろうな。知らないことがたくさんある。ハシムについても、この国についても。医務室を出た樹は、ラビに頼んで図書室に連れて行ってもらった。ずらりと並んだ本棚に、びっしりと蔵書が詰め込まれている。なかなか壮観な光景だと思った。この中から目当ての本を探すのは大変そうだ。ラビは、神官司書を連れてきてくれた。賢そうな少年は、ぺこり、と頭を下げる。
「エルランドです」
「樹です。不死の種について知りたいんだけど」
エルランドは、いくつか本を選んで机の上に積んだ。
図書室で本を読んでいたら、窓の外から金属音が聞こえてきた。これって、剣の音?
音がした方に向かうと、兵士や、騎士らしき人々が訓練をしていた。その中でも、ハシムはとても目立っている。俊敏な動きは見惚れてしまうほどだ。つい彼の動きを目で追ってしまい、樹は慌てて顔を逸らした。くそ、別に見惚れてなんかいない。
「おう、樹。どうした?」
近寄ってきたハシムが、樹を抱き寄せてきた。汗の匂いと、ライムの香りにどきりとする。匂いが付いている、と言われたことを思い出して顔が熱くなった。彼を押し除けると、ん? と首を傾げる。樹は赤い顔で、ボソボソとつぶやく。
「ヨシュアに、おまえの匂いがついてるって言われた」
「ああ、わざとだよ。他のやつに食われたら困るからな」
どういう意味だと、怪訝な表情を浮かべる。
「へーっ、これがハシム様の稚児ですか」
「こういうのが好みでしたっけ。なんか腕掴んだら骨折れそうですね」
男たちが、わらわらと周りに集まってきた。なんで稚児って話が広まっているのだ。俺は断じて、ハシムのものではない。樹はそう言いたかったが、反論する前にハシムに「見せ物じゃないぞ」と連行された。ハシムが樹を連れてきたのは、彼の部屋だった。壁にはさまざまな剣や武器が飾られており、床にはブーツや本が雑然と置かれている。ハシムはベッドに腰掛けて、樹を膝の上に乗せた。髪に顔を寄せて、猫にでもするかのように匂いを吸い込んでくる。樹は赤くなった。
「やめろ」
「ん……緑の匂いがする。おまえの身体」
「おまえは汗くさいな」
「会いに来といて、そりゃないだろ。それに、今からまた汗をかく」
にやりと向けられた笑みに、樹は身体を震わせた。ハシムの手が、するりと服から入り込んできて、樹の胸元を弄り始める。樹はもがいて、ハシムから逃れようとする。しかし耳朶を甘く噛まれると、力が抜けてしまう。大きな手が樹の薄い身体を這い回って、あっという間にズボンを脱がせてしまった。
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