シンキロウ【BL/報われない】

ユラユラ揺れるシンキロウに彼を見つけた。


何処かであった気もするし、全く知らない気もする。


でも、何処か懐かしい気がして──────だから訊いてみた。


「ねえ」


そしたら彼は、可笑しそうに笑って告げた。


「いやいや、気の所為だよ」


照り付ける陽射しの中、目許を覆って訊ねると彼の口元はユルリと弧を描く。


「だって俺、アンタの事知らねーもん」


それから彼は『じゃあ』と手を振り去って行く。


熱くジリジリしたコンクリートから照り返す熱に汗がダラダラと流れ出た。


シンキロウの如く消えた彼は、あの日以来会うことは無かったけれど……。


それでも私は、今もこの季節になると彼を探してしまう。


ユラユラ揺れるシンキロウに、あの日の彼を見つける為に。



シンキロウの向こう側、見覚えのある奴がいる。


俺はアイツを知っている。


だって何度も何度も巡り会うから。


ある時は、毎日遊んでいた友人だった。


ある時は、手を離すのすら躊躇うほどの恋人だった。


ある時は、互いに高め合える好敵手だった。


ある時は、離れていても一目で分かる兄弟だった。


でも、俺はアイツと会う事を避けていた。


嫌いなわけじゃない。


寧ろその真逆だ。


「ねぇ」


声を掛けてきたアイツを見つめた。


「君、何処かであったことあるかい?」


遠くを見つめる仕草で目許を手で覆い、アイツも此方を見つめている。


懐かしい眼差しにギュッと唇を噛み締めながら、無理矢理笑って嘘を吐く。


『気の所為だよ』って。


『アンタの事なんか知らない』って。


ほんとは全部知ってた癖に……。


あまり話すと辛くなるから、手を振ってその場を離れた。


立ち尽くすアイツの姿は、シンキロウでユラユラ揺れていた。



シンキロウが見える時、必ず二人は巡り会う。


ユラユラ揺れるシンキロウの先、どちらともなく彼らは見つける。


二人は出逢うと必ず惹かれ合う。


友人だったり、恋人だったり、好敵手だったり、生き別れの兄弟だったり。


それが当たり前とばかりに、彼らは共にいた。


離れる事さえ惜しい程、彼らは互いに依存する。


しかし、彼らはすぐに離された。


友人だった時、我が身を投げ捨て事故に遭い死別。


恋人だった時、決められた縁談に成すすべ無く別れを告げ。


好敵手だった時、他者の罠に嵌められ消されてしまい。


生き別れの兄弟だった時、漸く逢えた矢先に病に蝕まれ、僅かな時間を隔離で過ごした。


巡り巡る輪廻の果て、何度も惹かれて離れ合う彼らは──────シンキロウの如く、幻な願いを紡いで巡る。


一人はもう一度を望み。


一人は近づく事さえ拒み続けて。


ユラユラ揺れるシンキロウの先。


ジリジリ暑い、陽射しの照る頃に。


「ねえ」


彼らは必ず、また出逢う。





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BL短編集(裏) 冬生まれ @snowbirthday

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