第1社 頭はミジンコ以下

「え、子供ってマジ? いや、ウケるんですけど」

「それな」

 

 京都市内の某ファミレス店のソファ席に座っている目の前の20代前半の男――動画配信者のイケさんはうざったい表情で笑いながらそう言った。その隣の同じく20代前半の男――マルさんもそれにノるような形で反応した。

 

「……はっ?」

 

 私はイケさんの発言を耳にして、呆然とした表情を浮かべる。

 

『え、殴って良い? 良いよね⁉』

『もう帰りたいのだけど……』

 

 私と伊予が祓力ふりょくを使って念話でそう話す。念話は頭で念じて会話をするため、今話していることは目の前の男たち――今回の依頼者にはバレていない。と、隣に座っていた樹がすかさず反応した。

 

『落ち着け秋葉、相手は動画配信者だぞ。下手に手を出したらこっちが訴えられかねん。後、頼むから伊予も帰らないでくれ。常識人枠が俺1人になるから!』

『……冗談よ。で、これどうするの? かなりヤバめの奴が憑いてるんだけど……』


 2人が今回の依頼者なのだが、これがまた腹の立つ野郎どもだった。如何せんイケさんの方はチャラいし今すぐぶっ飛ばしたいし、マルさんの方はイケさんに合わせてるのか、注意もせずにイケさんに便乗した言動ばかりしている。

 そして、目の前に座っているイケさんにはこっちが吐きそうになるぐらいの怨念が憑いている。まだ、マルさんの方はその3分の2程度なのだが、正直言って一刻も早くこの場から離れたい。

 織部先生から依頼内容を聞いたのだが、正気か? と、みんな口揃えて言ったぐらいには事のあらましは酷かった。


「ひ、ひとまず依頼内容の確認から始めさせていただきますね」

「お願いしやーす」

「事の発端は3日前の午前1時。貴方がた2人は動画配信のために京都市西京区某所の沼地へ行ったそうですね」

「そうそう! あそこ心霊スポットで有名で。ロケしたら撮れ高上がるンだよ」

「で、その配信中に祠を見つけたと」

「いやさ? 最近撮れ高が減少してて。それで試しに祠壊したらウケるんじゃね? って思ってさァ。案外ボロかったから飛び蹴りカマしたら余裕で壊れたンだよ。そしたら、その翌日から俺と一緒に撮影してたマルも体調悪くなって、立つのもやっとで、これヤバいんじゃね? ってなって依頼した感じ」

「な、なるほど……」

 

 残念ながら、概ね先生から聞いた経緯と合ってる……。えぇ、こんなのこの2人の自業自得じゃん。

 てか、ボロかったから壊せるんじゃって思って、飛び蹴りカマましたの? は? 普通そんなことしないよ? え、頭幼稚園児? いや、幼稚園児でもこんなことしないわ。せめてミジンコ以下……これもミジンコに失礼だな。もう何でも良いや。この人らがクズだってことがよぉく分かった。

 にしても、なんでこっちが対処しないといけないわけ? マジで放棄したい、今すぐ和気あいあいとした平和な山鉾造りに戻りたい……。でも、先生に奢って貰えないし、依頼料も入って来ないのは嫌だ。

 と、ここでイケさんが話を切り出してきた。

 

「で、これから俺らどうすりゃ良いわけ? てか、どうなるの?」

「早めに対処してもらわないと、僕たち明後日には仕事が入ってるんで」

「そんなに気になるなら、私が占ってあげましょう」

「え、マジ? できんの? どうやんのどうやんの⁉ てか、撮って良い?」

 伊予がそう言い、懐からトランプを取り出す。すると、イケが小さいカメラを鞄から取り出して、伊予へ言い寄ってきた。だが、それを許すはずもなく、伊予はにっこりと満面の笑みを浮かべてこう言った。

「集中したいので、黙っててもらえます? 後、撮影は控えてくださいね」

 

 伊予にそう言われ、スンっと黙るイケさんとマルさん。

 目が笑ってない……。これはガチのやつだ。というかそんな状況にまでなって撮りたいとか言い出す神経がヤバい。

 伊予の方に視線を向けると、一枚のトランプを持って、かなり集中した様子で目を瞑っている。

 伊予の祓式は未来視。前に私も一度やってもらったことがあるのだが、トランプに祓力を送り込むと、占ったその人の未来が視えるらしい。ちなみに、私や樹などの未来視を持っていない人が見てもただのトランプにしか見えなかった。私たちは占いの結果を静かに待つ。

 

「視えたわ」

「ど、どんな感じ?」

「……あなたたち、このままだと明日には死ぬわよ」

「ま、マジかよ……」

「う、嘘だ。そんなことあるわけ」

「言っておくけど、私の占いは今まで一度も外れたことが無いの。つまりはそういうことよ。できる限りこちらで対処はするけど、結果がどうなるかはあなたたちの行動次第ね」

 

