【番外編】天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~

桜月零歌

File1 祠の破壊者

プロローグ はた迷惑な依頼者

 ──ここは『噂や伝承が具現化する世界』。

 人智を超えたものはその力によって具現化され、現世へ現界する。


 そして、その力により世界には古来より"祟魔すいま"と呼ばれる妖魔奇怪が蔓延っていた。


 それらを祓うのは、"代報者だいほうしゃ"と呼ばれる神に使える者たち。かの陰陽師・安倍晴明や邪馬台国の女王であり巫女であったとされる卑弥呼もその1人。そして、今日その役目は神に仕える神職たちにあった。


 彼らは現世に干渉することのできない天界に住まう神達に代わって、森羅万象を見通す目"霊眼れいがん"、浄化作用を有する"祓力ふりょく"、浄化作用を有する異能力・"祓式ふしき"と呼ばれる力を使い、日夜祟魔を祓っていく。


 そして、7月上旬のある日、代報者の1人であり、代報者を育成する大神学園1年生である北桜秋葉ほくおうあきはとその一行はとある依頼を受けることとなる。

 

 ◇◆◇◆


 7月上旬・京都市内某所。私たち大神学園1年生は来たる7月中旬に行われる祇園祭の準備に追われていた。のだが、突如として私の担任である織部信武おりべしのぶに呼び出しを喰らって大神学園へ戻ってくる羽目になった。

 せっかく暑い中、山鉾造りの手伝いしてたってのに、なんで戻ってこないといけないんだろ……。

 

 集合場所である1年A組の教室へ到着すると、中には織部先生の他にも4人のクラスメイトがいた。どうやら人数的に私が1番最後に着いたらしい。

 

「で、こんなクソ忙しいときに何ですか?」

「おぉ、すまんな秋葉。実は緊急の依頼がついさっき神社省の方から来てな。人命がかかっとるから早急に対処してほしいらしいんや」

 

 神社省とは私たち代報者をサポートする役目を担っている。そこでは一般人からの依頼も受け付けており、依頼は受注された大神学園を筆頭に各代報者へ分配されるのだ。そして、今回選ばれたのが私含めて5人ということか。

 ……ん?

 

「なんで4人じゃなくて5人?」

「確かに。基本的に1年生はフォーマンセルでそこに先生が引率でつくことになってるはずだけど……」

 

 私の隣に立っている翠眼に焦げ茶の短髪の青年――神城樹しんじょういつきも指摘する。すると、織部先生は軽く頭を掻いてこう言った。

 

「ほら、今は祇園祭の最中でどこも手が空いてへんし、俺ら教職員と上級生も忙しいからな。抜けてもそんな影響が出えへん君ら1年生が選ばれたんや」

 

 ははっ、出たよ。1年生だからって面倒ごと押し付けてくるやつ。まぁ、先生が言うように私らじゃ祇園祭の勝手が分からないから回されたんだろうけどさ……。抜けても影響が出ないってそれはね……。

 内心で毒ついていたら、長い金髪をハーフアップで結んだ碧眼の少女――成瀬伊予なるせいよが口を開いた。

 

「ふーん、なら私たちは別に大して戦力にもならないひよっこってことかしら?」

「そこまで言うてへんやろ。今回に関しては圧倒的人手不足やししゃーない。まぁ、任務が成功したあかつきには、依頼料とは別に何でも好きなん奢ってやるさかい」

「え、マジで言ってます⁉ なら、やっても良いですよ」

「って、勝手に決めるな! 俺は別に構わないけど、他の3人の意見も聞いた方が良いんじゃないか?」

「それはそうだね。ごめん勝手に」

 

 後ろを振り向くと、伊予の他にもう2人。藍色の長髪を下の方で縛っていて、山吹色の眼をしている暗い雰囲気の青年――十六夜伊織いざよいいおりと、翠眼に短めの紫髪で右目が前髪で隠れているミステリアスな青年――藤森ふじもりみやびがいた。

 

「私も別に引き受けて良いわよ。その代わり先生にはきちんと奢ってもらうからね」

「ぼ、僕も大丈夫です……」

「僕の方も引き受けて構わないよ」

「よし!」

 

 全員の許可が得られたところで、私はガッツポーズを決める。せっかく奢って貰えるんだからやらないわけにはいかないでしょ。再び、織部先生の方を振り向くと口の端を引き攣らせた先生がいた。

 ふふふっ、何でもって先生言いましたよね? 約束はちゃんと守って貰いますよ。

 

 

「どんだけ奢ってほしいやこいつら……。まぁ、ええわ。引き受けてくれるんならそれ相応の代価を与えへんとな。神さんに顔向けできひんし」

「それで、肝心の依頼内容ってのは何なんですか?」

「あー、それがな……」

 

 織部先生は私たちの方から視線を逸らして、頬を掻き始めた。もしや、先生がどもる程のヤバい依頼なの? 緊張した面持ちで先生が続きを話し出すのを待つ。


「……簡単に言うたら、祠を壊してしもたから何とかしてほしいって依頼や」

「「「「「はぁあああー⁉」」」」」

 

 私と樹、伊予は勿論、あの普段から大人しいみやびと伊織までもが一斉に有り得ないという表情で叫んだ。その声は教室全体を突き抜けて、私たちがいるフロア全体に響き渡るほどの声量だった。


 

「いや、馬鹿なの⁉ 祠壊すとか有り得ないんですけど!」

「さ、流石にそれはちょっと……」

「引き受けといてなんだけど、辞退しても良いか?」

「そうよそうよ。そんな馬鹿なやつを救ってあげられるほどこっちは暇じゃないの」

「今回ばかりは僕もちょっとね……」


 私たち代報者――つまり神職にとって、祠は神の住まう場所も同然。それを壊したとなればそう反応せざるを得ない。

 マジで何やってんの……。え、てか、逆に聞きたいわ。どうやったら壊れるの? てか、祠壊すなんて並大抵の人間じゃ無理だよ? ねぇ、どんだけ馬鹿力なの??

 

「悪いけど、それは駄目やな。もう依頼内容話してしもたし……。まぁ、取り敢えず詳しいこと話すから聞いてくれへんか?」

「は、はい……」


 先生からそう言われると、みんな揃って適当に椅子を引っ張り出して座った。



――――――――――――

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