灰になって
若木士
第1話
見上げる空は、いつもそうであるように、一面隙間なくが雲に覆われている。今日の雲は滅多に見ることのないくらい明るい白色で、つまりは朝からとても良い天気だった。そんなわけで、朝起きて軽く朝食を摂ると、ちょうど休日だったこともあって、せっかくだからと散歩に出かけたのだった。
舗装されていない砂利道を歩いていく。道の両脇は低くなっていて、もしかしたらかつては畑だったのかもしれないが、手入れされている様子はなく背の高い雑草が生え放題になっている。この辺りではこうやって放置されている土地は珍しくはない。昔はそれなりに人が住んでいたのかもしれないけれども、今はほとんど無人みたいな田舎だ。少なくともここに住み始めてから自分以外の住民を見たことはない。
この地に引っ越してきて約一か月。都会の喧騒から逃れてきた言えば少しは聞こえがいいかもしれないが、実のところはそんな殊勝な意識などなく、巷でちょっと話題になっていた田舎暮らしに触発されたというのが正しいのだろう。何か確固たる意志や目的というものがあって移住してきたわけではない。とはいえ、今のところ後悔の類はなかった。現代においては現場作業でもない限り仕事はネットワーク越しで行われるから居住地が問われるなんてことはまずないし、自分の趣味といえばコンピューターゲームで遊ぶくらいだからこれまた何処に住んでいようと変わらない。買い物はほぼ全てをネット販売に頼らなければならないので不便といえばそうではあるが、全体としてはそこまで不自由することなく生活を送れている。
家を出てから十五分ほど歩き続けると、雑草に挟まれた道を抜けて広い車道に出た。道の反対側は崖になっていて、その向こうにはどこまでも海が広がっている。春が終わり本格的な夏が近づいてきた今の季節。潮のかおりを含んだ穏やかな風は、ちょっとした運動で熱を帯びてきた体に気持ちよかった。そのまま左に曲がり、海沿い続いていく道路をの左端を進んでいく。
この辺りの地理情報は地図上ですでに見ていたが、実際に足を運ぶのは初めてだった。といっても、本当に何もない。海と岩と草と木ばかりで、目に入る人工物は転落防止の柵くらいだ。歩いているこの道路もさほど荒れているようには見えないが、そんなに交通量があるとも思えない。
しばらくすると、左手に倉庫が見えてきた。何年前から建っているのか分からないくらい古びた外観で、海風に曝され続けた表面は錆びが目立っている。近づくと正面の大きな扉が開いていた。ふとその中に鎮座しているものが目に入り、思わず足を止める。
それは飛行機だった。あまり知識があるわけではないが、小型のそれはジェット機だろうか。プロペラは見当たらないが、もしかしたら単に失われているだけなのかもしれない。というのも、そこにある飛行機は機体の底から車輪を出して自立してはいるものの、肝心の右翼はもげていて、他の部分も見るからにボロボロだったからだ。残骸をそのまま持ってきたといわれても違和感はない。胴体の前方に一人乗りとい思しきコックピットがあるが、座席を覆う防風も割れている。
今でこそもう触れる機会はあまりないが、幼少期にこの手のメカニックの本やおもちゃと共に育ってきた身としては、例えそれが単なる残骸だとしても興味を惹かれるものだった。それが失われた技術とも言われている飛行機ともなればなおさらである。柵も注意書きも何もなかったので、もう少し近くで見ようと道を外れて飛行機に歩み寄り、倉庫と野外との境目に右足を置いたところで止まる。
間近に立つと、それは思いのほか巨大だった。画面越しに見ていた限りではもっとこじんまりしていると印象だったが、実際に自分と比べてみるとそんなことはない。自然と見上げるような姿勢になる。
「何の用だ」
不意に声を掛けられた。
奥の部屋から出てきたのか、大きな箱を抱えた男が飛行機に向かってくる。汚れだらけでもはや灰色となっている白いシャツに、緑色の作業ズボン。短く切られてはいるが不揃いな髪の毛の多くは白く、年のころは自分の親くらい――五十から六十――だろうか。その割にはがっしりとした体格をしていて、そんな男に咎められて少し委縮してしまう。
