ごちゃ混ぜハロウィン

宵待昴

第1話 赤いお化け(1、赤いお化け)


すっかり夜になった頃。

帰り道の歩道を歩いていた。僕の他にも、前方に通行人が何人かいる。しばらく歩いていると、前方から短い悲鳴が聞こえた。立ち止まり、声の方を向く。僕より十メートル程先を歩いていた一人のサラリーマンも、僕と同様困惑した様子で前を見ている。また、悲鳴が聞こえた。ただ事では無い気がして、身体が強張る。目を凝らしてその悲鳴の方を見ると、赤い何かが、ゆらゆら揺れながらこちらへやって来ていた。一枚の赤い布、にしか見えない。それが、通行人の女性一人に被さる。悲鳴が上がったと思ったら、その女性は消えてしまった。誰もいなくなった空間で、赤い布はふわりと揺れ、またこちらへやって来る。マジックみたいだ。

「何だ?あれ」

困惑していたサラリーマンが、赤い布に近付いて行く。思わず、止めようと足を踏み出したところで、彼も赤い布に消されてしまった。もう、誰もいない。赤い布が、ゆらゆら揺れている。次は、僕の番だ。背筋が冷える。どうしようもなく、怖くなった。これは一体、どうなっているんだろう。

後退りしかけて、不意に後ろから口を塞がれた。視界が真っ赤になり、強く後ろへ引き寄せられる。これは。身体が固まった。でも、一拍くらいおいて我に返り、口を塞いでいるものに触れた。手だ。耳元でささやき声がする。

「俺だ、俺」

弥命叔父さん?混乱してる間に、まだ声は続く。

「大丈夫だ。声出すなよ。動くな」

黙って頷いた。何が大丈夫なのか、分かってないけど。真っ赤で大きい布を、僕と叔父さんで被っている状態みたいだ。僕らの目の前を、あの赤い布がゆらゆら揺れている。被っている布の隙間からそれが見えて、怖さが蘇った。固まっている内、揺れていた赤い布はいなくなる。それからたっぷり時間をおいて、叔父さんは僕から手を離し、布を取る。飛んでいた赤い布は、もうどこにも居ない。

「……あれ、何ですか」

「知らん。でも確実に、関わらん方が良いタイプのヤツだな」

それは分かる。流石に。

「その赤い布、どうしたんですか?」

「ハロウィンの装飾用。店のな」

そう言う叔父さんに、意外な気になった。イベント事には乗らなさそうなのに。叔父さんは僕の顔を見て、怠そうに息をつく。

「常連連中が、やれってうるせーからな。ま、別の用途で役に立ったが」

叔父さんは笑って、また僕に赤い布を被せる。

「んな不安なら、被っとけ」

「叔父さんは。さっきの人たちみたいに消えたら、困りますよ、僕」

見上げると、叔父さんは目を丸くした。

「本当にまた出たら、被るさ。さっきみたいに。それに」

叔父さんは、進行方向を見据みすえて呟く。

「消えたヤツらも、実際本当に人間か分からんしな」

「え。それって、どういうーー」

叔父さんは笑ったまま、答えずに歩き出す。叩き落とすのはやめてほしい。僕も急いで、足を踏み出す。


幸い、赤い布にはもう出会わず家に帰り着いた。

でも、しばらく帰り道がとてつもなく怖くなった。

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