無職の理由

森杉 花奈(もりすぎ かな)

あれから10年

 無職でニートになって、10年になる。

ここまでニート歴が長いと、もう社会のこと

なんてどうでもよくなるが、こんな私でも、

あの時までは社会人だったのだ。そう、彼女

に会うまでは。彼女は私を社会から追放した。

私は心の中で彼女にレッテルを貼った。史上

最悪の女性。その表現は彼女にはピッタリだ

と思った。


 私が社会人としてバリバリに働いていた頃

のこと。私は前の仕事をクビになり、やっと

新しい就職先を見つけて新入りとして働き始

めた頃のことだった。新しい職場は女性ばか

り。男性社員のいない職場で働くのは初めて

だった。新しい職場でうまくやっていけるか

とても心配だったが、転職歴が2〜3回あっ

た私はある程度の経験があったため、少しは

余裕に構えていた。ある日のこと。

「ちょっと手伝ってくれない?あなたの仕事

ヒマそうだし」


 いきなり彼女に手伝いを要求された。

私はその時手が空いていたため、彼女を手伝

うことにした。

「いいですよ。何をすればいいんですか?」

「うん。この仕事をお願いしたいんだけど」

「わかりました。早速取り掛かりますね」

 私は彼女の言う通りに仕事をした。

ところが一生懸命頑張った仕事はダメ出しさ

れた。彼女の言う通りに仕事をしたのに、間

違いを指摘された。しかもそのミスは致命的

で会社に大損害を与えるかも知れなかった。

私のせいで会社に迷惑がかかってしまう。

 困った私は彼女に相談した。

「あなたのミスじゃない。あなたのせいで会

社がたいへんなことになるのよ。本当に使え

ない人ね。あなたに頼んだ私がバカだったわ」

 そんな。私はあなたの言う通りに仕事をし

たのに。私のミスらしい。私のなにがいけな

かったんだろう?


 そして私は会社をクビになった。もう二度

と仕事になんて就きたくない。何もかもがど

うでも良いと思った。そして、ふと思い立っ

て近所のコンビニに買い物に行った。

「危ない」

 ぼーっとしていた私は誰かとぶつかって転

んでしまった。若い青年だった。

「大丈夫ですか?お怪我は?」

「ありがとうございます。大丈夫です」

私はお礼を言って立ち上がると軽くお辞儀を

した。青年は心配そうにしていたが、私の無

事を確かめると、足早に立ち去っていった。

人生何をやってもダメなときは、何をやって

もダメである。そう思っているとさっきの

青年が戻ってきた。

「良かったらどうぞ」

そう言って缶コーヒーを差し出してくれた。

「ありがとうございます」

人生悪いことばかりじゃないんだな。少し心

が温かくなった私は、改めて明日からの就職

先探しを頑張ろうと思い始めたのだった。

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無職の理由 森杉 花奈(もりすぎ かな) @happyflower01

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