「いえ、ちょっと見てただけです」
「触るんじゃねえぞ」
男はそれだけ言うと機体の横に箱を下ろし、中に手を突っ込んで何か何かをいじり始めた。もうこちらにはまるで興味がないとばかりに。
飛行機はこの男のものなのだろうかと思ったが、それを訊ねられる雰囲気ではない。
互いに無言のまま、カチャカチャと箱の中で何かがぶつかる音だけが倉庫内に響いた。
帰れとは言われていないし、不思議とそういった空気も男からは感じられなかった。しかし、いつまでも留まっていても仕方ないので踵を返す。このまま散歩に戻ろうかとも一瞬思ったが、なんだかそんな気分にはなれなかったので、来た道を引き返した。
かつて戦争があったらしい。今から三十年ほど前の、自分が生まれるよりも前の話だ。だから当時のことや戦争が始まる前の世界のことを直接は知らない。授業で習ったりメディアで見たり、上の世代から話を聞いたことがあるくらいだ。
それは地球上に住む全人類を滅ぼそうとしたのかというくらいに壮絶だったらしい。それ以前までは使うことすらタブー視されていた核兵器が無数に飛び交い、それだけに留まらず新たに生み出された大量破壊兵器も惜しみなく投入されたのだという。毎日のようにおびただしい数の人間が命を落としていき、このまま人類は絶滅を迎えるのではないかと本気で考えられていたというのだ。地上のありとあらゆる場所で街が破壊されていき、その過程で多くの科学技術も失われていった。技術を持つ科学者や研究者は次々と死んでいき、それらを記した文献も消失していったとなれば、あとに残るものは何もない。航空機の技術もその一つだった。かつては多くの人々が移動手段として当たり前のように飛行機を使っていたというが、今となっては昔はそうだったという記録があるのみだ。
そして戦火は地球環境をも変えた。生態系は無茶苦茶になり、有害物質がそこらじゅうに撒き散らされたのだ。といっても、なんだかんだで自然の回復力と人間の底力というものはすさまじらしく、地上のいくらかの部分は数十年という年月を経て清浄化されていった。まだ手付かずの汚染地域は無数に残ってはいるが、激減した人類にとってはすでに十分な土地が確保されている。
一方で、上空には戦争の名残が今だ色濃く残っている。途方もない威力の爆発によって巻き上げられた塵や、汚染されたままの空気が常に漂っている。その影響として、空は雲によって常に覆われているのだった。
あれから、定期的に例の倉庫を訪れるようになった。別に来るなといわれたわけではないし、海沿いの道は散歩のルートとしてなかなかに気に入ったので、それを辿って行けば自然と倉庫に辿り着いてしまう。勿論、あそこに保管されていた飛行機に興味があったという理由もあった。倉庫は日によって開いていたり開いていなかったりしていて、閉まっていればそのまま歩き続けて適当なところで折り返して帰宅するし、開いている日は飛行機とその周辺で作業をしている男を少しのあいだ眺めてから散歩に戻る。繰り返し倉庫の前を通るうちに、そんなルーティーンが確立していった。
どうやら、男はあの飛行機を修理――もとい組み立てているらしかった。足を運んでいる内に飛行機としての姿を取り戻していき、その変化を見るのも楽しみだった。そんな彼ら様子を眺めるのは、最初は道端から遠巻きにだったが、追い払われることがなかったことと慣れて大胆になってきたこともあってか、次第に近くで見るようになっていく。男は俺が来たことに気がつくと決まって「邪魔するなよ」とか「弄るんじゃないぞ」といったような警告じみたことを言ってくるが、初めて会ったときにそうだったように、それ以上は何かリアクションを起こしてくることはない。