 伊予の言っていることは事実。その未来視は必ずと言って良いほど当たる。実際に私の場合も占ってもらった通りの結果が起きた。あの時はそんな運命を左右するようなものではなかったけど、今回は違う。

 となれば、私たちは依頼人を守り、死の淵から救わなければならない。ほんの軽い気持ちで受けてしまったけど、これは大事になるかもしれない。

 

『取り敢えず、お祓いした方が良さそうではあるね。このままここに居座り続けたら、周りの人たちにも影響が出かねない』

『それはそうですね……。いくら周囲に結界を貼ってあるとはいえ、流石に長居は禁物です』

 

 みやびと伊織が念話で話しているのを耳にする。確かに2人の言う通りだ。下手したら周囲の人間まで巻き込みかねない。一応、結界術の祓式を保有している樹に貼ってもらってはいるけど、それにも限度がある。そろそろ移動しないと駄目だろう。

 

『とは言っても、どこに移動する気?』

『それでしたら、僕のところの神社はどうでしょう? 祠からも1時間程度で行けますし』

『だったら悪いけど、そうするしかなさそうね』

 

 そうと決まると、伊織は実家の方に念話を飛ばして、受け入れ態勢を作るようにお願いし出した。その間にイケさんとマルさんへこれからのことを話しておく。

 

「ここに長居するのもあれなので、一度お祓いも兼ねて神社の方に移動しましょうか。今晩もそこに泊まっていただきます」

「え、今から行く感じ?」

「泊まる準備とか何にもしてないんだけどな……」

「そこに関しては問題ないですよ。宿泊道具は一通りこちらでそろえておきますので」

 

 念話を終えたのか、伊織がそう話した。

 マジで急すぎるお願いに対応してくれてありがとうございますって感じだな。あっちも日々の業務で大変だろうに……。神社に着いたらお礼言っとこう。

 

「お、助かる~! あんがとね~」

「ちな、神社って何神社? 良かったら撮らせてもらえないかな?」

月読大社つくよみたいしゃというところです。僕の実家がそこでして。ここからだと一時間半程度で着きますよ」

「おぉ、マジか。てか聞いたことないな。ツキヨミ大社だっけ?」

「……いえ、ツクヨミです。よ、よく間違えられるんですよね……」

 

 おっと、伊織がキレかけている……。それは相当珍しい事態だ。でも、撮影許可なんて取ってる暇あるんなら、さっさと除霊した方が良いんじゃないの? 本当、どんだけ撮れ高が欲しいんだか……。

 あまり長居するわけにも行かないので、ここいらでファミレスからお暇する。


 電車と徒歩で1時間半。月読大社に到着した私たち5人は、真っ先に月読大社の宮司さんと権宮司さんへ謝罪とお礼をしに行った。伊織のご両親は非常に優しかったので、怒られるということもなく、お祓いが始まった。

 それが終わると夕食を食べて、イケさんとマルさんが泊まる部屋へ案内する。

 

「私たちはこれから祠の様子を確認しに外へ出ます。ですが、今晩は何が起きようとも部屋の外へは出ないでくださいね」

「何かあったら私の両親にお声掛けください。でき得る限りの対応は致しますので。それでは」

「あざした~」

「おやすみ~」

 

 私と伊織で部屋の襖を閉め、そこに外からの侵入を防ぐ結界を貼る。結界を貼り終えると、母屋の方に居る樹たちと合流した。


「お疲れさん」

「樹さんこそ、結界の整備お疲れ様です」

「良いって。このぐらいはさせてくれ。こっちは居座らせてもらう側なんだからな」

「はぁ……やっとあのウザい2人から離れられる……」

 

 私は思いっきり伸びをする。と、伊予とみやびが今後の予定を確認しようと言い出した。私たちはその場で最終調整を行う。各々の武器には認識阻害の札を貼っているので、一般人から見えることはない。

 一通り調整を終えたところで、伊織がボソッと何かを口にすると、宙から白と藍色のうみねこが現れ、伊織の方へ降り立った。

 みやびが興味深そうな表情で伊織に問いかける。

 

「そのうみねこは?」

「僕の祓式の一部です。名をミツキと言います」

「よろしくねミツキ」

「あぁ。うちの伊織がいつも世話になってるぜ」

 

 みやびに向かってミツキが喋った。うちのマスコットのエルと同じで喋れるんだ。なんか結構な比率でみんな式神というか神獣持ってるよね。私の場合は持ってるんじゃなくて、居座ってるんだけどさ。

 

「ミツキにはあの方たちの守りと監視をお願いしようかと思ってます」

「こんな姿だけど舐めてもらっちゃ困るぜ。攻守ともに優秀だから、あいつ等のことはこのオレに任せときな」

「それじゃあよろしくお願いしますよミツキ」

「あぁ。そっちも気を付けてな」

 

 私たちはミツキと別れると、鳥居の方へ歩き出すのだった。



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