シンキロウ【BL/報われない】
ユラユラ揺れるシンキロウに彼を見つけた。
何処かであった気もするし、全く知らない気もする。
でも、何処か懐かしい気がして──────だから訊いてみた。
「ねえ」
そしたら彼は、可笑しそうに笑って告げた。
「いやいや、気の所為だよ」
照り付ける陽射しの中、目許を覆って訊ねると彼の口元はユルリと弧を描く。
「だって俺、アンタの事知らねーもん」
それから彼は『じゃあ』と手を振り去って行く。
熱くジリジリしたコンクリートから照り返す熱に汗がダラダラと流れ出た。
シンキロウの如く消えた彼は、あの日以来会うことは無かったけれど……。
それでも私は、今もこの季節になると彼を探してしまう。
ユラユラ揺れるシンキロウに、あの日の彼を見つける為に。
▼
シンキロウの向こう側、見覚えのある奴がいる。
俺はアイツを知っている。
だって何度も何度も巡り会うから。
ある時は、毎日遊んでいた友人だった。
ある時は、手を離すのすら躊躇うほどの恋人だった。
ある時は、互いに高め合える好敵手だった。
ある時は、離れていても一目で分かる兄弟だった。
でも、俺はアイツと会う事を避けていた。
嫌いなわけじゃない。
寧ろその真逆だ。
「ねぇ」
声を掛けてきたアイツを見つめた。
「君、何処かであったことあるかい?」
遠くを見つめる仕草で目許を手で覆い、アイツも此方を見つめている。
懐かしい眼差しにギュッと唇を噛み締めながら、無理矢理笑って嘘を吐く。
『気の所為だよ』って。
『アンタの事なんか知らない』って。
ほんとは全部知ってた癖に……。
あまり話すと辛くなるから、手を振ってその場を離れた。
立ち尽くすアイツの姿は、シンキロウでユラユラ揺れていた。
▼
シンキロウが見える時、必ず二人は巡り会う。
ユラユラ揺れるシンキロウの先、どちらともなく彼らは見つける。
二人は出逢うと必ず惹かれ合う。
友人だったり、恋人だったり、好敵手だったり、生き別れの兄弟だったり。
それが当たり前とばかりに、彼らは共にいた。
離れる事さえ惜しい程、彼らは互いに依存する。
しかし、彼らはすぐに離された。
友人だった時、我が身を投げ捨て事故に遭い死別。
恋人だった時、決められた縁談に成すすべ無く別れを告げ。
好敵手だった時、他者の罠に嵌められ消されてしまい。
生き別れの兄弟だった時、漸く逢えた矢先に病に蝕まれ、僅かな時間を隔離で過ごした。
巡り巡る輪廻の果て、何度も惹かれて離れ合う彼らは──────シンキロウの如く、幻な願いを紡いで巡る。
一人はもう一度を望み。
一人は近づく事さえ拒み続けて。
ユラユラ揺れるシンキロウの先。
ジリジリ暑い、陽射しの照る頃に。
「ねえ」
彼らは必ず、また出逢う。
終
BL短編集(裏) 冬生まれ @snowbirthday
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