言葉を交わすことなどほとんどなかった。あったとしても、男からの一方的な投げかけだけだ。そんな事を数ヶ月も続けていくと、男がどういう人間なのかということも何となく分かるようになってきた。その一例として、どうにもこの男は他人に興味がないらしいのだ。人が来ても一切関心を示さずに機械などを弄り続けているし、何かこちらに注意を向けたかと思っても発する言葉は飛行機を気にするような内容だけ。どこの誰とも知れない赤の他人が周囲でウロウロしていても、存在を認識すらしていないんじゃないかというくらいに気にする素振りを見せない。冷たいだとか不愛想とかではなく、本当にこちらに対して関心がないらしいのだ。もっとも、サンプルは自分しかいないので人に対してというより単に自分が興味を持たれていないだけなのかもしれないが。
そして今日も、倉庫を訪れていた。入る前に外から中の様子を伺うと、男は飛行機の下に仰向けで潜り込んで何かの作業をしていた。こちらの存在を主張するのも気が引けて、あまり足音を立てないようにしながら中に入る。男は気付いてないのかそれとも作業に没頭しているからなのか、特に何も言ってこなかったがよくあることだ。もっとも、ここ最近は目が合っても何も言ってこないことの方が多いが。
飛行機から少し離れた位置を回りながら、倉庫の奥に足を進める。初めて見た時と比べると、灰色の機体は随分とまともになっていた。翼はちゃんと左右にあるし、剥がれて中身がむき出しになっていた表面もリベットで塞がれている。見た目だけならちゃんと飛んでいけそうだ。後部に回り込むとエンジン穴が一つ。画像や映像で見たように、ここから炎を出してこの飛行機は飛ぶのだろう。
そういえば、ここまでがっつりと倉庫に入り込むのは初めてだったかもしれない。所有者であろう男がさして気にする様子はないとはいえ、やはりそこは遠慮していたのだが、今日それほど心理的抵抗を感じることがなかった。男の姿のほとんどが機体の下に隠れていたからだろうか。気がつけば、倉庫の一番奥まで辿り着いていた。
壁に飾られている額縁入りの写真が目に留まった。
それは空を収めた写真だった。青く、透明感すら感じるほどに澄んだ空。暗色が大半を占める倉庫の中で、それはひと際明るく見えた。
「気になるか?」
いつの間にか、男が背後に立っていた。汚れたタオルで手を拭いている。男がそこにいたこと自体もそうだったが、こうやって話しかけられるなんてことは初めてのことだったので驚いた。
「ええ、まあ」
面食らいながらも、何とか言葉を返す。こちらから男に何か声を発するのも、たぶんこれが初めてだった。
「そうか」
男はタオルをテーブルに放り投げるとクーラーボックスから缶ビールを取り出し、パイプ椅子に腰を下ろしてプルを開けた。そして一気に中身を喉に流し込み、気分良さそうに声を上げる。
「そいつはな、俺が撮ったんだ」
そう言われて、もう一度写真に目を向ける。
青空を撮影した写真だが、地上からカメラを向けたものではない。写真の下側には白い雲があり、その向こうには緑の山や街の姿が小さく写っている。こんなアングルで写真を撮るには、当たり前だが空を飛ばなければならない。しかもただ飛ぶだけではない。雲を突き抜けてその上まで到達する必要がある。そしてそれは現代では不可能だ。
「飛行機から撮ったんですか?」
「ああ。戦前はパイロットだったんだ、空軍の。こいつは訓練で飛んでた時に持ち込んだカメラで撮ったやつだ。多分な」
「空軍……戦争、行ったんですか?」
「まあな。でも開戦してすぐの頃に落とされて、それからは乗る機体もなくなってずっと地上にいた。運が悪かったよ。生き残れたのは運が良かったけどな」
男は懐かしそうに目を細めたかと思うと、ビールの残りを一気に飲み干した。空になった缶を見事なコントロールでゴミ箱に投げ入れ、新しいものをクーラーボックスから取り出す。
「この飛行機、飛ばすんですか?」
「他にどうするって言うんだ?」
プシュッと二本目の缶ビールをを開封して口を付ける。
「あんたも飲むか?」
「いえ、大丈夫です」
