第89話

美菜実はまた一年生の特別支援級の担任をすることになっていた。


新しく二年生になる、見慣れた皆の名前をなぞる。二年生、か。もう二年生。二年生の一年間をかけて、あの子達はまたきっと大人になる。またきっと成長していく。


きっと卒業の時も、いつの間にか来る。きっとその時も泣いちゃうんだろうな。


そう思いながら二年生でクラスを担当してくれる先生と一緒に何度も相談した。それぞれのこの特性や気をつけなければいけないことを一つ一つ確認していく。楓ちゃんのためにホイッスルの許可も通した。


皆が要らない苦労をしなくていいように、のびのび生活できるように。あの子達から個性を奪わないように、それでも苦手なことはできるだけ減らしていけるように。


皆が楽しく、今後の夢を叶える助けになるために。何だって話し合った。


話し合いが終わって、今度は新しく入ってくる一年生の名簿をなぞる。


特別支援級とは別に、「医療的ケア児」ーーつまり病院から専門の緊急対応ができる先生がついて何日かごとに学校に来て勉強する子がいた。


その名前は、藤巻小春。一年間で何度も何度も見た連絡先と同じ連絡先。


それを見て温かい気持ちになる。


そっか、花菜ちゃん、良かったね。妹さんは、学校に来られるように、外に出られるようになったんだね。一緒の学校で一緒に過ごせるようになったんだね。


毎日学校に来ることはできない。体調が悪くなったらすぐに緊急措置をとってから病院に戻ることになる。簡単な道のりではない。


……でも、花菜ちゃんが頑張ってきたように、きっとこの子なら。


頑張って生きて、頑張って勉強できる。いつか、いつか普通の子のように学校に通える日が来るかも知れない。


この子は特別支援級ではなく普通級に通うことになるらしい。


特別支援級には新たに五人の名前が並んでいる。私にできるのは、向き合って、一緒に同じ方向を見て、一緒にたくさん間違えながら成長すること。


まだまだ未熟な自分を認めて、間違えないだなんて自信過剰にならないこと。


私は小さな大人と一緒に何度だって間違える。でもそれは悪いことなんかじゃない、必要な過程だ。それを一緒に乗り越えていくこと。



一年生のクラスに向かって慣れた道を歩く。扉を開けると、そこには小さな椅子に座って並んでいる、綺麗な洋服に袖を通した子達。


緊張したその顔と落ち着きのなさそうな姿。”明るく、楽しく、元気よく”、だ。大きな、はっきりした声で一年を始めよう。



「おはようございます。今年一年間一緒に勉強して活動していきます、秋葉美菜実です。秋葉先生って呼んでください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

special needs【完】 平井芽生 @mei-1002

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