アレだけ溶かすスライム
砂漠の使徒
に挑むパーティー
「よぉ、新入り。今日の仕事はヌールヌル洞窟だ」
「え、それって……あの"服だけを溶かすスライム"がいるって噂の……!?」
「バーカ、逆だよ逆。ったく、変な噂信じやがって」
「え!? スライムいないんですか!?」
「いるっちゃいるんだがな、スライム」
「あれ、逆って……?」
「行けばわかるよ。ほら、ついて来い!」
――――――――――
「せんぱーい、本当にこんなところにいるんですか?」
二人が足を踏み入れたのは、なんの変哲もない洞窟だった。
町はずれの森の中に開いていた穴。
中は意外と巨大なダンジョンになっていたようで、もうかれこれ一時間は歩きっぱなしだ。
しかし、特に危険なモンスターや罠があるわけでもない。
「それに、相手はたかがスライムでしょう? 僕達特殊モンスター討伐隊が出動するほどのことですかね?」
「はぁ……お前って奴はまだわからねぇのか」
「なにがっすか?」
「周りをよく見ろ、そこの床とか」
「あー……、さっきからちょくちょく落ちてる装備のことっすか?」
「たしかに、盗賊がいるのは怖いですけど。人間相手なら、負けませんよ俺」
「ははは、大した自信だな。まあ、お前の剣術の強さは認める」
「えへへ、ありがとうございます」
「だが、相手は盗賊じゃねぇ」
「じゃあ、なんでそこら中に装備が脱ぎ散らかしてあるんですか? まさか露出狂でも出るんですか!? あ、なんかそっちの方が恐ろしいな……」
「ばーか、こんなところで裸になったら即死だよ」
「そうっすかね? 別に危険な要素はないし、丸腰でも……」
「おい、こっち来い。これを見ろ」
先頭を歩いていた男は、道端に散らかった鎧に歩み寄った。
そして、しゃがみ込む。
「この桃色の液体、なんだと思う?」
「あ……あれ? なんですかね、これ? 露出狂が使ったローション?」
「おい、ふざけるのもたいがいにしろよ???」
「ひっ……。すみません!」
「これが今回のターゲットだ」
「へ?」
「見てろよ?」
そう言うと、男は髪の毛を一本抜いた。
そして、それを桃色の粘液につける。
「うわっ!」
「な? わかったか?」
髪の毛は一瞬にして溶けてなくなった。
もしこれが体につこうものなら。
「つまり、今回のターゲットは……。逆って、そういう……」
「ああ。俺達が狩るのは”体だけ溶かすスライム”だ」
「だ、だから、装備だけ転がってるんすね?」
「そうだ、骨まで残らないからな。全部食っちまう」
「ひえっ!」
「お前、気づかなかったか? 仮に盗賊なら、金貨や宝石なんかを置いていくわけないだろ?」
「た、たしかに」
「さ、行くぞ。ここはまだまだ入口だ。奴がいるのは最深部らしいからな」
――――――――――
「暑いーーーーー!!!」
後ろを付いてくる後輩の声が洞窟にこだまする。
「この服どうにかならないんすか!?!?」
彼が鬱陶しそうにつまんだ自分の服。
それと同じものを先輩も着ていた。
「脱ぎたいなら、脱げばいい」
「でも、脱いだらあれっすよね?」
「服の隙間から少しでも粘液が入ったら……。俺はお前のご両親に骨すら届けてやれなくなって、申し訳ないよ」
「恐ろしいこと言わないでください!」
「んじゃあ、我慢して着るこったな」
「うううう~~~~」
彼らの服は、ぴっちりと張り付いたゆとりのない服になっている。
つまり、全身タイツのような格好なのだ。
すごくダサいぞ。
――――――――――
「お?」
ランプに照らされた洞窟の床に、なにかがいる。
そいつは、桃色の光をこちらに反射している。
「い、いた……!」
「ターゲット、発見だな」
「こいつが何人もの冒険者を喰らった恐ろしいモンスター! いったいどうやって倒s」
「ファイアー」
「よし、終わりっと」
「ええええええ!?!?!!?」
「めちゃくちゃあっさり倒したーーー!?!?」
後輩が意気込んでいる間に、対象は炭になってしまった。
もうあの頃のショッキングなピンクは欠片もない。
「おい、帰るぞ」
炭をひとつまみ小瓶に入れて、くるりと踵を返す先輩。
「え、手強いモンスターじゃないんですか?」
「いや、全然。正体さえわかっていれば、楽勝だ」
「だって、あんなに犠牲者が……」
「あれはな、油断だよ、油断。たかがスライムと思ってなめてかかるから、返り討ちにあう。危険なモンスターだとわかってれば、速攻で始末できるよ」
「じゃあ……この格好の意味は?」
「保険だよ、保険。万が一飛び散ったら危ないからな」
「そう、ですね……」
警戒したわりにはあっさりと終わり、なんだか釈然としない後輩であった。
(おしまい)
アレだけ溶かすスライム 砂漠の使徒 @461kuma
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