アルコールは飲めないわけじゃないが、値段はするしたいして美味しくもないので進んで飲むこともしない。男の勧めを断ると、クーラーボックスに座るように促されたので、それには素直に従う。
「落されてからずっと空とは縁のない生活をしてきた。けど十年くらい前か、妻が死んでな。それで身の回りを整理してたらそいつを見つけたんだ」
男は缶を持った右手の人差し指で壁に飾られた写真を指す。
「そしたら昔のことを思い出してな。それでまた飛んで、青空をこの目で見たいと思っちまって、そっから色んな所か飛行機のジャンク品をかき集めて組み立て始めたんだ」
話ながらもハイペースでビールを飲んでいく。そろそろ二本目も空きそうだ。
「飛行機の作り方は軍で習ったんですか?」
「独学だよ。航空力学は習ったし、原理や仕組みも叩き込まれた。でも俺は整備士じゃなかったからな。それに途中から飛行機なんてもんはなくなっちまったし。だから昔の専門書とかを集めて自分で勉強したよ」
二本目のビールも空になったらしく、男は缶を振ると大きく息を吐いた。それから背もたれに体重を預け、パイプ椅子を軋ませる。
三本目もいくのだろうか、だとしたらクーラーボックスの上からどいた方がいいだろうか。そんな事を考えていると、
「今日は店仕舞いだ」
と男が手を払う仕草をした。もう帰れということだ。そんな意思表示を男がするのも、これまた初めてのことだった。
それに逆らって居座り続ける意味もないので立ち上がる。
「お邪魔しました」
挨拶をして、その場を後にする。
倉庫を出る途中で缶が落ちるような音がしたので振り返る。すると椅子に座ったまま寝入ってしまったらしい男の姿があった。
それからしばらく、倉庫に足を運べない日々が続いた。というもの、勤め先の本社から召集がかかったからだ。ネットワークシステムがダウンしてしまったので直接来て作業して欲しいのだと。そういうわけで、約二ヶ月ほど家を空けざるを得なくなったのだ。
とはいえ、久しぶりに下りる人里も悪くはなかった。大抵のものがすぐ手に入るという環境はそれだけで便利だし、選択肢も豊富にある。そしてそんな利便性を押し込めたような街並みも、離れてから一年も経っていないのになんだか懐かしく思えた。
そんな出張から帰ってきてから暫くは家でだらだらとしていたが、家を出てまともに体を動かそうという気にようやくなったのは三日間が過ぎてからだった。かつて畑だったものと雑草の間を抜け、海沿いの道に出る。変わらない散歩のルートだ。そして何時ものように、海を臨んでいる古びた倉庫に立ち寄る。
驚いたことに、倉庫はもぬけの殻だった。男の姿が見当たらないのはいいとしても、ずっと同じ場所を占有し続けていた飛行機の影も形もなかった。
一体何があったのか。その疑問に対して一つの可能性が頭をよぎったが、気付かなかったふりをして思考の奥へ押しやり、改めて辺りを見渡す。
がらんとした倉庫内はやけに広く感じた。常にその圧倒的な存在感を放っていた飛行機がなくなったことで、今まであまり気にしていなかった他のところにも自然と視線が向くようになる。壁に浮き上がっている染みや、天井からぶら下がった蛍光灯。そしてそんな倉庫の一角では、機材やら何やらが山積みにされていた。その中にはいくつか見覚えのあるものもある。何をするのに使っていたのかはすぐには思い出せないが。
「どちら様ですか?」
奥の部屋から、初対面の男が箱を抱えて出てきた。いつもここで飛行機いじりをしていた男よりもずっと若い、自分と同じか少し下くらいだろうか。
「えっと、前にここのいた人ってどうしました?」
「ああ、もしかして父の知り合いですか?」
彼はそう言いながら持っていた箱を山の傍に置き、父親の名前を口にした。しかしあの男から名前を聞いたことなどなかったので、彼の言う父親があの男のことなのかどうかは判断しようがない。
「多分、そうだと思います」
