第3話 黄色いお化け(3、黄色いお化け)


深夜。

寝ていると、ザクザクと土を掘っているような音がして目が覚めた。土があるのは、庭だけだ。叔父さんは仕事でいない。僕は半分寝ぼけたまま、窓からそっと庭を見下ろした。すると、黄色いヘルメットを被った黄色い作業着姿の男性が一人、黙々と庭の真ん中を掘り進めているのが見える。一気に目が覚めた。情報が多すぎる。

工事?作業?こんな時間に?叔父さんが呼んだのだろうか。僕は窓から静かに離れて、叔父さんに電話してみる。仕事中のはずだけど、直ぐ出てくれた。

“こんな時間にどうした?”

「仕事中にすみません。庭で工事してるみたいなんですけど、叔父さんが呼んだんですか?」

“は?工事?”

気の抜けた声が返って来て、ゾクリと背が冷える。知らないのだろうか。

“……もうちょい詳しく頼む”

僕は窓からこっそりと庭を見下ろしながら、今起きていることを説明した。

“ふうん。工事なんて知らねぇな。仮に何か作業頼んだとして、こんな時間にさせねぇよ”

最後まで話を聞いてくれた後で、叔父さんはいつもの調子で言う。ごもっともだ。

「僕が寝ぼけてるだけなんでしょうか」

今見ているものに対して、自信が無くなって来た。

“んや?土掘ってる音は、こっちにもかすかに聞こえてる。作業着の男一人か?”

「そうです。ずっと掘ってますね」

作業着の背を見ていたら、音が不意に止んだ。頭が、こちらへ振り向くように動き出す。ドキリとして、その場に伏せる。見つかってない、と思うけど。

“どうした?”

「こっちを向きそうだったので、隠れたというか、」

“あ、そ。もう庭は見るな。万寿がいるから、部屋から出なきゃ大丈夫だろ”

聞いてる内に、また音が再開する。そうだ。

「今更ですけど、警察呼びますか?」

叔父さんは少し黙った後、くつくつと笑った。

“無駄足になるから止めとけ”

「どういう意味ですか」

“今な、土掘ってる音と一緒に「埋める埋める埋める」って声してるから。旭、聞こえるか?”

身体中が冷える感覚になる。そんな声、聞こえない。

「……いいえ」

答えると、叔父さんは面白そうに笑う。笑うところじゃない。

“そういうことだ。庭はもう見るな、部屋も出るなよ”

「分かりました」

叔父さんはまた笑うと、通話を切った。僕には何の声も聞こえない。不安だったから叔父さんに連絡したのに、怖さが増しただけだった。

結局、僕は朝まで眠れなかった。明るくなるまで、土を掘る音は聞こえ続けたのだ。

いつもより早く帰って来てくれた叔父さんが庭に来た頃には、作業着の男性は居なくなっていた。ずっと起きていたけど、庭を歩くような音は一切しなかった。それに気付き、また身体中が冷えるような感覚になる。そういうこと、なのだ。

「掘りっぱなしかよ。埋められなかったんなら、戻していけよな」

ぼやく叔父さんの足元には、深い穴が掘られていた。何者かが、本当に穴を掘って、何かを埋めようとしていたのだ。夢ではなかった。

「……理不尽」

呟いたら、叔父さんがゲラゲラと笑いだす。

「まったくだ」










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ごちゃ混ぜハロウィン 宵待昴 @subaru59

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