第112話

一年後、唯と宙は一真かずまと名付けた子どもを抱いて二人が式を挙げた結婚式場にいた。


「自然そのままの、ありのままの姿で人に愛されて幸せになってほしい」という意味で二人で調べ尽くして付けた名前だった。



今日は二人にとっての大切な友人の結婚式だった。




「可奈、おめでとう」


「唯、宙、来てくれてありがとう。一真くんもありがとうね、私が可奈だよ、覚えててくれてるかな?」


可奈の挨拶ににっこりと笑った一真を見て、その場にいる全員が微笑んだ。


「唯さん、今日は来ていただいてありがとうございます。宙先輩、初めまして。桃と申します。来ていただいてありがとうございます。一真君もはじめまして。桃と申します」


「二人とも一真に丁寧な挨拶してくるところそっくりだね、夫婦は似てくるって言うけどそんな感じ」


「そっちこそなんか顔まで似てきたような気もするけど? 一真くんは唯に似てよかったねえ」


「ちょっと俺のことどう思ってんだそこのお嫁さん」


「唯よりは美人じゃない夫」


「……それはそう。自覚してる。唯は美人、誰より美人」


「そんなことないよ宙かっこいいよ? いつも何でもしてくれるし優しいし、この子が宙に似てくれたらいいななんて思ってる」


「はいそこのおふたり人の結婚式でいちゃつかないでくださーい」


そう、それは可奈と桃の結婚式だった。


二人が使った部屋より一回り小さな部屋で二人はそろいのドレスを着て小さな結婚式を挙げた。



「病めるときも健やかなる時も、


富めるときも貧しきときも、


お互いに愛し合い慈しみあうことを誓いますか?」


二人は顔を見合わせ、少し照れたような表情を浮かべてから穏やかに答えた。


ーー「はい」


それは唯と宙の結婚式の時のような、幸せに満ちた表情だった。



「お集まりいただいた皆様、本日はありがとうございます。残念ながら私たちには結婚することはできません。ですが今日この日を二人で大切に待ってきました。私のパートナーである桃は、ずっと私のことだけを見ていてくれました。私たちが愛し合ってこうしてささやかに式を挙げられることをとても嬉しく思います」


二人の結婚式の友人代表スピーチを務めたのはもちろん唯だった。



「先ほどご紹介にあずかりました本田唯と申します。


可奈さん、桃さん、そしてご両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。


僭越ではございますが、お祝いの言葉を述べさせていただきます。


可奈さんは私の一番の親友であり、また私の夫である本田宙の親友でもあります。


大学時代からずっと仲の良かった可奈さんは、私が逆境に立たされたときも私のそばを離れることなく支えてきてくれたとても優しく素敵な方です。


可奈さんと過ごす時間は私にとってとても楽しく穏やかな時間で、時間がすぐに過ぎていくようでした。


桃さんも、私が留年した際に一緒に勉強してくれ、私の友人を増やすためにたくさんの方を紹介してくれました。


そして何より私の親友である可奈さんを一途に想い続けてくれた純粋でまっすぐな方です。


お二人になら、必ず幸せな家庭が築けると思っています。桃さん、私の一番の友人である可奈さんをどうかよろしくお願いいたします。


お二人の末永い幸せを心より願って、短いですが私からのお祝いとさせていただきます」


会場内から拍手が上がった。




「私変じゃなかった……?」


「大丈夫、いいスピーチだったよ。一真も笑ってる。うわ唯すごい手汗かいてる」


「だって大事な可奈の結婚式だよ、なんなら自分の結婚式より緊張したよ」


そんなことを話しながら二人は正式にパートナーとなった二人を見守った。




唯、宙、可奈、桃、一真。全員が温かく微笑んだ。唯と宙、可奈と桃のように、そして唯と宙が一真を愛しているように、全員が誰かの唯一になった。


ーーそう、これは全員が誰かの唯一になれる、幸せになれる、そんなお話。

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病めるときも、【完】 平井芽生 @mei-1002

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