ただ、状況的に考えればきっとそうなのだろう。目の前の男に、あの男との関係性を説明する。関係性といったところで、ここで飛行機を組み立てていた男を見ていただけというほぼ一方的なものでしかないが。
「そうだったんですね」
「それで、あの人は?」
「死にましたよ」
なんてことないように、男は軽く言ってのけた。
「一週間前に水死体で発見されたんですよ。海洋調査の船が見つけたみたいで連絡がきました。詳しいことは分かってないですけど、たぶんここで作ってた飛行機で飛んでいって墜落したんだと思います。葬儀は終わって、今はあの人の遺品を整理してるところです。ここもすぐに引き払わなきゃいけないんで」
飛行機で飛んでいったのだろうということは予想はついていた。それくらいしか飛行機と男の姿がないことに説明がつかないからだ。コクピットに男が乗り込み、倉庫前の道路を滑走路代わりに加速していく様を想像するのは容易だった。そしてその後に待ち受ける最悪の可能性も頭に浮かんでいたけれども、実際にその事実を突きつけられると上手く受け入れられなかった。飛行機を作り上げていく男、そんな光景がずっとここにあり続けるのだと、そんなことをどうやら無意識に思い込んでいたらかった。
「他に何もなければ」
男は退去を促してきた。けれどもこのまま引き返す気にはなれなかったので、荷物整理の手伝いを買って出た。遠慮というよりは本当に迷惑に思ったのだろうだったのだろう。男は初めは断ったが、こちらが再度申し出ると、気乗りしなさそうにしながらも首を縦に振ってくれた。
聞くところによれば、彼は父親とは上手くいっていなかったらしい。十年前に男が飛行機のために家を飛び出してから、ほとんど連絡も取っていなかったとのことだ。よく分からない人だった、というのがあの男に対する息子からの評だった。なぜ仕事も家族も捨てて空を目指そうとしたのか、理解できなかったしこれからも分かりそうにはないのだという。だから、ここにある荷物も整理とは言いつつもほとんどを処分するつもりらしかった。男が遺していったのは飛行機がらみのものばかりで、それを形見として持っておきたいとは思えないのだと。
曖昧に頷き返しながら、そんなふうに父親のことを語る彼の言葉に耳を傾ける。
あの男が抱いていた空を自分自身の目で見たいという気持ちは分からないではなかった。もしそんな機会があったとすれば、自分もそうしてみたいと思うだろう。けれども、あの男ほどに時間や労力を費やそうと思えるほどの情熱ない。
ふと、ある一つのことが頭に浮かんだ。飛行機で飛び立った後あの男は、果たして何処まで行ったのだろうか、と。地上を離れてすぐ海に突っ込んでいったのだろうか。それともしばらく飛び続けてからバランスを崩して落ちたのだろうか。あの男はどこまで高く飛べたのだろうか。雲には届いたのか。その上にまで到達して、青い空をその目で捉えることはできたのだろうか。考えたところで答えは出ない。それを知っているのはあの男だけで、当の本人はもうこの世にはいないのだから訊くこともできない。
倉庫の外で、本や紙を積み上げる。燃えるものはここで焼いていってしまうらしい。どうせ捨てるんだから、持って行くよりもここで処分できるならそうした方が楽だということらしい。積まれた処分品の中には、倉庫の壁に飾られていた青空の写真もある。額縁から取り出されたそれは大雑把に四つに折りたたまれて、無造作にごみ山に突っ込まれていた。そして最後に、あの男がため込んでいた酒類もまとめてそこに放り込む。
男がマッチに火をつけて投げ込む。すると大量のアルコールに反応したのか、一瞬で青い炎が燃え上がった。
労いの言葉と共に男がペットボトルを差し出してきた。礼を言って受け取り、蓋を開けて中の水に口を付ける。
ぼうっと前方に投げ出した視線の先では、炎が揺らめいている。
その中で、あの写真が緩やかに灰へと変わっていくのだった。
灰になって 若木士 @wakakishi
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