魔女と羊
幼馴染
ボクはお昼を食べる時、教室で食べている。
理由は他の二人と食べるからだ。
でも、今日は二人ともご主人様に呼ばれていない。
「うわ、寂しー」
「せ、セリカちゃん……」
金髪ロングのギャル。
派手なメイクと、毛先がくるっとなっている特徴。
そこに加えて、分け隔てない接し方。
幼馴染のセリカちゃんが、ボクの席の横に立った。
近くの椅子を引っ張って、弁当箱をボクの机に置く。
「ん。寝ぐせ」
前髪を摘ままれた。
セリカちゃんは、持参した弁当箱を広げ、「いただきます」と箸を持つ。ギャルで料理ができるとか、本当に素敵な幼馴染だった。
弁当は自分で作らなければならず、男子の場合は家庭科室を使わせてもらっている。女子は寮で作るらしいが、ボクの暗黒物質と比べれば、セリカちゃんの食べている弁当は美味しそうだ。
「調子どう?」
「酷いよ」
「でしょうね」
何だか、知っていたような口ぶりだ。
「米良先輩、怖いんだって」
「誰から聞いたの?」
「ん、先輩。アンタが心配だから聞いてみた」
この学校で唯一優しくしてくれる存在がギャル。
事実は小説より奇なり、ってやつだ。
「なんかさ。去年、男子のこと、病院送りにしたらしいよ」
「……えぇ」
「屋上からさ。男子が落ちて、ん、……これ……まず」
「ぼ、ボクにちょうだいよ」
ブロッコリー嫌いなのに、何で入れてるんだろう。
箸で摘まみ、代わりにボクが食べた。
「病院だって」
「普通は死ぬよ」
「や、だからさ。それ、おかしーな、って聞いたんだけど。下にマット敷いてたらしいよ」
偶然、そこにあるものじゃない。
意図して置かれたものだと気づいた。
セリカちゃんが、可愛らしく口を動かし、話を続けた。
「現場に居合わせた先輩がいてー、屋上に米良先輩がいたんだって」
あの人、男と話したことがないって言ってたよな。
あの話は嘘だったのか。
でも、――何で?
疑問が次々と浮かび、ボクは箸が止まった。
「首輪されてないみたいだし。よかったじゃん」
「首輪……。そういえば……」
山田君と林田君は、登校前に首輪を着用していた。
先輩達もだ。
ボクだけは、首輪を持っていないので着用していない。
「首筋に電流が流れるらしいから、気を付けた方がいいよ」
「ねえ。狂ってるよ、この学校」
セリカちゃんは箸を咥え、「まあね」と言った。
女子と会話して落ち着く瞬間があるとは思わなかったけど。
持つべきは幼馴染だ。
それに比べて、周りの女子はボクがセリカちゃんとご飯を食べているだけで、「なに、あいつ?」という目を向けてきた。
なんなら、「やっちゃう?」とかアイコンタクトをしてきた。
やべぇ、と思いながら見てると、「GO」と首でボクを差し、数人の女子が近づいてくる。
「うわ、本当にきた」
「ねえ。二人とも。ウチらもいい?」
「……いいけど。イジメないでね」
「ウチらが、イジメるわけないじゃん」
絡んできた女子の中には、見覚えのあるショートカットの子がいた。
その子だけ、ボクの後ろに回って、首を抱きしめてくる。
後頭部に何か柔らかいものが当たって、ボクは静かに目を閉じた。
「ねえ、ケイタくんさぁ。な~んで、あの時来なかったの?」
ヒソヒソと耳元で囁かれ、ボクは奥歯を噛んだ。
吐息が耳たぶをくすぐって、変な声を上げそうになったが、セリカちゃんがジロっとした目を向けてきたので、ぐっと堪える。
「奉仕に……行ってました……」
「んなもン、サボればいいじゃん」
「む、無理っスよ。あと、恐縮ですが……お名前聞いても?」
横からを顔を覗き込んできて、彼女は名乗った。
「白河アカネ。覚えておいてね。……ていうか、オリエンテーションの時に自己紹介したはずなんだけど……」
「こいつ、頭悪いから。期待しない方がいいよ」
セリカちゃんがキツい言葉でボクを抉った。
黒髪ボブショートの子は、白河アカネというらしい。
いちいち、フローラルな香りがするし、ボクはご飯を食べるどころじゃなかった。
「何の話してたの?」
「こいつが、米良先輩の下僕やってんの」
「あー、サイコ先輩?」
「サイコって……」
「や、結構、マジにヤバいらしいからさ。裏垢とかで、誹謗中傷しまくってるとか、色々言われてるのよ」
あの人、あのなりで裏垢持ってんのか。
人は見かけによらないっていうけど、本当の事だった。
「あと、なんだっけ。生徒会長に楯突いたんだよね」
「そー、そー。それ聞いたー」
白河さんも同調した。
「生徒会長って……どんな人だっけ」
「本当に何も知らないねー。……えいっ」
ぎゅむ。
ほっぺを抓られ、ボクは全身が跳ねた。
こんな甘酸っぱい瞬間を味わうとは思ってもみなかった。
出会い頭は、カツアゲでもしそうな雰囲気があったから怯えた。
でも、実際は人懐っこいギャルだった。
「去年、男子生徒を公開処刑した人だよぉ」
「……おぉ……中世に転生したのかなぁ。おかしいなぁ」
ドン引きだった。
まさか、本当に殺したわけではないと思うけど。
この学校の事だから、やりかねなかった。
「去年は三年生って男子が多かったらしいんだけど。生徒会長が痴漢撲滅って感じでぇ、みんなの前で土下座させたの」
「全裸だっけ?」
「そー、そー。引くよねー」
なるほどね。
つまり、極度の男子嫌いの可能性が濃厚ってことか。
女子と話していると、思った以上に情報が集まってきた。
情報は、今後の処世術に使わせてもらおう。
「生徒会長の奉仕だけはやりたくないな」
ボクがそれを言うと、三人が顔を見合わせた。
「今って、……確か、あのマッチョの先輩じゃなかった?」
「何が?」
「生徒会長の奉仕してるの、二年の男子だった気がするけど。あれ、その話、寮で盛り上がってたよね」
「……へえ」
二年で、マッチョの先輩。
記憶が正しければ、男子でマッチョは緑川先輩しかいない。
何となく、先輩が取り乱した理由が分かってしまった。
魔女の教室 烏目 ヒツキ @hitsuki333
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