第111話

次の月、可奈は唯と宙の家に着いた。


「唯、おめでとう! 大分おなか大きくなったね、つわりは? 大丈夫そう?」


「可奈、来てくれてありがとう。つわりも大分良くなってきたよ、ご飯も一時期は駄目だったんだけど食べられるようになったし歯磨きつわりもなくなった。……でも香水付けないで来てくれたんだね、ありがとう。私家に一日中いるのに家事は宙に禁止令出されて全然やらせてもらえないのがちょっと不満だけど」


「いいよいいよそれくらい宙に甘えときな、……聞こえてるかな、私は可奈と申します。唯の大事な大事な親友です。よろしくね。おなか触ってもいい?」


「まだ赤ちゃんなのに私に対してよりも丁寧じゃない、妬いちゃうなあ。おなか、いいよ。どうぞ」


「ここに二人の赤ちゃんがいるのかあ、そっか、すごく不思議な感じ。あ、蹴った、蹴ったよこの子! 私のこと認識してくれたかな?!」


「きっとそうだね。この人が私の大切な大切な親友だよ。大きくなったらまた会おうね。……それでね、最近この子が男の子だって分かったの」


「男の子かあ、じゃあいつかはパパとショッピングに行く日もサッカーする日も近いね。宙が父親かあ、私も年取るわけだわ。……宙、むくれてない?」


「すっごいむくれてる。生まれてくる前なのにもうこの子に妬いてる。私が取られると思ってるみたいでこの子のこと愛してるのに一人で勝手に葛藤してるし毎晩ママはパパのだぞーっておなかに語りかけてる」


「何その子どもみたいなの。宙ってそんな感じだったっけ?」


「あー実はね、宙の弟さんに障害があったから小さい頃あんまり自分のこと見てもらえなかったみたい。弟さんも大きくなって大分落ち着いてるみたいだし家族とのわだかまりもなくなったみたいなんだけど、昔のこと思い出すとちょっと怖いんだって。だからこの子が生まれてもずっと宙のことも見続けるつもり」


「あ、そうなんだ。宙も昔からやけに物わかりいいなと思ってたんだけどそんなことあったのね。でも唯なら大丈夫だよ。宙だって絶対育児参加どころか育児も唯から取り上げそうだもん」


「そうそう。最近たまに夜中にアラーム鳴らして夜泣きの時に起きる練習してる。私が起きる前に止めてるみたいだから一回も気づいたことないけど。それにもう毎日のようにベビーベッドとかベビー服探してきてはこれどうかって聞いてくる」


「らしいわ、やっぱり宙だねえ。二人なら、あ、三人か。三人なら絶対幸せになれるよ」


「うん、ありがとう。私もうすでに幸せだからこれ以上幸せが来るのちょっと怖いくらい」


「宙からそれも聞いたけどあんた不幸は大学生の時に使い切ったんだから大丈夫。親御さんも優しいんでしょ?」


「うん。これまでずっと私が頑なになってて頼れなかったの。だからこれからはいっぱい頼るつもり。孫の顔見せてあげたいし」


「そうね、好きなだけ頼っていいと思う。何なら私にも頼って」


「ありがとう、じゃあ安心だね」


穏やかに笑う唯はもう既に母の顔だった。いつも通りたわいもない話をしてその日は終わった。

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