不真面目な君と

えね

第1話(優等生視点)

この春高校2年生になった上杉 颯真うえすぎ そうまは、1年生の頃から学年トップの優等生。彼の真面目で温厚な性格から、クラスメートたちからの信頼が厚く、時期生徒会長候補とまで言われている。しかし、そんな颯真には一つだけ勉強以外に好奇心がそそられることがあった。それは、同じクラスのヤンキーである駒田 理久こまだ りくのことだ。


駒田理久は、学校中で恐れられている存在。常に数人の仲間を引き連れている。他校との喧嘩や、先生への態度などトラブルを起こすことも多い。颯真は理久のその姿を見て、いつも無意識に目でその姿を追いかけていた。理久の性格や行動などには、自分にはない魅力があったからだ。


春牡丹の匂いが感じられるある日、僕は学校の隅にある図書室で1人で勉強をしていた。今にも心臓の音が聞こえてきそうな静かな空間、その中で集中していると、誰かが僕の方に向かってくる。そして、聞き覚えのある大きな声がふと聞こえてきた。「おーい、上杉!また勉強か?」それは駒田くんの声だった。僕は驚いて顔を上げる。駒田くんが1人で図書室に入ってきたみたいだ。ヤンキーが1人で図書室、1人のはずなのに駒田くんの存在感は圧倒的だった。一気に周囲の視線が彼と僕に集まる。駒田くんが僕に話しかけてくるとは思わなかった。僕は予想外のことで動揺していた。注意する間もなく、駒田くんは僕にに近づいてきた。そして軽い挑発のように言う。「お前、いつも勉強ばっかりでつまんねーやつだな。たまには誰かと遊びに行けば?」僕は何故かイラッとして、少しだけ反論してしまった。「遊ぶことより、勉強もした方が有意義だと思...」そんな僕の言葉を駒田くんは遮った。「勉強だけじゃダメだろ。お前もたまには外に出て遊べよ?」恐る恐る僕は顔を上げる。そこにはいつも通り明るく笑っている駒田くんがいた。良かった、怒ってはいなかったようだった。そしてその笑顔に、僕の心が少し温まった気がした。



数日後たったある日、僕は学校が終わった後、図書室に向かった。その途中、また駒田くんに遭遇した。駒田くんは廊下で友達と話していたが、僕が通り過ぎるとすぐに振り向いた。「お、上杉!また勉強しに図書室か?それなら今度一緒に遊ぼうぜ。」僕は一瞬行くかどうか躊躇したが、駒田くんの言っていた言葉が心のどこかで引っかかっていた。「まあ、駒田くんとならいいけど...。いつ、どこでやるの?」それに対して駒田くんはどこか嬉しそうに答える。「今週末、公園で俺の友達とバーベキューするから来いよ。楽しいぞ!」駒田くんは自信満々に言った。僕は友達がいないわけではないが、小さい頃から勉強ばかりで、遊ぶという経験が少ない駒田くんだけならまだしも駒田くんの友達と過ごすのは少し不安があった。でも、そのときに見せられた僕は駒田くんの笑顔には敵わないと思った。「うん、行ってみようかな...。」不思議と嫌な予感はしなかった。駒田くんなら大丈夫だろうとも思った。...やっぱり駒田くんはすごいな...。


バーベキューの場所は、駒田くんたち含め僕もよく集まる公園だった。

僕が公園に着くと、駒田くんはすでに仲間たちと盛り上がっていた。ヤンキーたち、バーベキュー、盛り上がっている。入りづらいなと思っていた。でも「お、颯真!来たか!楽しいぞ!」駒田くんは気さくに声をかけてくれた。「あ...お、おはよう。え...下の名前知って...。」下の名前を知ってるという事実に驚きを隠せなかった。「ん?どうした?颯真の方がダチになった感覚あるだろ?あ、颯真も理久って呼んでくれよ?」その言葉に僕の体が少しだけ熱くなった気がした。「駒田く...理久、よろしくね。」動揺を隠すために僕はできるだけ笑顔で答えた。

それから、緊張しながらも理久のバーベキューに加わった。彼の友達は明るく、地味な僕に対しても垣根なく接してくれた。次第に、僕もその雰囲気に慣れてきて、少しずつ笑顔が増えていった気がした。

バーベキューが終わりに近づいた時、理久が僕の隣に座り、楽しそうに話しかけてくる。「お前、意外と面白いじゃん。」「そうかな...?」僕は少しだけ恥ずかしくなった。理久の言葉に、何故か心が嬉しさで満たされたからだ。

「颯真はもっと俺と遊べばいいのに。優等生だからって...肩の力抜けよ。」理久は優しく僕の肩を軽く叩いてくれた。

その瞬間、僕は理久の優しさに気づいた。違う、理久を怖いヤンキーと思って壁をつくり、気づこうとしなかっただけだった。彼はただの暇つぶしで僕と遊んでるわけじゃない、僕のことを理解してくれようとしているのだと感じることができた。


バーベキューが終わった後、帰りは1人になった。寂しくはなかった。そして、最後まで笑顔で見送ってくれた理久の笑顔がどうしても頭から離れなかった。この感情は、なんだろう...。友情?違う、これは...新しい感情だ。この感情を何と表そう。僕は不思議と笑顔がこぼれた。

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