第2社 祠が守っていたもの

 月読大社から歩いて1時間のところにその祠はあった。壊される前はオンボロながらもきちんと手入れもされていただろうに、あの野郎どものせいで、今では無残にも祠の側面に穴が空いている状態だった。

 

「側面が陥没してるわね。どんだけ勢いつけて飛び蹴りしたのよ彼奴ら」

「こりゃ酷い……。これ、御神体もやられてないか?」

「うわっ、ホントだ……」

 

 見てみたら、祠の中に入っている御神体である御幣ごへいも見事に破壊されてしまっている。これはまずい。何なら祠が破壊されるよりもヤバい。

 と、祠の裏側に回り込んで損壊状況を確認していたみやびと伊織が声を上げた。

 

「こ、この祠の管轄がどこの神社なのか調べてみたのですが……」

「大原野神社って書いてあったよ」

「う、嘘だろ……」

「い、樹……さん?」


 大原野神社とみやびの口から出た瞬間、樹の表情がみるみるうちに真っ青になっていった。これは何か心当たりでもあるのかな? いや、心当たりしかないような顔だな。樹に詳しく訊いてみる。すると、衝撃の事実が明らかになった。


「お前らなら知ってるとは思うが、大原野神社の御祭神がかの建御雷命タケミカヅチノミコトでな。しかも、春日大社の系譜と来てる」

「あー……」

「薫がここに居なくて良かった……」

「それは本当にそう」

 

 この場にいる全員が頭を抱える状況となってしまった。

 私のクラスメイトで友人の龍月薫りゅうげつかおるは、樹の幼馴染であり、実家が春日大社なのだ。そして大原野神社は春日大社の御祭神である建御雷命の分霊を祀っている。

 今、みやびの方から大原野神社の宮司に確認を取ってもらっているが、それはこの祠もそうだろう。

 少し離れたところに移動していたみやびが戻ってきた。

 

「確認取ってみたけど、やっぱりこの祠は建御雷命が祀られているようだね。で、大原野神社の方々が大騒ぎしてる」

「後は、この祠が何を守っていたのかだよね……」


 私たちは全員、目の前の大きな池の方に視線を向ける。この池と建御雷命の神格。そして壊された祠。この3つから導き出される答え、それは――


「――来る……!」


 池の方から地鳴りが聞こえてきて、池の周辺が揺れ始める。そう、地震だ。建御雷は地震の神様で古来より地震を鎮めてきた。そして、この祠が壊された今、それは効力を失っている。

 池の方を注視していると、どんどん禍々しい気配がこちらへやってくる。

 私は即座に祓式――自創作のキャラクターを自らの身体に憑依させる能力――『紅桜べにざくら』を憑依させる。と、白の半袖カッターシャツと紺袴、紺羽織の制服から桜と紅葉の柄の朱い着物に紺袴、下駄という服装に変わった。腰に差している日本刀の鯉口に人差し指を当て、すぐに動けるようにしておく。

 樹の方もここら一帯に結界を貼っており、この場にいる各々がいつでも応戦できるように構えていた。

 すると、池の水面に波が立ち、そこから全長7メートルはあるであろう巨大な大蛇が出てきて私たちの方に取っ込んでくる。瞬間、その場にいる全員が離脱。大蛇から距離を取った。

 

『これ、階級はどのぐらいなんでしょう……』

『少なくともさんはいってるでしょうね』

 

 今、目の前にいる大蛇を含めた祟魔すいまにはそれぞれ階級があり、下から拙級せっきゅうこうきゅうれっきゅう惨級さんきゅう凶級きょうきゅう果ては特級とっきゅうまである。この大蛇は惨級――つまり下から4つ目なのだが、私たち1年生は全員が巫級ふきゅう代報者で、惨級相手にはちょっと厳しい階級なのだ。


「次来るぞ!」

 

 大蛇からの攻撃を避けつつ、みんなちょくちょく応戦し始める。私も置いて行かれるわけにはいかない。地面を蹴り、大蛇の方へ急接近、鯉口を切って『紅桜』の能力である桜の花弁を刀に纏わせ、大蛇の尻尾部分に斬撃を入れる。

 と、大蛇の尻尾が分断されたかに思えたが、斬撃を入れた部分から再生されていく。

 

「そんなのありかよ⁉」

「ま、まぁ、蛇は再生の象徴として有名ですからねッ!」

 

 私が後退した隙に伊織が前へ出て、祓式である――月のエネルギーを力に変える能力――三日月の斬撃を放った。が、すんでのところで避けられてしまう。

 大蛇の動き方って読めないから、斬撃飛ばしても当たらないんだよね……。


「二人とも、後ろだ!」

「っ!」


 樹に指摘され後ろを振り向くと、中ぐらいの蛇が嚙みつこうとしてきた。即座に跳躍、何とか攻撃を避ける。行き場を失った蛇は樹の結界を圧縮させた弾丸によって、祟核を突かれ、そのまま消滅した。再生の次は分身らしい。これは相当厄介な敵だ。

 伊予の銃弾やみやびの祓式である藤の花弁で大蛇本体に攻撃を仕掛けているが、当たっても次第に再生していき、キリがない。

 

 かれこれ10分ほど戦っているが、蛇の巧みな回避と再生により、未だに大きなダメージは与えられていない。祟魔にとって弱点とも呼べる祟核を破壊しようにも、当たらないんじゃ意味がない。

 どうするべきかと焦りながらも、攻撃に特化した桜で敵を斬りつけ、防衛に特化した紅葉でなんとかこちらの損害を回避。していたら、私と隣で同じく応戦していたみやびの方目掛けて突進してきた。咄嗟に逃げるが、大蛇はめげずにこちらを狙って水を放射してくる。

 

「いや、なんでこっちくんの⁉」

「とにかく逃げるしかないみたいだね」

 

 みやびは余裕そうなのか何なのかいまいち判断がつかない笑みを浮かべながら私の隣を走る。

 

「なんでこの状況で笑ってんだよ……⁉」


 そう私の叫び声が結界内に響き渡るのだった。



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