第4社 末路

 ミツキに呼ばれた私たちは月読大社へ戻り、イケさんたちのいる部屋へ急ぐ。途中、月読大社の代報者たちが慌ただしく廊下を走る姿が見える。

 一体、何が起こったんだろ……。

 と、横を走っていた樹の目が見開く。どうしたのかと声をかけてみたら、神妙な面持ちを浮かべた。

 

「……厳重に貼った結界が破られてる」

「え、どういうこと?」

「分からん。とにかく急ぐぞ」

 

 イケさんたちの部屋に着くと、とんでもない量の瘴気が部屋の中に渦巻いており、宮司である伊織のお父さんが祓力で浄化している。中に入ってみると、ミツキが伊織の方に降り立ち、権宮司である伊織のお母さんがこちらに気づいたのか振り向いた。

 

「お帰りなさい。そちらはどうでした?」

「無事に終わりました。今は祠の管轄社である大原野神社の人たちに祠の修繕を含めた後処理をしていただいています」

「そう良かったわ。ただ、こっちは大事よ」

「一体何があったんです?」

「……マルさんは無事なんだけど、イケさんが祟り殺されたのよ」

「詳しく聞かせてもらえませんか?」


 その後、伊織のお母さんとイケさんの様子を見ていたミツキから事情を聞いた。あれは私たちがちょうど祠に着いて調べていた時のこと。

 その場にいたマルさんから聞いた話によると、イケさんとマルさんは寝ていたらしいのだが、突如部屋の外から呻き声のようなものが聞こえたという。それで目が覚めた二人。呻き声は次第に部屋の方に近づいてきて、恐怖を覚えたイケさんが焦りからか外に出てしまったらしい。

 それからイケさんは祟りである5メートルほどの長い蛇に頭を喰われ死亡。その場にいたマルさんへ狙いを定めて、喰おうとしたところにミツキが来て祓い、蛇は消滅したらしい。

 

「あの馬鹿。部屋から出るなって忠告したのに」

「言っちゃあれだが、最初から最後まで気に食わんやつだったな」

「で、その肝心のマルさんは何処にいるんです?」

 

 伊予がそう問いかけると、伊織のお母さんは言いにくそうな表情をして口を開いた。

 

「それがね、一連の出来事を直接見た影響で、精神をやられたみたいで。今はうちの代報者が付き添って母屋の方に居るわ」

「そうですか……。ありがとうございます」

 

 私たちは伊織の両親にお礼を言って、邪魔にならないよう一旦外の方へ出る。今後の方針を話している最中、伊織がこう口にした。

 

「祟り殺されたって言ってましたけど、2人を襲ったのはあの大蛇の分身でしょうか?」

「確かに同じ蛇だしね」

「いや、多分お前らが戦った大蛇とは別だろう」

「え? 違うの?」


 ミツキに違うと言われ、私たちは首を傾げる。てっきり、イケさんを殺したやつは大蛇の分身だと思ってたんだけどな……。そうなったら一体誰が祟り殺したんだろう。

 

「オレが祓ったあの蛇から微弱だが神の気配を感じた」

「それってまさか……」

「あぁ。あの蛇は建御雷命の化身に間違いないだろう」

「神様直々にお出ましってわけね……。それは相当だわ」


 マジか……。いや、そりゃそうだよね。自分の住まいが壊されたようなもんだもんね。

 原則として、神様は現世に干渉してはいけないのだが、今回はあまりに酷すぎた。まぁ、幸いにも建御雷命本人が出てきたわけじゃないし良かったけどね。

 そういえば、建御雷命の化身って鹿以外にも蛇がいたんだった。で、樹の結界が破られたのにも納得がいく。流石に樹の結界も神の化身には敵わないだろう。


 それから数日が経ち、マルさんは神社省の息のかかった病院に入院。マルさんは代報者たちのお祓いを受け続けたが、魂が空になったかのように、廃人となってしまった。

 そして、イケさんが死亡したことにより、SNS上では神の祟りだなんだと騒ぎになったらしい。

 一方の私たちは胸糞悪い依頼を解決し終わり、依頼料である10万円をゲット。織部先生にはスイーツ食べ放題を奢って貰うことになった。

 

「いや~、やっぱり人のお金で食べるパフェは美味い! ありがとうございます織部先生」

「まぁ、本来よりも1個上の凶相当の祟魔を祓ったんや。こんぐらいお安い御用やで」


 私たち5人は織部先生の奢りでお腹いっぱいスイーツを堪能するのだった。



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【番外編】天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~ 桜月零歌 @samedare

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