第2話 青いお化け(2、青いお化け)


いつもの佐和商店。

夜。無事に閉店して仕事も終わり、榊さんとさて帰ろうと支度していた時。

「おい……」

榊さんが、入口のガラス戸を見て絶句していた。見れば、青い人影が一つ?張り付いている。手足があり得ない方向にぐにゃりと曲がった状態で、まあ、人じゃないなというのが直ぐ分かった。

「何で帰ろうとする時に限って出るんだよ……」

「……裏から出ましょうか」

静かになりかけていた倉庫からのラップ音も、また活発になり始めている。裏口に回ったが、そこにも青い人影が張り付いていた。榊さんが、露骨に嫌そうな顔をする。

「どうなってんだよ」

「外に出て、何体もいたら、嫌ですね」

嫌な想像をしてしまった私に、榊さんも頷く。

「最悪強行突破だろうが、少し様子見るか」

入口の方に戻り、二人で遠巻きに青い人影を見る。ただ張り付いているだけのようにも見えた。見ている内、手がガラスから離れてゆらゆら揺れる。

「……青いモノ、チョーダイ」

ドア越しに、確かにそう聞こえた。榊さんと顔を見合わせる。

「聞こえました?」

「聞こえた。青いモノちょうだいって言ったよな」

頷いたところで、また声。

「青いモノ、チョーダイ」

ガラス戸の向こうで、いつの間にか青い両手が揺れていた。いつまでも帰れないのも、困る。

「……渡してみましょうか」

「何でそんなに勇ましいんだ……すみちゃんがやるのは、ダメだからな」

榊さんはため息をつくと、カウンターの中に飾ってある生花の桔梗を持って来た。店長の吉瑞さんが飾ったもの。榊さんは、いつもの調子でドアまで歩いて行くと、薄く片面のガラス戸を開いて桔梗の花を外へ放る。それが見えたのか、青い人影は、急にガラス戸から離れると、桔梗の花に飛び付いた。

バリバリと音を立て、桔梗は青い人影に飲み込まれて行く。血の気が引いた。榊さんがガラス戸を注視しながら、静かに戻って来る。

「すげー音」

青い人影は何事も無かったように揺らめくと、姿を消した。桔梗は、どこにもない。私と榊さんは、同時に息を吐き出す。得体が知れないモノは、やっぱり怖いし、疲れる。

裏口にいた方にも同じことをしたら、消え去った。

恐る恐る外に出たけど、他に青い人影は無い。二人で急いで帰った。

次の日、桔梗は!?と吉瑞さんに聞かれた榊さんが、げっそりした顔で、尊い犠牲になった、と答えてたから、私はそっと手を合わせておいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る