第3社 追走劇

「いつまで追いかけてくんだよあの大蛇……!」

 

 みやびと共に大蛇の追走から逃げ回ること3分。

 その間にも後ろの方では樹、伊予、伊織の3人が大蛇に向かって斬撃を繰り出したり、拳銃を撃ったりしていた。たびたびこちらも切り返して桜と藤の花弁で斬撃を与えてはいるが、追走は収まるどころか更に勢いを増している。

 すると、樹が念話を繋げてきた。

 

『そういえば、蛇って目が見えない代わりに熱感知と嗅覚が優れてるらしいな』

『何だよ急に。こっちは逃げ回るのに必死だってのによ!』

『……いや、その情報あながち間違ってないかもしれないわよ』

『え? どういうことだ?』

『ほら、秋葉とみやびの祓式の共通点を考えてみなさいよ』


 伊予の指摘を受けて、私は思考を巡らしながら走る。

 私とみやびの祓式の共通点と言えば花弁だよね。そこに何の因果が……。

 ふと、斜め前を走っているみやびの方を見る。すると、ふわっと藤の匂いが鼻を掠めた。


「あ、なるほど。そういうことか」

『あぁ、そういうことだ』

『どうやら分かったようね』


 藤の匂いは私たち人間が嗅いでも結構鼻に残る。それに桜の花弁や紅葉も花と植物のため、匂いを常に発している。

 で、私とみやびの祓式は花弁の形だけでなく匂いもある。定期的に攻撃が防がれたり、避けられたりして消えることはあるが、戦闘中は自然と使い手の方にも匂いが残るのだ。スンっと自分の着物の袖を嗅いでみるがやっぱり匂いが服に着いている。

 そして、大蛇は樹が言ったように嗅覚が鋭いし、眼が見えないから余計それに頼りっぱなしになる。だから自然と私とみやびに反応して追いかけてきているというわけだ。


『だったら、秋葉とみやびが祓式を発動させつつ、囮になれば良いんじゃないか?』

『そうね。でも、それだけじゃ不十分よ。誰かが大蛇を叩かないと意味がない。そこで伊織の出番ってわけ』

『確かに僕の祓式と神社の距離から考えれば、そうなりますね。幸いにも今日は満月。遺憾なく力を発揮できるかと』

 

 伊織の言葉にチラッと空を見上げると、雲1つなく満月がはっきりと目に映った。確かにこれならいけそうだ。そう思っていたらみやびが念話に加わってきた。

 

『けど、相手は熱感知にも優れているようだからバレるんじゃないかな?』

『だったら俺が伊織の周囲に認識阻害の結界を貼ろう』

『決まりね。それじゃあ作戦開始!』

 

 伊予の合図で私とみやびは一斉に祓式を発動。桜と藤の花弁の匂いが大蛇の方に行きやすいよう後ろへ流す形で操作し、紅葉の防壁で敵の攻撃を軽減させる。

 その間にも、樹と伊織は離脱。陽動先である池から少し離れたところに生えている大木の方へ向かった。私とみやびで樹が結界を貼るまでの時間稼ぎをするため、池の周りをぐるぐる周回する。

 大蛇は目論見通り、樹たちの方に気を向けることなく、私たちの後ろをデカい図体を懸命に動かしながら追いかけてきている。


『秋葉は右、みやびは左に避けて』

『了解!』

『分かった』

 

 伊予は祓式の未来視で大蛇の動きを予知して念話で通達しながら銃や暗器で後ろから攻撃。私とみやびが指示に合わせて回避行動を続ける。

 そうやって場を凌ぐこと3分。樹から結界を貼り終えたとの連絡が入った。よし、これで後は伊織のいる大木へ走るだけ。


『二人とも、水流が来るわよ!』

 

 私とみやびは水流が大蛇の口から放出されると同時に、左右へ避ける。ちらっと後ろを振り返ると、合流したのか、後方から拳銃を構える樹の姿が見えた。

 大木を目指して走り続けると、伊織の姿が見えた。どうやら、私たち4人は認識阻害の範疇に入っていないらしい。私にはこんな特殊な結界は貼れないだろう。と、どんどん大木への距離が近づいてきた。

 

『大木まで残り5秒。5、4、3、2、1』

「解!」

 

 樹が唱えると、伊織を囲っていた結界が割れ、私とみやびは左右へ思いっきり跳躍。大蛇の眼前には抜刀の構えに入っている伊織の姿が映った。大蛇は急に止まることができないのかそのまま大木の方へ突っ込む。それを躱し、伊織が抜刀。地面を思いっきり蹴り、青白に染まった刀身で、大蛇の胴体を真っ二つに両断した。

 瞬間、大蛇の悲鳴が結界内に響き渡る。

 

「やったか⁉」

「いや、まだよ!」

 

 未来視で視えたのか伊予が叫んだ。祟核の完全破壊には至っておらず、今にも大木から抜け出そうと身体をくねらせている。伊織の方を見るが、力を使い切ったのかだいぶ消耗している。私は即座に仕留めるため、刀身に最大限の祓力を流し込み、大蛇に向かって駆け出す。


「これでトドメだ……!」

 

 大蛇が抜け出そうとしている隙を狙って、左足で踏み込み、祟核目掛けて刀を突き刺した。瞬間、祟核にヒビが入って割れるような音が聞こえたかと思うと、大蛇が光出しそのまま消滅した。

 

「……復活の兆候なし。完全に消滅したわ」

「お疲れさん。伊織もよくやったな」

「は、はい。最終的には秋葉さんに助けられましたけどね」

「何はともあれ、大蛇を祓えて良かったよ」

「だな」


 私は憑依状態を解除。大蛇を倒し終わってみんな満身創痍の状態になっていると、大原野神社所属の代報者たちがやってきた。彼らに事情を話して、祠の修繕や後始末をしてくれることに。

 私たちはお礼を言って、その場を退散しようとする。と、ミツキから念話が飛んできた。

 

『祓い終わったところすまねぇが、今すぐこっちに来てくれ。大変な事態になった』

 

 私たちはその言葉を耳にすると、急いで月読大社へと急いだ。


 


 ――――――――――――

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